20. 貴方が私にキスをするたび私の心は苦痛に喘ぎました
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「あった、あったぞ!ここに隠し通路が!」
「この奥に封印の石が…!?」
ルーファスの関心はそちらに移った。
バスカヴィルの民は期待に満ちた目でその通路を塞いでいるツタをちぎった。
「ギャアぁぁ」
「わあぁっ」
突如後方から叫び声が聞こえた。
見張りの者が倒されたようだ。
相当な実力者が来たということだ。
――タッタッタッ
軽快な足音が聞こえてくる。
わかってはいたが、シェリルを攻撃したルーファスを、彼が放っておくはずがない。
(にしても早いお出ましだこと…)
現れた彼は一直線にルーファスに向かっていく。
おなまーえは剣を引き抜き、彼とルーファスの間に割って入った。
――キィン
「貴方にはがっかりですよ、バルマ公」
(おっも…!)
ブレイクの剣はその細い体に似合わず一身が重たかった。
おなまーえの腕がプルプルと震える。
(これは、受け流した方がいい、かも…!)
今は背後にルーファスを庇っていたため受け止めたが、男女の筋力差はそうそう埋められるものではない。
力では勝てないため、受け流して隙をついた方が得策だ。
一瞬力を抜きぐっと押し返すと、ブレイクは大きく跳躍して後ろに下がった。
「まさかシェリル様に刃を向けるとはネ」
「なんじゃ、そっちのことか」
「バスカヴィルと一緒にいることじゃないんですね」
おなまーえは剣を構え直した。
「パンドラは直ぐに崩れる。ならば、より強者のもとに下ることで、我はバルマを生かすのみ!」
口八丁だが、どうやら効果はあったようだ。
目つきを変えた帽子屋に対し、バスカヴィルが身構える。
しかしおなまーえは彼らを一瞥すると顎で通路の奥を示した。
「私が彼を食い止めます。先に行ってください。あなた達にとっては封印を解くのが最優先でしょう。」
おなまーえの言葉にロッティは頷いた。
ファングの復讐を望むリリィの腕を引っ張り、彼女は奥へと進んでいく。
後から来たギルバートとパンドラ構成員がロッティを追いかけていったが、おなまーえは目の前の男との睨み合いで手一杯だった。
「……筋はいいですね」
「お褒めに預かり光栄ですよ、ブレイク。」
「確かかなり前から鍛錬していましたよね?」
「えぇ、実は幼い頃から鍛えてたんです」
おなまーえはブンっと一振りした。
「パンドラの女性の中では私に勝てる人はいませんよ」
「……ヘェ」
カチャっと構え、2人は数秒見つめ合う。
といってもブレイクは目が見えないので一方的ではあるが。
「…ハァッ!」
先に地面を蹴ったのはおなまーえ。
ブレイクも遅れをとらず地面を蹴る。
大きく振るのは得策ではない。
なるべく自身の体を守るように剣を持ち、次々と繰り出される斬撃を凌いでいた。カキンカキンと甲高い音が鳴る。
(っ…!この人ほんとに目見えてないの…!?)
正直受け流すだけで精一杯。
隙なんてありゃしない。
加えて整備されていない地面は足を取られやすいためこちらのコンディションも決してよくはない。
一旦体勢を立て直すために後ろに大きく下がった。
息を整えながらおなまーえはブレイクに問いかける。
「もう、体は、大丈夫なんですか?ザークシーズ=ブレイク。動きが、鈍いようですが。」
「そういう貴女も息が上がっていますが。私が用のあるのはバルマ公ですので貴女は下がっていてくれませんカ?」
「笑止。バルマ様を守るのが私の務めです。貴方こそお下がりなさい。」
「とか言いつつ、本音は私と敵対したくないんでしょう?おなまーえさん?」
「あら、そこまで自惚れておりましたか?お生憎と、もう貴方のことなど何とも思っていないのです。」
「ならこれは何ですか?」
ブレイクは胸元からシャラっと鳴るネックレスを取り出した。
青い羽根のついたネックレス。
ユラ邸のパーティーの日におなまーえがつけていたもの。
そして彼女が床に伏しているブレイクの枕元に置いていったものだ。
「あぁそれですか。私にはもう不要なので。青い羽根の意味、教えてくれましたよね。"黙ってろ"って。そういうことですよ、部外者さん。」
おなまーえは冷めた視線を送る。
「……そうですか。ならこれはもういりませんネ。」
次の瞬間彼はおなまーえの目の前でそのネックレスと羽根を刀で切り刻んだ。
「っ…」
思わぬ彼の行動につい動揺してしまう。
それがブレイクの狙いだったのだろう。
一気に間合いを詰めると刀を弾き、おなまーえを押し倒した。
反応の遅れた彼女は身を捩り抵抗するがあっけなく力負けしてしまった。
「ぃっ…」
「そんなに大事でしたか?コレ」
「……いや、別に。ただブレイクにも、どこかの鼠さんみたいな趣味があるんだなって思っただけ。」
どこかの鼠さんも確か人形を切り刻むのが趣味だった。
メイドが気味悪がっていたなぁと現実逃避する。
その鼠と同類に扱われたブレイクはうげっと舌を出した。
「あのドブネズミと一緒にされては困りますね」
思い切り鳩尾に拳が振り落とされる。
「ガハッ…!」
意識が朦朧とする。
「まだ…っ」
(まだ、時間稼ぎできてないのに…)
「ケ……ビン……」
「!?」
おなまーえは意識を手放した。
その最後の一言に、ブレイクは目を見開く。
ルーファスがコツコツとビールを鳴らして2人に歩み寄る。
「どうした?帽子屋よ。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。」
「……貴方に聞きたいことが2.3あります」
「………」
「話してもらいましょうか、バル…」
「ああぁあぁあぁあああぁあああ!!!!」
突如辺りに悲鳴が響いた。
それは鴉の契約者、ギルバートの悲痛な叫び声だった。
「よくやったぞ、おなまーえ」
ルーファスは意識のないおなまーえに優しく労いの言葉をかけた。
彼女の時間稼ぎは十分に効果を発揮した。
「さてと……汝の疑問含め、答えあわせは他の者も交えてするとしよう。なぁ帽子屋よ。」
ルーファスはドードーを出現させた。
end