2月2日
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……おはよう、ランサー」
「おう。目ぇ覚めたか。」
目を開けるとランサーの顔がドアップで映っていた。
おなまーえは彼の首に手を回している状態。
「これどういう状況?」
「言っとくが、嬢ちゃんが離してくれなかったんだ」
「…………」
「嬢ちゃんあのあと倒れて、でも病院は嫌だっつーから、そのまま帰ってきたんだよ」
2月2日
バーサーカー戦のあと、安堵からかおなまーえは倒れた。
ランサーは病院に連れて行こうとしたが、おなまーえはうわごとでそれを拒否。
仕方なくホテルまで連れ帰ってくれたというわけだ。
腕をはなし、体を起こす。
「面倒をかけたみたいでごめん」
今回はアインツベルンが見逃してくれて、ランサーがいてくれたから無事だったものを、真冬の深夜に倒れていたら間違いなく死んでいただろう。
今後は気をつけなければ。
「あれだな。嬢ちゃん、ちと体弱すぎやしねーか?」
やはり勘付かれてしまったか。
「キャスター戦の時も調子悪かっただろ」
「わかるの?」
「マスターのことなら送られてくる魔力でわかる」
「なによ、プライバシーの侵害はそっちじゃない」
遠見の魔術なんてかわいいものではないか。
白湯を入れておなまーえは薬を飲み干す。
「その体といい薬といい、嬢ちゃんの望みと関係あるのか?」
「あるね」
「じゃあ聞かせろ」
ランサーはあぐらをかいた。
「……はぁ」
いつかは話さないといけないとは思っていた。
こうして切り出す機会が与えられたこと自体は幸なことだ。
「じゃあまずは私の身の上話から。長くなるから、また遅めの朝ごはんでも食べながら聞いて。」
彼女はルームサービスに電話をかけると、柔らかい椅子に腰をかけた。
****
物心ついた頃からおなまーえの世界は六畳間の一室だけだった。
清潔な匂いと乾いた毛布。
白で統一された部屋は無機質で、訪れるのは看護師と母だけだった。
父は生まれてくる前から既にいなかった。
母も結局おなまーえが10の時に亡くなった。
『あなたは偉大な魔術師の子供なのよ』と母はよく言っていた。
一度、どのくらい偉大なのか聞いたことがある。
この病院の院長より偉大なのか、テレビで見たアメリカの大統領より偉大なのか、絵本で読んだ王様より偉大なのか。
――おなまーえの体を治せるくらい偉大なのか。
母は答えてくれなかった。
今は世界を渡り歩いているため、おそらく会うこともないだろうと言った。
おなまーえは落胆した。
父親というものはこうも他人なのかと。
1人残された母が不憫でならなかった。
とはいえ、彼も魔術師の父親らしいことはしてくれたようだ。
おなまーえに魔術刻印を少し分け与えてくれたという。
小指の先ほどだけ。
それでも魔術師としては十分にやっていけると彼は言って去っていったそうだ。
「へぇ、小指の先ねぇ。にしちゃ、そんじょそこらの魔術師よりはずっと魔力を蓄えてると思うぜ。」
「うん。だからその辺がやっぱり偉大だったのかなって思う。人としては最低だけど。」
ただの一度も父親の顔は見たことがない。
きっとその男の中ではおなまーえなんて取るに足らない存在なのだろう。
「んで、病弱なおまえさんが望むのは健康な体か?それとも父親に会いたいってか?」
「まぁ普通そうなるよね」
今の話の流れだとランサーの推測は最もだろう。
事実、一度は健康な体を望んだ。
普通に生活して、学校に行って、いっそ時計塔で魔術を学びたいとも思った。
「でも違う」
それは私の本当に欲しいものではない。
自分が望むのはもっと素朴で当たり前のもの。
「私の望みは――」
おなまーえが言いかけたそのとき、ピンッと体に何かが走った。
――バッ
「どうした?」
「……柳洞寺の近くの学校」
「あったな」
「あそこから異常を感じ取った」
昨夜仕掛けた魔法陣が何者かに無効にされた。
「崩されたのか、それ以上の魔法陣や結界で上書きされたのかはわからないけど、でも確実に何か起きた」
「じゃあちょっくら見てくっか」
「いいの?」
「気になるんだろ?お前さんは休んでろ。ここからでも指示出しはできるだろうし、本当に敵がいるのなら嬢ちゃんが行くのはまずい」
「…ありがとう」
ランサーはそう言うと霊体化して、ベランダから学校の方に飛んで行った。
途端、ホテルの食事が味気ないものに変わる。
「……望み、言い損ねちゃった」
タイミングが悪かった。
まぁ身の上話を伝えられただけでも、気持ちが少し晴れた。
今日はいい日になりそうだ。
このとき、おなまーえはまだ聖杯戦争の恐ろしさを実感していなかったのである。