2月5日
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2月5日
衛宮士郎の帰宅時刻は大体把握している。
ここ数日冬木では不審な事件(といっても全て聖杯戦争絡みだが)が発生していることもあって、下校時刻はかなり繰り上がっている。
夕陽に照らされた校門をおなまーえは監視する。
水晶越しではなく、自らの足を運び、柱の陰に隠れている。
『嬢ちゃん』
『っ…なに、ランサー』
思念でランサーから連絡が来た。
昨夜から彼とはまともに顔合わせできていないのだ。
『こりゃたまげるぜ。サーヴァントがサーヴァントを呼びやがった。』
「は!?」
ランサーの報告に、つい口を開いてしまう。
突然大声を出した不審人物に、下校中の生徒たちも訝しげにおなまーえをみている。
「あ…」
おなまーえはさっと身を翻して校門から離れる。
『ど、どういうこと?』
『キャスターがアサシンを召喚したってことだ』
『そんなことできるの?』
『できないとは言い切れない。とはいえ不完全な召喚らしい。アサシンは柳洞寺の門から離れられないと見た。』
『山門を触媒に召喚したのか』
『ああ。今そいつと戦ってる。』
『無茶はしないで。令呪が効いてるんだから、引き際は間違えないでね。』
『へいへい』
新しいサーヴァントの登場だ。
キャスターの召喚したアサシン。
柳洞寺の山門から離れられないのが彼の欠点であり、利点でもある。
キャスターの構える神殿を守るにはうってつけだろう。
ますますキャスターを逃したことを後悔した。
「――っ!ゴホッ、ゴホッ…!」
突然おなまーえはむせた。
体に力が入らず、膝から崩れ落ちる。
(こんな時に…!)
衛宮士郎がいつ出てくるか見張ってなきゃいけないのに、こんな時に限って発作が起きてしまった。
(っ、ランサーに連絡…あぁ、でも彼は今戦ってくれてるし…)
校門前から離れてしまったが、ここは通学路。
誰かしらに遭遇したら救急車を呼ばれてしまう。
(それじゃあ聖杯戦争に戻れなくなる)
おなまーえは歯を食いしばった。
「おい、あんた大丈夫か!」
「っ――!」
声をかけられた。
優しい、優しい青年の声。
風の強い夕暮れ。
雲すらさらわれて、オレンジ色の光が鮮やかな髪色を照らす。
発作で倒れ込んでいたおなまーえを助けてくれようと駆け寄ったのは衛宮士郎だった。
「――なん…で」
よりによってなんで彼なのだ。
私はあなたを殺そうとしたのに。
「救急車呼ぶか?」
「い、いい…ケホッ」
いつのまにか体が楽になってきた。
少年に治癒魔術が(それどころか他の魔術も)使えないのはすでに知っている。
何か施しでも受けているのだろうか。
「そうか。なら立てるか?」
「うん。ありがとう。」
差し伸べられた手につかまって立ち上がる。
「発作みたいな感じだったが…」
「大丈夫、慣れてるから」
「慣れとかじゃなくてな…」
おなまーえはにっこりと笑った。
これ以上は詮索するなという意味を込めて。
「お見苦しいところをお見せしちゃったけど、はじめまして。あなたが衛宮士郎くん、だね。」
「……なんでオレの名前を知ってるんだ?もしかしてお前も聖杯戦争の関係者か。」
衛宮士郎は身構えた。
おなまーえは両手を広げて敵意がないことを示す。
「うん。本当は不意打ちで衛宮くんの右腕を切り落とそうかと思ったんだけど、助けてもらっちゃったから今日はやめておく。」
「な、物騒なこと言うなよ!」
「今日は戦う気はないって。衛宮くんのおうちこっちでしょ。一緒に帰ろうよ。あ、遠坂さんは?」
いつも一緒にいる遠坂凛の姿が見当たらない。
「あいつのことも知ってるのか」
「そりゃあずっとあなたたちのこと見てたもん」
「…あいつなら先に帰った」
「そっか。あの子と一度お話ししてみたかったんだけど。」
おなまーえは士郎の家に向かって歩き出した。
彼は半ば諦めたように隣を歩いてくれる。
「最初に聞いておく。キャスターのマスターじゃないよな?」
「うん、違うよ。私は別のサーヴァントのマスター。衛宮くんの知ってるであろうサーヴァントから消去法していくと、ランサーかライダーかアサシンってとこかな。」
「ライダーのマスターならさっき判明した」
「え、嘘!誰!?」
「でも言わないって約束してるから、アンタに教えることはできない」
「律儀だねぇ」
10センチ以上の身長差があるにも関わらず、おなまーえが無理なく歩けているのは彼が歩調を合わせてくれているからだ。
そもそも歩みの遅いおなまーえを振り切るのは簡単だ。
それをしないというのは、やはり彼はどうしようもないお人好しらしい。