22. あなたの声は絶望よりも甘く響きました
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彼女はまず主人の元を訪れようと廊下を歩いていた。
目が覚めたことを報告するためである。
パンドラの廊下はひどく静かだった。
いつもなら構成員がせわしなく動いている執務室もガランとしている。
(……反逆者は殺されたか)
きっと正義感を持ってグレンに立ち向かった者もいたはずだ。
しかし今のこのパンドラの中でそういった者は皆姿を消していた。
(そういえば兄様起きたのかな…?)
ユラ邸でほぼ死に別れのような状態になって以来、彼とは会話をしていない。
ちょうど通り道の近くであるため、バスカヴィルと合流する前に訪れた兄の病室に足を運んだ。
「兄様、いる…?」
扉は簡単に開いた。
ベットの上はきちんと整えられ、そこに兄の姿はなかった。
「……兄様が起きたなら、ルーファス様の計画は無事に成功しますね」
彼女は憂げな表情でシーツを見つめる。
会いたい。
会いたくない。
会いたい。
「ブレイク様…」
次の瞬間、突如ドクンと嫌な気配が体を突き抜けて行った。
「ウッ!…っ…ごほっ、ごほっ…っ!」
咄嗟にシーツを掴み口元に当てる。
綺麗に整えられていたシーツに真っ赤な染みができた。
「な、なに…?ゲホッ…」
それは最後の封印の石が解かれたために起きた世界の反動なのだが、おなまーえには何が起きたのかわからなかった。
ぐしゃっと布団を掴む。
力を使っていないのにここまで体に影響が来るということは相当なガタが来ているということだ。
「……まだ…こほっ……今…は死ねない」
やらなければいけないことがあるから。
「それが終わったら……やっと…私は……」
生から解放される。
****
広間に降り、そっと柱の陰から様子を伺う。
ルーファスと青年が話している姿が見えた。
「……誰だ?」
主人ではない、まだ声変わりのしていない青年が、柱を見て声をかけて来た。
おなまーえは観念してしずしずと姿をあらわす。
胸元を開いた黒のワンピース。
肩につかないほどの金髪に赤い目。
きっとレイムが見たら誰だかわからないほどの変わりようだった。
「……目が覚めたのか」
「はい、ルーファス様。盗み聞きのような真似をして大変失礼しました、グレン様。タイミングが掴めなかったもので。」
元リーオ。
エリオットの従者だった者。
彼と自身の主人が対話を行なっていた。
「おなまーえ=ルネットでございます。ルーファス様にお仕えしております。」
しゃがみこみ、忠誠の意を示す。
濡れた髪から雫が滴り落ちる。
おなまーえの影が揺らめいた。
「……赤の騎士の契約者か」
「はい。覚えていただき光栄でございます。」
「………」
ルーファスは何も言わないが、おそらく驚き、そして怒っている。
(……いや、怒ることはないか)
バルマの扉の鍵が壊された以上、それを介して赤の騎士と契約を結んでいたおなまーえはチェインを失うはずだ。
しかしこうしておなまーえの影にはチェインが蠢いている。
それは即ち、一度切れた契約に対しおなまーえが違法契約をしたということ。
勿論グレンはそんなことは一切知らない。
「起床の報告と現状を伺うために少し歩いておりました」
「ふむ……ちょうど今、今後について話していたところなのだが……まぁとは言っても今汝ができることなど、せいぜい罪人を嘲笑うことくらいよ。」
「罪人、ですか?」
「あぁ。もう間も無く罪人もここに来るじゃろうで。」
ルーファスは扇で口元を隠した。
「……罪人、オズ=ベザリウスの処刑じゃ」
end