21. 薔薇の花を集めて嘆きを歌いました
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「ねぇケビン」
5分くらいしてからだろうか、おなまーえはゆっくりと起き上がり真剣な面持ちでケビンを見つめた。
「ハナコトバって知ってる?」
「ええ、花の一つ一つに意味があるというやつでしょう?」
「うん、そう」
それだけいうとおなまーえは立ち上がって彼に近づいた。
背中に隠し持っていたそれをポンと彼の頭に乗せる。
「これあげる。……別に深い意味とかないから!」
頭に手をやると先ほどまでおなまーえが編んでいた花冠が乗せられていた。
白詰草の冠はケビンの頭には入りきらないほど小さいし、ところどころにほつれが見られる。
でもだからこそ、彼女の一生懸命な気持ちがつたわってきた。
「……クスッ、これを私に下さるのですか?」
「へ、変な意味はないから!」
わざわざ花詞について聞いたということは、白詰草の花詞を渡してくれたということ。
残念ながらそちらの方は疎く、今すぐには花の意味がわからないが、屋敷に帰れば書籍があるだろう。
「それではそろそろ帰りますか。旦那様達がお待ちかねですよ、きっと。」
「うん」
帰り仕度を始め2人は帰路につく。
辺りはもう暗くなっていた。
「あの、ケビン……」
おなまーえは意を決したように彼に話しかけた。
彼の頭には花冠が乗ったままだ。
「どうされました、お嬢様?」
「あのね、私が大人になったら、さっきのお返事聞かせてほしいの。」
「返事ですか?」
おそらく花詞のことだろうが、今すぐにはその意味がわからないためケビンは首を傾げた。
「うん。いつか、大きくなったら。」
「ええ、そうですね。考えておきましょう。」
「ほんと!?やったぁ!私きっとお嫁にも行けないと思うから、ケビンにそう言ってもらえて嬉しい!」
「……ちょっと待ってください、なぜお嬢様は嫁ぐことができないと断言するのですか?」
途端おなまーえは表情を暗くした。
「だって私、禍罪の子だし」
「っ…」
無邪気な少女の心の闇を垣間見た気がした。
箱入り娘とはいえ、外に全く出たことがないわけでは無い。
その際に心無い者に真紅の目のことを指摘されたのだろう。
「お嬢様、よく聞いてください。貴女の目はとても美しい。透き通るような赤色なので、みんなが羨ましがるんですよ。だからついつい意地悪したくなっちゃうんです。」
こんなのは詭弁だと、彼女はわかっているだろう。
だが理解者がいるというだけでおなまーえの心は救われた。
(きっと、ケビンが私のナイトなんだ…)
頬に熱がこもるのを感じた。
「ありがとう、ケビン…」
「いえ、私は特に何もしていませんよ」
「…………」
ピタッとおなまーえは足を止めた。
「どうされました?おなまーえ様」
ケビンも足を止めて彼女の顔を覗き込んだ。
もう夜だというのにその赤い顔がとてもよく見える。
「その……手…繋いで欲しいなって…」
恥じらいながら彼女は手を差し出す。
「末娘とはいえ、使用人にそのようなお戯れ言はいけません」と、いつもの彼なら返していただろう。
しかし目の前の少女は今日誕生日であり、勇気を振り絞って手を繋ぎたいと要求してきたのだ。
それを無下にするほど彼も冷徹ではない。
フッと溜息をつくと、彼は小さな手を握った。
「仕方ないですネ。屋敷が見えてきたら放してください。」
「!!……うん!」
その晴れやかな笑顔が何よりもの花畑だと思った。
このときの2人はシンクレア邸がどんな状況になっているかなど全く知る由もない。
ただ星々の輝きが帰路を穏やかに照らしていた。
****
そこからの悲惨な出来事は言うまでもないだろう。
夜だと言うのに部屋に明かりが灯っていない様子をケビンは不審に思い、慎重に屋敷に入った。
2人の目が絶望に染まっていく様子は見るに耐えない。メイド、執事、そして父親、母親、兄姉。意識のあるものは1人もいなかった。
全員が血塗れで倒れていたのだ。
調査するまでもなく、他の貴族が差し向けた賊の仕業だとすぐにわかった。
ケビンは自己嫌悪に苛まれ、まだ若かったため、幼いおなまーえを気遣う余裕などなかったのだ。
かくして二人の日常は幕を閉じた。
さて、長々と話してしまった。
ここから先は、以前ケビン=レグナードが話した通りなので割愛させて頂く。
ん?白詰草の花詞?
あぁ、たしかに少女はそんなこと言っていた。
ケビンはもうそんなこと忘れてしまったと思うがね。
なかなか花詞なぞ調べる機会はないだろうから、これを機に知っておくといい。
白詰草の花詞は「私を思って」と「約束」だ。
地味な花だが、なかなかにロマンチックな意味が込められている。
勿論彼女は両方の意味で渡したのだろうな。
そろそろおなまーえ=ルネットが目覚める時だ。
本日ここで語ったことは彼女には夢という形で再生されている。
この物語はバッドエンドで終わるが、決して希望がないわけではない。
少女の最期を、ぜひ最後まで見届けてもらいたい。
end