18. 愛しい貴方を待ってるの
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Waiting for you, my love.
愛しい貴方を待ってるの
初めて彼と会ったとき、その頬の刺青がとても気になった。
なので打ち解けてきた頃に彼に質問をしてみた。
「◼︎◼︎◼︎のほっぺのアザ、どうしたの?」
「あぁ、コレですか。これはアザではなく刺青というやつです。」
「いれずみ?」
「貴女の胸にある模様と同じですよ」
幼いおなまーえの胸に彫られているのは禍々しい罪人の証。
時々胸が痛み、その模様はどんどんと増えていった。
目の前の彼は「それは罰なのです」と言った。
「……◼︎◼︎◼︎も悪いことしたの?」
「いえ、私はしていませんよ」
彼は苦笑しておなまーえの頭をそっと撫でた。
「私の…妹にあたる子ですかね。家族が頬にこの刺青を入れていて、カッコよかったので私も真似してみたんです。」
「きょーだいいたの?」
「ええ、たくさんいましたよ」
「わたしも!兄様はちょっと怖かったけど、姉様は優しかった!」
「お兄さんは厳しい方だったのですね」
まだ幼い少女の姿が、自身の妹の姿と重なり放って置けなかった。
無邪気なところはリリィにそっくりだ、と彼は笑う。
そんな彼女に、果てのないアヴィスを延々と彷徨い、ゆくゆくはチェインになる運命だなんて歩んで欲しくない。
「さて、と。私にその力が残っているかわかりませんが…幸い貴女は禍罪の子。もしかしたら外に出れるかもしれません。」
しゃがみこみ、視線を少女の高さに合わせた。
「いいですか、絶対に私から離れてはいけませんからね。強く生きることを忘れないでください」
「はーい!"ファング"先生!」
「元気が良くて結構です」
****
重い瞼を開けると見知らぬ景色が広がっていた。
起き上がり辺りを見渡す。
埃っぽい物置。
床に飛び散った血の跡。
ようやくおなまーえは自身のいる場所と状況を思い出した。
「……兄様!?」
部屋には大きく穴が開いていて、よく見ると点々と血の跡が穴の外まで続いている。
痛む身体に鞭を打って立ち上がりその跡を辿る兄の背中が見えた。
三日月ウサギの能力は仮死状態の付与。
もちろんそんな状態で傷の回復など行われないので、彼はポタポタと血を垂らしながら歩いていた。
無事でよかったと安堵し、声をかけようとした瞬間、レイムの肩越しにショッキングな出来事が起こった。
ブレイクがバスカヴィルと対峙していた。
彼は勢いよくリリィとの間合いを詰めてとどめを刺そうとしていた。
「ゲホッ…!!」
だがあと少しで彼女に届くというところで、咳き込み吐血をしてしまった。
帽子屋を使うにあたって相当無理をしたのだろう。
リリィはこれ幸いと咳き込む彼に銃を突きつけた。
あの銃は確かレイムのもの。
「ブレイク様…!!」
おなまーえは彼の名を呼ぶことしかできない。
絶体絶命のこの状況を打開したのは虫の息でおなまーえの肩に捕まっているレイムだった。
「リリィーー!!」
彼は大声でリリィの名を呼んだ。
「え…?」
その刹那、リリィは困惑の表情を浮かべた。
死んだはずの人間の声が聞こえたのだ。
銃を持つ手に迷いが生じる。
ブレイクはそれを見逃さなかった。
――ドシュッ
「――っ」
ブレイクの細い剣がリリィの体に――突き刺さらなかった。
僅かな一瞬で彼女を庇った男がいたからだ。
彼は先程おなまーえをかばってくれた人物。
「ファ…ング…?」
膝をついた彼は、最後の力を振り絞って剣を振るい、ブレイクを遠ざけた。
これ以上仲間を傷つけさせないために。
そして自分の手をじっと見つめると「そうか…これで、終われるのか」と呟いた。
「っ…」
おなまーえは声が出ない。
全身から力が抜ける。
もう頭痛は治まっているのにガンガンと耳鳴りがする。
「――っ」
『おなまーえさんはここから出たら何をしたいですか?』
赤い衣の彼はこちらを向いて尋ねてきた。
『私お菓子たくさん食べたい!ここ何もないんだもん。お腹ぺこぺこ。』
『あぁ確かにそうですね。すみません、生憎食べれそうなものは持ってなくて。』
『むぅ』
『そう膨れないでください。あまり時間はかからないように努力しますから。』
『……ずっと思ってたんだけど、なんで私のこと助けてれくれるの?』
幼いおなまーえは素直な疑問をぶつける。
ファングは困った顔をした。
『そうですねぇ…放っておけなかったというか、まぁ大した理由じゃないです。すみません。』
『…?なんで謝るの?』
『いや、先の発言は貴方に失礼だったかなと』
『失礼じゃないよ?なんで失礼だと思ったの?』
『……あぁ、なぜなぜ盛りですか……』
ずるっとレイムが肩からずり落ちた。
おなまーえが、支えていた彼の手を離したからだ。
「ぁっ…」
ザァッと砂のように消えていく彼。
妹がいると嬉しそうに話してくれた彼。
アヴィスに堕ちた自分を外の世界へと導いてくれた彼。
「っ…」
目の奥が熱くなった。
「っ…!!ファングーー!!!」
リリィ含め、バスカヴィルの民は撤退して行った。
ファングは砂となり散って行ったため、彼のいたところには最早赤い衣しか落ちていない。
それでも駆け寄らずにはいられなかった。
走っているのか這いつくばっているのか、それすらもわからないほど我を忘れて走ったのだ。
「……ファング!」
膝をつき赤い衣を手に取った。
「私!まだ貴方にお礼を言えてない!!」
衣を掴みおなまーえは泣きながら叫ぶ。
その姿にシャロンもギルも、そしてブレイクも目を丸くした。
「ファングはっ!まだ私の質問に、答えてない!」
声が震え、視界もボヤけている。
「っ、なんで!!なんで私のこと助けてくれたの!!なん、で…!!」
一同はかける言葉もなく、彼女の慟哭をただ見つめていた。