2月3日
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商店街は相変わらず賑やかである。
井戸端会議の声、セールを知らせる声、客を呼び止める声。
ここは声に満ち溢れている。
「試供品でーす」
綺麗なお姉さんがミントと書かれた試供品を配っていた。
おなまーえにも差し出され、つい受け取ってしまう。
後ろのランサーはわざわざ女性に寄って受け取っていた。
数メートル進んだところで彼に話しかける。
「ランサー、食べたかったの?」
「いーや。綺麗なおねーちゃんが配ってるとついつい貰っちまうんだよなー。」
――ムッ
その言葉にいかにも形容しがたい感情が湧いた。
抽象的な表現なら、モヤモヤ、どろっと、ずきずきと。
「……悪かったね。綺麗なお姉さんがマスターじゃなくて。」
おなまーえはツンとした態度をとる。
あのお姉さんみたいな大人の色気を、おなまーえは持ち合わせていない。
顔は幼いしスタイルはガリガリだ。
張り合おうという気はないが、そんなことを言われるとこちらも女子として黙ってはいられない。
「ん?何言ってんだ?嬢ちゃんの方がずっと別嬪だろ。」
ところがランサーは呆気からんと答えた。
「なっ」
「今回の聖杯戦争は役得だと思ってるぜ?こんな可愛い女を背に戦えるんだからよ。」
何を言いだすのだ、このサーヴァントは。
いや、最初に嫉妬したのはおなまーえだったか。
そんな自分を恥じて、おなまーえは赤面する。
決して別嬪などと言われて照れているわけではない。
決して。
とはいえ、そんなふうに思ってくれていたなんて少し嬉しい。
おなまーえは頬が緩んだ。
「ま、肉付きはあっちの方がタイプだったけどな」
――ピシッ
「……言ったな?」
彼の言葉に少しでも感情を揺さぶられたことを後悔した。
おなまーえは拳を握り、細い腕を振るう。
「よっと」
ランサーはそれを軽々避ける。
「お、わりぃわりぃ、怒らせちまったか?」
「ううん。怒ってはないよ。でもランサー、そこに直りなさい。」
おなまーえの笑顔がいっそう引きつった。
「いやここ人前…」
「そこに直りなさい!!」
今度は拳を開き、手のひらを振るった。
――ペチンッ
乾いた音が冬の空に響いた。
****
「あの子、遠坂って言ってたでしょ」
「ソウデスネ」
ランサーの右頬には赤い紅葉がくっきりとつけられている。
2人は商店街を抜け、川を渡り、今度は高級な家が乱立するエリアに来た。
「冬木には魔術の家系が2つあるの。そのうちのひとつがここ、遠坂の家。」
目の前には壮大なお屋敷が建っている。
煉瓦造りのそれはイギリスの歴史と情緒を感じさせ、広い庭は権力者のゆとりを感じた。
「特に遠坂は冬木の管理者と言われていて、ここも霊脈の1つよ」
屋敷を覆うように貼られた結界は入ろうとするものを拒み、逆に入ったものを捉える類のもの。
迂闊に触ってはいけない。
前回の聖杯戦争でも遠坂は参戦してたと言峰から聞いていたので、今回もいるだろうとは思っていたが、自分とそう変わらない年の女の子だとは思わなかった。
「可能なら協力関係になりたかったけど、昨日の様子だと無理だね」
「戦闘のことか?手を組むには妥当だが、あのサーヴァントとは反りがあわねぇぞ」
「ちがうよ、刻印のことだよ。あんな非人道的なことをする人とは組みたくないって話。」
いかに合法的な手段とはいえ、魂喰いなんて悪趣味すぎる。
「……ははん」
ランサーは面白そうに笑った。
「嬢ちゃん、おまえさん1つ勘違いをしている」
「え?」
「あの刻印をしたのはアーチャーでも、ましてやそのマスターでもない。あいつらはオレらと同じ。ただ異常を感じて見に来た野次馬だ。」
「うそ…」
「うそじゃねぇ。あのマスターもそういう手法は好まなそうな性格してるしな。」
「……ランサー、いつから気づいていた?」
「いつも何も、最初からあいつらじゃねぇのはわかってたよ」
最初から。
見抜いていなかったのはおなまーえだけ。
きっと言峰もわかっていだろう。
おなまーえが勘違いしているのも込みで、あいつはきっと楽しんでいた。
「……ランサー…」
羞恥心と怒りを混ぜたような、言いようのないこの感情の行き先はひとつ。
「あんたってやつは…」
おなまーえは震える右手を振り上げる。
「なんでもっと早く言ってくれなかったのー!」
「ちょ、早まるな!」
――ペッチーン
本日2度目の音が高級住宅街に響いた。
《2月3日 おわ…
「しんっじらんない!わかってたなら教えてくれても良かったのに!」
「いてて、嬢ちゃんも分かり切ってることかと」
「あんたと違って嗅覚が優れてるわけじゃないの!このケダモノー!女たらし!」
「語弊があるにもほどがある!」
――《2月3日 終》