21. 薔薇の花を集めて嘆きを歌いました
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Gathering the roses, We sang for the grief.
薔薇の花を集めて嘆きを歌いました
昔話に付き合ってほしい。
本来ならばジャック=ベザリウスが、"ただのジャック"から英雄になるまでの話をすべきなのだと思うが、それはルーファス=バルマが語ってくれるのでここでは控えさせて頂く。
そもそもここで彼のことを語るというのも無粋な話だ。
この物語の主人公はおなまーえ=シンクレアなのだから。
故にこの章では彼女がまだ無垢だった頃の話でもするとしよう。
****
物心ついた頃から自分が他の兄弟とは違う扱いを受けていることはわかっていた。
といっても虐待などを受けたわけではない。
ただ、明らかに人前に出させてもらえていなかった。
それが自分の赤い目のせいだと知るには、さして時間はかからなかった。
「お嬢様、朝ですよ、お嬢様」
「んっ……あと…5分……」
「いやいや、それさっきも言ってましたから」
もぞもぞと毛布の中に入り込む。 今日は比較的涼しく絶好の睡眠日和だ。
「もう、流石に起きてくださいっ」
ガバァッと布団がひっぺがされた。
「…!?…!…ぃ…いやぁぁぁああ!!」
「もう9時です。今日はお花畑に行くのでしょう?」
「嫌なものはいやぁー!」
駄々をこねるおなまーえを抑えつつ、男はメイドに合図を送る。
ぴかーと陽の光が差し込んだ。
「ぅっ…まぶし…」
「お嬢様、いつもいつもメイドを困らせないでください。私が出て来なきゃいけない羽目になります。」
「……だって眠いんだもん」
「それが7歳になる人の言い分ですカ」
「…7歳!!?」
7歳という単語を聞いた途端、おなまーえの顔がぱぁっと晴れた。
勢いよく起き上がりベットから跳ね上がると見事な着地を見せる。
「そう!わたし今日7歳になるの!!」
満面の笑みで高らかと宣言する、おなまーえ=シンクレア。
そしてそれを呆れたような目で見る、ケビン=レグナード。
何気ない光景。
ただの日常。
二人の赤い目はまだ希望と喜びに満ちていた。
寝起きが悪いのは昔からだ。
メイドが起こしに来てもビクともしない。
その度にぴっちりと身支度を整えたケビンがやってきて彼女を起こすのだ。
遅い朝ごはん。
早めのお昼ご飯。
いわゆるブランチというやつを食べ、おなまーえは自力で精一杯おめかししていた。
「ねぇ!これはどう?」
「そちらも素敵ですが、先ほどのピンクの服の方がお似合いでしたよ?」
「赤がいいの!大人っぽくなりたいの!」
しかし所詮7歳のセンスと化粧。
背伸びしすぎた服は身の丈に合わず、化粧は絵に描いたようなけばけばしさ。
「あの、おなまーえお嬢様、私たちでよければお手伝いしますが…」
「いいの!わたしが一人で頑張るから!もう6歳になるんだから!」
一人でやりたい盛り。
とはいえ、そのセンスは本当に壊滅的だった。
メイド二人は顔を見合わせて苦笑した。
「お嬢様。お嬢様はいつも通りでも十分可愛らしいですよ。それでは満足できませんか?」
「だめ!私今日はシュヤクなのよ!めいいっぱい目立たなきゃ!それに!…それに…その、今日はお花畑に行くから…ケビンと…」
だんだんと語尾が小さくなっていく。
メイドは微笑ましいと頬を緩めた。
「お嬢様はケビンさんのこと大好きですものね。」
「ちがっ…違う!好きなんかじゃないし!毎朝毎朝起こしに来るし、ケビン居なかったら私もっとたくさん寝れるのに!」
「でも起こしに来てくれて嬉しいでしょう?」
「ま、まぁ…ってなに言わせるのよ!」
顔を真っ赤にしたおなまーえはそっぽを向いて腕を組んだ。
「ふふ、すみません。お嬢様が可愛らしかったもので。」
「ふんっ」
柔らかく微笑んだメイドはクローゼットの中を少し漁ると、白のワンピースを取り出した。
「これとかいかがですか?白色なら大人っぽく見えますよ?」
おなまーえはちらっとメイドの出した服を見る。
レースをあしらった可愛らしくも大人っぽいワンピース。
確かに白は花嫁、つまり主役の色。彼女の要望にはぴったりのものだった。
「……でもそれ、ピアノのはっぴょーかいでしか着ないって母様が…」
「なら今夜是非お聞かせください。なにせ今日はお嬢様が主役ですからね!」
なんだかんだおなまーえは言いくるめられその白のワンピースを着ることになった。
化粧も薄く直してもらい、ヘアセットもバッチリと決めた。
ヒールの高い靴も履いて、ちょっぴりお姫様気分だ。
「ケビン!行くよ!」
とはいえ、支度が終わり玄関で待つ彼の元に走るおなまーえは、姫は姫でもじゃじゃ馬姫だろう。
「とてもお綺麗ですよ、お嬢様」
「〜〜っ!あ、当たり前でしょ!ほら行くよ!」
「ハイハイ」
おなまーえは外に飛び出した。
「ケビン」
「はい、お任せください、旦那様」
こっそりと物陰から顔を覗かせたのはおなまーえの父、このシンクレア家の当代である。
「こんな時期にやるのも何だが、子供に罪はないからな」
「ええ、お嬢様も大変楽しみにしていらっしゃいます」
今夜はおなまーえの誕生会だ。
貴族間の争いが激化する中、あまり目立つ夜会は開かない方が良いのだが、親族同士でとなれば問題ないだろう。
最早夜会というよりは、久々の一家揃っての団欒とも言える。
「なるべく遅く帰ってくるんだぞ。上の兄が夕方ごろの到着だから、そこからの準備となると時間が足らん。」
サプライズ、というほどではないがやはり主役は最後に登場するに限る。
今日はおなまーえが大好きな料理をたくさん作ってもらう手筈になっている。
屋敷の飾り付けもしなければならないため、おなまーえにはなるべく家の外にいてもらいたいのだ。
「承知しております。日が沈んでから帰路につくように致します。」
「うむ」
「ケビーン!!まーだーー!?」
可愛らしい声が外から聞こえる。
「ハイハイ、今行きますよ!…では行って参ります、旦那様。」
「頼んだぞ」
これが主人との最後の会話になるとは、このときの彼は思いもしていなかったのである。