16. 貴方の最後の言葉を想って紅い涙を流す
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「私の母は政略結婚で望まぬ相手と結ばれました。もう母はこの世にはいないのですが、生前はよく床に伏して泣いておりました。父のことは勿論尊敬しております。けれど、母の気持ちも私は尊重したいと思っているんです。」
望まぬ結婚は特別珍しいことでもない。
だが当人たちの意見を無視した政略結婚は往々にして夫婦間に亀裂や嫁の心に大きな傷をもたらしていた。
「素敵な、お母様だったのですね。」
「ええ。これも母の形見なんです。」
そういって男は耳元のイヤリングを示した。
(……あれ?)
どこかで見たことのあるイヤリングだ。
「……綺麗な石ですね。なんて名前の石なんですか?」
「そんなに珍しい石ではないのですが、フローライトです。」
「フロー、ライト…!」
フローライトといえば、おなまーえが幼い頃一度遊びに行った貴族の名前。
禍罪の子を偏見の目で見ないでくれた唯一の家。
当時一緒に遊んだ女の子はおなまーえとそう年は変わらなかったはず。
「母の旧姓がフローライトでして、もう祖父の代で畳んだ旧家なのですが、これだけはと代々受け継いできているそうです。」
そうか、50年も経っていたらそうなるのか。おそらく彼の母親が、おなまーえとかつて一緒に遊んでいた少女。
そしてそれをよく眺めていたのは彼の言う祖父だろう。
「……お祖父様はご健在なのですか?」
「ええ。女々しいと言われるのですが、花を愛でるのが趣味のようで、毎日朝早くから庭の手入れをしていますよ。」
それを聞いて嬉しい気持ちでいっぱいになった。
花を愛でていたフローライト家はちっとも変わっていないのだ。
「……どうかされましたか?」
「いえ、なんでもないです。……少し…懐かしい気持ちになっただけです。」
****
『おなまーえちゃんは綺麗なお目目をしているのね』
彼女に初めてそう言われた時、嫌味で言われたのかとショックを受けた。
赤い目は禍罪の証。
家族は庇ってくれたが、外に出れば多くの人がおなまーえのことを穢らわしいものを見る目で見た。
『ああ、違うの。安心して。』
ショックが表情に出ていたのだろう、彼女は慌てて弁明をした。
『禍罪だとかそういうのは関係ないの。ただ、本当に綺麗だから、もっと見ていたいなって。』
彼女はそう言い、おなまーえの頭を優しく持ち上げる。真紅の瞳に吸い込まれんばかりにじっと見つめた。
『うん、綺麗。だから自信を持って、ね?』