2月4日
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2月4日
『新都でのガス爆発は依然原因不明とされ、警察からも詳しい説明はなく…』
このホテルに来て初めてテレビをつけてみた。
昨日、遠坂凛(名前は電話帳で調べた)の言っていたガス爆発とはこれのことだろう。
「原因不明ってなると、やっぱり聖杯戦争がらみだよね」
「ま、その線が濃いだろうな」
映像越しには魔力濃度まではわからないが、確かに魔術の痕跡がある。
間違いなく聖杯戦争参加者の仕業だ。
「学校に魂喰いの印を仕掛けたのとは別だね。でもなんだろう。どっかでみたことある気がするんだよなぁ。」
「奇遇だな。オレもだ。」
「ランサーが戦ったのって、バーサーカーとアーチャーとセイバーと…」
「おいおい、記念すべき初戦の相手を忘れてるぜ」
「…キャスター?」
「だな」
「あんなボロボロだったのに?いや、それ以前にマスターもいなかったのに?」
キャスターはランサーが最初に戦った相手だ。
マスターを自分の手で焼いた彼女は、命からがら山に逃げ込み、ランサーの令呪のお陰で見逃された。
あの手負いの状態では当然生きていられないと、そう思っていたのに。
「あの場を凌ぐだけの魔力が確保できれば、あの女ならやりかねない手口だな」
「無辜の民から生命力を吸い上げてると?」
「オレはそう見ている」
私たちが見逃したキャスターが仮にまだ現界していて、こんなことをしているのだとしたら目覚めが悪い。
おなまーえは水晶玉と冬木の地図を取り出した。
「キャスターを見逃したのはどの辺?」
「えーっと、こっちが北か。なら山の中でっと……ここだな。」
彼の細い指が山の中腹を指差した。
おなまーえはある1つの仮説を思いつく。
「――ランサー」
「ああ、オレも同じこと考えてた」
2人の視線は地図上の同じ場所を見つめていた。
「「――柳洞寺」」
嫌な予想が的中しそうだ。
もし仮にあの場に通りかかった人を口八丁で丸め込んで、現界できるだけの魔力を得られれば、柳洞寺は体を休める場所にはうってつけだ。
ランサーが最後にキャスターを見たところからも、この寺はそう遠くはない。
おなまーえは、先日柳洞寺に仕掛けた印から寺の様子を観察しようと手をかざした。
魔力を通して、数多ある魔法陣から柳洞寺の座標のものを引っ張り出す。
――バチィッ
「っ!!」
だがそれは結界のようなものに阻まれてしまった。
――ピシッ
水晶に亀裂が入る。
「どうした!?」
「……攻撃された。柳洞寺はもうとっくにキャスターの陣地にされてる。」
おなまーえの魔法陣は消されたり無効化されたりすると、彼女に通知が来るようなシステムになっている。
穂群原学園の魂喰いの呪刻のときがそうだった。
あれは術者のマスターが未熟だったため、おなまーえに感知されてしまったが、キャスターレベルの上級の魔導師なら彼女に感知させないまま、己の結界を張ることも可能だ。
「迂闊に覗き見はさせてくれないみたい。それに…」
――パリーン
ホテルの窓ガラスが割れた。
入ってきたのは武器を持った骸骨のような化け物。
「こっちの居場所がバレちゃった」
逆探知されてしまい、おなまーえの貼った簡易的な結界なんてすぐに突破されてしまった。
「招かれざる客ってやつだな」
「玄関から入ってこない時点で不法侵入だよ」
ジリジリと化け物が迫ってくる。
「こいつらの素材って竜の牙かな……できたらサンプルとして回収したいんだけど」
「本気で言ってるんだったら悪趣味だぞ」
「高く売れるのは本当だよ」
竜牙兵が襲いかかってきた。
ランサーが槍を一振りし、前列の数体を薙ぎ払う。
「ランサー」
「……ふん」
おなまーえはちらっと彼とベランダに視線を送った。
ランサーはその場からいなくなる。
「あら?あなたのサーヴァント、戦わないのかしら?」
どこからともなく、官能的な声が聞こえた。
「それとも見捨てられた?」
「こんにちは。お久しぶりだね、キャスター。」
部屋の隅が歪み、フードを目深にかぶった女性が現れた。
彼女の口角は上機嫌に上がっている。
「ええ、本当に。柳洞寺に陣を構えるときに魔法陣を見つけてすぐにピンときたわ。あなたならいつかここにアクセスしてくるってね。」
「さすが大魔術師。生前はさぞ高名な魔法使いだったんじゃないの?」
「うふふふ、おだてても無駄よ。あの時の借りをたっぷりと返してあげるんだから。」
竜牙兵がまた湧いてくる。
「新しいマスターでも見つけたの?それとも、町の人たちから生命力でも吸い上げている?」
「さぁ?なんのことかしら」
わざとらしくキャスターはクスクスと笑った。
「今日はね、借りを返すためにここにきたのだけれど、あなた次第ではそれをチャラにしてあげてもいいわ。」
「交渉?」
「ええ。あの武骨なランサーのマスターだからさぞデリカシーのない奴って思っていたんだけれど、想像よりずっと可愛らしいお嬢さんだったんですもの。あなたが望めば私の弟子にしてあげてもよくってよ。」
「弟子?
「あら、その様子だと受ける気はないみたいね」
「ええ。生憎と、寿命が残りわずかなものでね。」
かつての大魔術師に教えを請うことができるなんて夢のような提案だ。
もしおなまーえの体が健康であればのっていたかもしれない。
「寿命?……あぁ、あなた病魔に侵されているのね。」
「ええ」
「聖杯にかける望みは、さしずめ『生き永らえたい』かしら?」
「残念。私の望みは――」
おなまーえは地面を蹴った。
「あなたなんかにはわからないでしょうね!」
ガントで進行方向の竜牙兵を打ち飛ばす。
見様見真似で、足に身体強化の魔術をかけた。
おなまーえはまっすぐにベランダに向かい、割れた窓から体を宙に放り出す。
ヒュッと心臓が軽くなる。
「なっ!」
ここは地上21階。
まさか飛び降りるとは思っていなかったようで、キャスターは動揺を見せる。
自由落下するおなまーえはギュッと唇を噛みしめる。
「来て、ランサー!」
「任せな!」
ホテルの入り口で待ち構えていたランサーがタンっと軽く地面を蹴りおなまーえを抱きとめる。
「キャスター、この借りは必ず返すから!」
せっかくいいホテルを予約してもらったというのに、これじゃあ宿選びからやり直しだ。
どこかに身を落ち着けて結界も貼らなくてはならない。
「…………」
キャスターは必要以上には追いかけてくることはなかった。