17. 私は悲しみを口ずさんでただここにいるだけ
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I'm here just singing my song of woe.
私は悲しみを口ずさんでただここにいるだけ
「兄様!!!」
レイムに襲いかかろうとする黒い犬を見て、おなまーえは自分のチェインを起動させた。
彼女はもっと早くに駆けつけなかったことをひどく後悔した。
――事は10分前に遡る。
フローライトの血縁の男と別れた後、現在の状況を知るためにシャロンの元を訪れた。
そこで彼女から聞かされたのは、ユラ邸内でパンドラ構成員が首無し死体となって発見されたというニュース。
『…っ!』
おなまーえの動揺を感じとったのだろう。
シャロンはいつも通りのトーンのまま話し出す。
『大丈夫です。レイムさんの体がその現場にあったわけではないですから。』
『……でも兄が危険なことには変わりないのでしょう?』
『そ、それは…そうですけれど…』
モジモジとしたままはっきりと発言しない彼女に苛立った。
『っ…私、兄様を探してきます!』
『え!?お待ちください、おなまーえさん!!』
シャロンの呼び声を背におなまーえは居てもたってもいられず走り出した。
スカートの裾を掴み、全速力で兄の向かった方向に進み
――今に至る。
レイムを見つけた部屋には黒い犬と幼い少女がいた。
「お前は…レイムの友達か?」
無垢な瞳がこちらに問いかけてくる。
しかし油断ならない。
無垢ゆえに微かな狂気が感じられた。
「いや…私はレイムの妹だ」
「妹…」
慎重に言葉を選んで回答する。
兄を連れてここから出るためにはどうするべきか。
おなまーえは頭の中で何通りもの策を巡らせた。
「妹という事は、家族というやつだな!」
「…へ?」
パァと明るい笑顔で少女はこちらを見てくる。
無邪気、という言葉が正しいだろうか。
なんだか調子が狂う。
「おなまーえ、無事だったか」
「えっと…兄様こそ…」
兄と少女は楽しそうにお話をしていた。
襲われているように見えたのは気のせいだった。
ところで、目の前の少女は一体何者なのだろうか。
じっと少女を観察する。
(……赤い…マント…?)
赤いマントは確かバスカヴィルの民の証だったはず。
――ズキン
頭が痛くなった。
『◼︎◼︎◼︎はここ…出…?』
『…は…から出…。…は、もう…と……して……ませ…よ。』
光に飛び込む前、確かにそんな会話をした。
赤いマントの彼。
……光に飛び込んだ事などあっただろうか?
「ねぇ!」
少女の呼び声で我を取り戻す。
「おまえの名前は!」
「…なま、え?」
「そうだ!私はリリィ。こっちはバンダースナッチだ!」
明るく自己紹介してくる少女に調子が狂う。
まぁ名乗るくらいならいいか、と素直に「おなまーえ=ルネット」と伝えた。
「おなまーえ!おなまーえか!良い名だ!」
「あ、ありが、とう?」
「おまえも能無しなのか?」
「え、能無し?」
話についていけない。
なんだというのだ。
まぁ確かにおなまーえのチェインの能力は他のチェインの能力の無効化だ。
あまり人に言うものでもないのでよく「能無しチェイン」だの「トランプに負ける騎士」だの好き放題言われてはいる。
「うーん、まぁ、そう言われた事はある、かな?」
「おおおお!!それならおまえも仲間だ!」
少女はキラキラとした目でこちらを見てきた。
私が無能だとそんなに嬉しいのだろうか?
こんな少女がバスカヴィルの民だとは信じがたい。
兄もそう思って――
しかし次の瞬間、おなまーえの顔は青ざめる。
――ドンッ
少女の気がおなまーえに向いた隙に、レイムがその銃口を少女の頭に当て撃ち抜いた。
「っ!」
無慈悲な行動にひゅっと息を飲む。
力なく倒れる少女。
確かに兄は冷徹になれる人だとは思っていたが、こうも潔いと圧倒されてしまう。
「…兄さ」
だが、おなまーえの言葉は続かなかった。
――ピシィッ
「え?」
ほんの一瞬ののち兄の体から血が吹き出た。
何が起きたのかはわからないが、おなまーえは臨戦態勢をとる。
「あぁ、痛い。痛いよレイム。」
脳天を撃ち抜かれたと言うのにリリィは何事もなかったかのように立ち上がった。