18. 愛しい貴方を待ってるの
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どこまでも続く赤い血の海。
10歳の少女は周りにあるものすべてに怯えていた。
「フレイム…?」
呼びかけても自分のチェインは答えてくれない。彼はいつだっておなまーえのそばにいたというのに、この血の海にたどり着いてから一言も答えてくれない。
「お父様…?お母様……?」
年相応の幼い声で両親を呼ぶ。しかしその両親はこの少女が自らの手で殺した。残酷にもチェインへの供物として家族全員を差し出したのだ。しかし残念ながらまだ彼女にはその自覚はなかった。
「ねぇ誰かいないの…?………ねぇ!!」
歩き続けて足は鉛のように重い。叫び続けて喉は火傷のように熱い。寂しすぎて心臓が早鐘のように早く鼓動する。
「………誰か…」
そしてとうとう膝をついた。ぱしゃっと水音が鳴る。お腹が空いた。すごく眠い。
(これは、悪い夢だ)
頭がポーッとする。これはきっと悪い夢だ。目が覚めたら姉が頭を撫でてくれて、兄が呆れ顔でこちらをみてくる。部屋から飛び出せば一休みしている父と庭で摘んだ花を生けている母がいる。そうだ、これはきっと夢だ。しかし何度頬をつねってもつねっても夢から覚めることはない。
(このまま…死んじゃうのかな……)
目を閉じて俯いた。お願い、誰か私をこの悪夢から連れ出して。
「……たす、けて………」
「ミィつけタぁァァ」
全身がぞわぞわするような声が聞こえた。希望を抱いてガバッと上げた顔は、みるみる絶望に染まっていった。
「ヒッ!」
ニタァと笑う異形のソレ。絵本に出てきそうな目つきの悪いピエロの格好をしている。一点だけピエロからかけ離れた特徴はどう猛な牙。
「い、いやぁあああ!!!」
おなまーえは走り出した。何だあれは。なんだあれは。なんだあれは!!
「はっ、はっ、はっ」
本能が逃げなければと叫んでいた。これだけ走ればもう大丈夫だろうと後ろを振り向く。
「あレ?モウ追いカケっこお終い?」
「ぁっ……あぁ……!」
あんなに必死に走ったというのに、ソレはもうおなまーえの手の届く距離に迫っていた。
「ゃめ……来ないで……!!」
「へへへ、久々のゴちそうダァ……!」
ピエロが口を開き、おなまーえに牙が向けられた。むわっとした湿気が体にまとわりつき動けない。
「ぃ、いや………まだ、死にたくない……!」
もうだめだ。そう確信した瞬間。
「伏せなさい!」
「っ!?」
見知らぬ男の声が辺りに響いた。思わずおなまーえはその言葉に従ってしゃがみこむ。
ドガァ
おなまーえの背丈をゆうに超えるほどの大剣がピエロの顔を横に真っ二つにしていた。男はおなまーえとソレの間に割って入ると、今度は縦に大剣を大きくふった。
「ギャアアアアア!!」
ピエロは断末魔をあげて崩れ落ちる。どう猛な牙すらも彼の剣の前では真っ二つに割れていた。
「……こんなもんですか」
ピエロがもう動かないことを確認すると、男はこちらに振り向いた。
「危ないところでしたね。立てますか?」
おなまーえはこくこくと必死に頷き立ち上がろうとする。
べしゃん
「あ、れ…?」
足に力が入らず、立とうとしてもすぐ腰を抜かしてしまう。あれほどの恐怖は味わったことがなかった。人は本当に怖い時動けなくなるのだと初めて知った。今頃になって体が震えている。おなまーえは震えを押さえつけるように自身の体を抱きしめた。
「………」
それを見ていた男はやれやれといった表情をするとおなまーえの脇に手を入れる。
「?」
ヒョイっと軽々と持ち上げ、男は首の後ろにおなまーえの足をかけた。いわゆる肩車だ。
「ぇ……?」
「乗り心地は保証できませんが、ここで腰を抜かしているよりはマシでしょう。歩けるようになるまで我慢してください。」
久々に触れた、自分以外の温もり。
(あったかい……)
まだ私は生きている。それだけのことにどうしようもなく目頭が熱くなった。
「ぅぇ……う…」
「え゛!?そんなに嫌でしたか!?」
「ちがっ…グスッ……っ…ありがっ、どう……」
しゃくりあげながら助けてもらったお礼を述べる。単に安心したから涙したのだと伝えるために。
「ふぅ、良かったです。子供に嫌われるのは堪えますからね。」
男は察しがいいようで、おなまーえをあやすように上下に軽く揺れた。その面倒見の良さはおなまーえの知っている誰かに似ている。
「そういえばまだお名前を聞いていませんでしたね。貴女の名前を伺ってもいいですか?」
「ゔん……わたし、おなまーえ=シンクレア」
「おなまーえさんですか。私はファングと申します。よろしくお願いしますね。」
これが、彼との出会いだった。