22. あなたの声は絶望よりも甘く響きました
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Your very voice is in my heartbeat, sweeter than despair.
あなたの声は絶望よりも甘く響きました
おなまーえはゆっくりと目を開けた。
随分と昔の記憶を見ていた。
あの、全てが変わってしまった日のことを。
「目が覚めたのね」
「…ロッティ」
気だるげに視線を動かせば艶やかな桃色の髪の女性。
パンドラの一室のベットの横に彼女は腰をかけていた。
「随分とうなされてたわね」
「…ちょっと嫌なこと思い出しまして」
おなまーえは気だるげに前髪をかき上げた。
「……で、今どんな状況?」
これ以上の言及を避けるため、ざっくりとことのあらましをロッティに尋ねる。
彼女は懇切丁寧に話してくれた。
パンドラはすでにバスカヴィルの手に落ちたこと。
ルーファスは今グレン、もといリーオに事件の真相を伝えているということ。
オズとブレイクは地下で拘束されていること。
そして、レインズワースの鍵が壊されたこと。
「レインズワースの鍵?」
おなまーえは訝しげに眉をひそめた。
「えぇ。そのおかげで帽子屋も無能よ。もう帽子屋とは呼べないかしら。」
「そう…」
楽しげに笑うロッティ。
敬愛するグレンにようやく会えて嬉しいのだろう。
おなまーえは体を起こした。
後頭部がズキズキする。
布団をめくって全身の傷を確認した。
ブレイクから与えられたのは打撲ばかりで切傷は一箇所もなかった。
「貴女、帽子屋相手に奮闘したらしいじゃない。ちょっと見直したわ。」
「それは…私のチェインにいってあげてください」
おなまーえは視線を逸らしながら答えた。
「赤の騎士……お兄さんのとは随分とタイプが違うわね」
「兄様とは別に血は繋がってないから…」
「あら、そうなの」
ロッティはじっとこちらを見つめて来た。
美人に見つめられ嫌な気持ちはしないが少し戸惑う。
「な、なに…?」
「いや……貴女、前もその髪型だった?」
以前ロッティを見かけたのはユラ邸に行ったときだ。
その時は会話はおろか、遠目からしか互いを見ることはなかったが、彼女は覚えていてくれたようだ。
「いや、前は後ろでお団子にしてました」
「あー、思い出したわ。うん、どこかで見たことあると思った。……その髪随分と酷いから揃えてあげましょうか?」
「…へ?」
思わぬ申し出にキョトンとしてしまった。
「なんでしょうね…。貴女、あれよ。ちょっとだけリリィに似てるのよ。だからついほっとけなくて。」
「えぇー…あの子に…?」
「性格じゃなくて見た目の話よ」
彼女はどこから持って来たのかハサミを取り出すと、おなまーえを後ろ向きに座らせた。
シーツを適当に巻きつけると、細い金色の髪にハサミを通していく。
シャキンシャキンと小気味良い音が部屋に響いた。
「……ロッティさん、あの…」
「じっとしてて」
「はい…」
髪を整えてくれるのはありがたいが、おなまーえは困惑していた。
「貴女、確か帽子屋さんのこと好きだったわよね?」
「ぅ?」
彼女の手によって不揃いな長さだった髪は整えられていった。
ハラハラと切られた髪が落ちていく。
「えーっと……はい…改めて言われるとすっごい恥ずかしいけど」
「あ、動かないで」
おなまーえは顔をうつむかせたい気持ちだったが、髪を切っているロッティがそれを許してくれなかった。
「私たちはいずれ帽子屋を始末するつもりよ。貴女はそれを黙って見ていられるのかと思って。」
シャキンとまたひと束落ちた。
「……見ていられないって言ったら?」
おなまーえは落ちた髪束を手にとって弄る。
「今このハサミがうっかり首筋を掻っ切っても仕方ないわね」
「それは怖い」
お互いに苦笑した。
「で、どうなの?」
「わかりません」
「わかんないって、貴女」
「本当に、わからないんです」
彼の前に立つのが怖い。
きっとルーファスのことだからおなまーえの生い立ちもネタバラシしているだろう。
彼女の心は葛藤していた。
「……」
ロッティはおなまーえの複雑な感情を察してそれ以上は何も言わなかった。
シャキンと一つ大きな音がしたと思うと、ロッティはおなまーえの肩に積もっている髪を払った。
彼女は立ち上がるとぐいっと背伸びをする。
「じゃ、私は自分の仕事に戻るわ。まだ細かい毛が残ってるからシャワーでも浴びて落としなさい。」
「はーい」
「あ、そうそう、帽子屋は東の地下牢にいるから会いにいくなら止めないわよ。」
「…ありがとう」
るんるんとした足取りで彼女は去っていった。