22. あなたの声は絶望よりも甘く響きました
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ポツンとひとり残されたおなまーえは自分の手を握っては開く。
先程ロッティは「レインズワースの鍵が壊された」と言っていた。
しかし…
「…やっぱり、いない…」
目が覚めてから、ずっと妙な喪失感を感じていた。
(ルーファス様が破壊されたのはレインズワース鍵じゃない)
あくまでレインズワースの力は流れを堰き止めただけ。
彼が壊したのはバルマの鍵だ。
その証拠におなまーえと赤の騎士との契約が切れている。
(なら…)
彼女はベットから降りて壁に立てかけてあった剣を手に取った。
このままではおなまーえはなんの役にも立たない。
それにどうせこの身体はもう長くは保たない。
(なら、やるべきことは一つだけ。)
例え残り少ない命を狭めることになったとしても、ただただ終わりの時が来るのを待つことはできない。
おなまーえはベットの影に向かって話しかけた。
「そこにいるんでしょう?赤の騎士」
「……」
「あなたともう一度契約させて」
「……」
「これが最期の契約です」
「……」
影が蠢く。
深淵のような目がこちらを覗き込んだ。
「……願…イは?」
あの懐かしい、ゾワっとする声が聞こえた。
彼と契約するのは3回目。
幼い頃に一回、ルーファスを通じて一回、そして今再び違法契約をする。
「私の願いは、――――」
深淵は瞬きをせずに願いを聞いていた。
「……良イ…ダろう」
渦がぐるりと宙を回転する。
「契約…成立…ダ」
「絶対叶えてね、フレイム」
異形はゆらゆらと消えていった。
ほうっと息を吐いた瞬間胸に激痛が走る。
「っ!…うぅっ!…ゴホッゴホッ!」
慌てて口元を押さえた。
手にべっとりと血が付着している。
体に影響が来るとはわかっていたが、苦しいものは苦しい。
床にうずくまり胸の痛みが引くのを待った。
(だいぶマシになったかな…)
10分ほど経つと痛みもずいぶんと弱くなった。
「……ああ……そういえば、シャワー入れっていってたっけ……」
おなまーえはゆらりと立ち上がってシャワーに向かう。
フラフラと誰もいないパンドラの廊下を歩く。
「……カラダ、暑い…」
火照った体を早く冷ましたく、おなまーえは脱衣所に着くなりすぐに服を脱ぎ捨てた。
下着を脱いだところで恐る恐る胸元を眺める。
「……は…はは…」
思わず乾いた笑い声が漏れてしまった。
「……3周目は、きっとルーファス様も見たことないだろうなぁ……」
違法契約者の刻印は最早模様ですらなかった。
円形の内部は黒く塗りつぶされ始めていた。
時計の針の12の刻から8の刻までは真っ黒、その先はかつての模様がチラリと見えていた。
あと3分の1針が進めば、おなまーえはアヴィスにまた落とされるということだろう。
(………また、あの暗いところに行くのはいやだなぁ……)
シャワーの水はまだ冷たかったが、おなまーえは頭を突っ込んでただ下を見つめていた。