19. 幸福よ、夢の中で歌って...
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Now let my happiness sing inside of my dream...
幸福よ、夢の中で歌って...
ユラ邸の事件から3日後。
パンドラは意外にも静かであった。
あの日、泣き崩れたおなまーえは重要参考人としてパンドラに連行された。
敵の死を嘆いていたのだから裏切り等の疑いをかけられていたが、自身の身の上話(ただしルーファスと事前に打ち合わせをした嘘の情報)を伝え、彼が命を助けてくれたことがあると言うとあっさりと解放してくれた。
彼らはおなまーえのことよりオズやリーオの事情聴取に忙しいようだ。
なぜオズが事情聴取されているか。
それはユラ邸にあった封印の石が壊された時一番近くにいた人物だから。
バスカヴィルと会話もしているため、新たな情報がないか問い詰められていたのだろう。
オズの事情聴取が終わった後はリーオの番だった。
彼が事情聴取されている理由。
それは彼の主人であるエリオット=ナイトレイが自害をしたためだ。
よりにもよってリーオが気絶させられていた部屋で。
エリオットはハンプティダンプティの契約者だったのである。
彼の死は多くの人の精神に大ダメージを与えた。
おなまーえは自身の主人の帰りを迎えていた。
「おかえりなさいませ、ルーファス様」
「……おなまーえ」
いつも隣に立つはずの兄、レイムは昏睡状態である。
慣れないチェインを使ったことと、バンダースナッチの攻撃を一身に浴びたことが原因である。
だがあれだけ傷だらけでも致命傷が一つもなかったというのは、リリィに殺意がなかったことを証明していた。
書斎に入る際、おなまーえも共に入るよう指示された。
彼女は悩み事があった。
故に顔を歪めたが、ルーファスにもう一度促され部屋に入った。
「何かお話が…?」
「うむ。その前に一つ問おておかなければならぬことがある。」
「はい」
彼女はピシッと居住まいを正した。
「汝は何者じゃ?」
「そ、れは…」
その問いはまさに今おなまーえが悩んでいることだった。
自分は誰なのか。
ブレイク――ケビン=レグナードと共に過ごした時間。
ファングと共に過ごした時間。
レイムと共に過ごした時間。
ルーファスと共に過ごした時間。
シャロンと共に過ごした時間。
ギルバートと共に過ごした時間。
アリスと共に過ごした時間。
オズと共に過ごした時間。
果たして誰が本当の自分で、誰が偽の自分だったのだろう。
(違う。どれも本物なんだ。)
どれも本物。
偽物なんて、一つもない。
でも今この地に足をつけているのは……
躊躇した末、おなまーえはゆっくりと口を開いた。
「……私はバルマ家にお仕えする、おなまーえ=ルネットです」
そうだ。
シンクレア家はもう滅んだ。
ないものに固執したって、もう仕方のないことなのだ。
「なら汝はどんな内容であれ我の指示には従うな?」
「はい。それが私にできることであれば何なりと。」
ルーファスは細く美しい目でおなまーえを一瞥するとパチンと扇を閉じた。
「よい。ではまず、ここ数日我がここを離れていた件について。結論から言おう。我はバスカヴィルの民との接触に成功した。」
「バスカヴィルと……もしかして彼らを利用するのですか?」
「そうじゃ。話が早くて助かる。では聞くがよい。我の高尚な策…いや、賭けをな。」
ケラケラと笑い、ルーファスは話し出した。
バスカヴィルと協力して出来る限り迅速にパンドラを落とすこと。
その際、捕虜という形でシェリルやシャロンやブレイクを保護すること。
レインズワースの扉を一度閉じて、レイムに再び開けさせること。
力を取り戻した3人とルーファスがパンドラを再度制圧すること。
一通り聞いておなまーえはどっと汗が出てくるのを感じた。
「……本当に賭けですね。一つの誤算も許されない。」
「じゃろうて。もちろんこの通りにいくとは思うておらん。故に汝にはバスカヴィルに潜入する任を与える。」
「潜入ですか…」
「行動については制限はせん」
「それはつまり状況に応じて対応しろということですね」
「うむ」
ルーファスは立ち上がると大きなタンスをガサゴソと漁った。
「では改めて。おなまーえ。」
「はい」
彼はおなまーえに向かって細長いものを投げつけた。
「うわっ」
慌ててそれをキャッチする。それは美しい剣であった。
「それはかの国の職人に打たせたものじゃ。確か職人の名は加州……かしゅ?…かしゅう………カシューナッツだったかのぅ。」
「いや絶対違いますよね!?」
珍しく適当な主人に、普段はボケ要員のおなまーえも思わず突っ込んでしまった。
「まぁそんな些事は良い。これは餞別じゃ。」
「餞別…」
受け取ったからには必ずや期待に応えなければならない。
おなまーえの緊張が高まった。
「おなまーえ、障害になり得るものは全てこれで排除せよ」
「はっ!」
彼女は膝をつき忠誠の意を示した。
「そうじゃ、その前に。この紙をレイムに渡せ。あやつがいつ目覚めるかはわからぬが、これも賭けの一つじゃ。」
「兄様ならきっとすぐ目覚めます。ルネットの名にかけて。」
「ふむ、それが心からの言葉であればよかったのだが」
「え?」
「いや、なんでもない。ほれ、行け行け。我は忙しい。」
自分で招き入れておきながら、ルーファスはシッシッと手を振った。
おなまーえは苦笑して書斎を後にした。
加州さんごめん…
この時期ちょっとハマってたんです