2月1日
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舗装された道路が見えてきた。
障害物がないのはこちらにとっても有利だが、追いつかれたらあの打撃をもろに食らうことになる。
森を抜ける前になんとしてでも足止めをしたい。
おなまーえは彼を見上げた。
「ランサー」
「――いいのか?」
「うん、お願い」
「……はっ」
彼は狂気に満ちた目で笑うとおなまーえをアスファルトの方に放り投げた。
おなまーえは受け身を取り、一回転して立ち上がる。
彼の広い背中に注げるだけ魔力を送った。
「んじゃまぁ、ぶちかますかねぇ!」
ランサーの槍に魔力が充填されていく。
腰を低く落として、槍の先は地面すれすれまで降ろされる。
紅い槍がぼんやりと光ったような気がした。
巨体が迫ってくる。
盛り上がった筋肉と獣のような咆哮が真っ直ぐこちらに向かってくる。
「その心臓貰い受ける!」
「◼︎◼︎◼︎◼︎――!」
ランサーが血を蹴った。
迫り来る黒と青がぶつかる刹那、彼はバーサーカーの足元に槍を繰り出した。
それはさながらコマ送りのようでいて、一瞬の出来事だった。
「――
ランサーの紅い槍はバーサーカーの足に穿たれたはずなのに、気がつけばそれはバーサーカーの心臓に突き刺さった。
さながら蛇の如く、軌道が変わったのだ。
――ビシィッ
細い閃光が霊基の核を突く。
「――――!」
――ドォン
砂煙が舞う。
巨体は膝をついた。
ランサー、クー・フーリンの宝具『刺し穿つ 死棘の槍』。
これは対人に特化した技で、因果逆転の呪いを持っている。
因果逆転とは、「心臓に槍が命中した」という結果をつくってから「槍を放つ」という原因をもたらし、必殺必中の一撃を可能とするという意味だ。
つまり彼の宝具は必中。
幸運値B+以上でないとまず避けることはできない。
「やった…」
おなまーえは腰を抜かして、地面に膝をついた。
辺りはしんと静まり返っている。
先程までのバーサーカーの吠え声や足音なんて、夢だったのではないかと思うほどの静けさだ。
イリヤスフィールの声も聞こえない。
バーサーカーの目からは生気が消え、彼は完全に沈黙した。
「ランサー、ありがとう」
腰を抜かしたままおなまーえは礼を述べる。
「……礼を言うのはまだ早いぜ、嬢ちゃん」
――ギシッ
沈黙したはずのバーサーカーの手が動きだした。
「え…!?」
なぜ?
完全に今のは死んでいた。
防いだとか、回避しただとかそんなものではない。
完全に倒していた。
「今のはちょっとびっくりしたわ。因果逆転の呪いね。」
楽しげな声が響く。
イリヤスフィールのご明察通り、あれは呪い。
一度穿てば必ず心臓を貫く死の槍。
「今のは確実に死んでた……でも、生き返った?」
不死を謳う英霊や、無敵を誇る英霊はごまんといる。
だがよもや本当に死から蘇る英霊など、おなまーえはただの1人しか知らなかった。
おそらく現代において、一般人でもその名を知らぬ者はいないだろう。
「ギリシャ英雄、ヘラクレス…!?」
「――うふふふ」
その笑みは肯定の意を示していた。
曰く、ヘラクレスは十二の難行を乗り越え、その末に神の座に迎えられたという。
まさに不撓不屈、人間の忍耐の究極の形である。
「逸話を宝具にしたってわけか」
「そうよ。私のバーサーカーは世界一強いんだから。」
「くっ…」
子供のような叫びではあるが、事実今のままのランサーではヘラクレスに勝てない。
サーヴァントの実力でならば互角に渡り合えるだろうが、おなまーえのマスターとしての力が弱いのだ。
「……ずらかるぞ、嬢ちゃん」
「でもあの子が見逃してくれるか」
ざぁっと風が吹いた。
「――いいわ。戻りなさい、バーサーカー。」
「どういうつもり?」
「今回はさっきの宝具に免じて見逃してあげる。まだサーヴァントも全部揃ってないし。でも次は無いと思いなさい。未熟なマスターさん。」
「……っ」
バーサーカーがずしりずしりと森の奥に消えていく。
ランサーは最後まで臨戦態勢を解かなかった。
「は…」
――ドッドッドッドッ
心臓の音が止まらない。
半神に襲われた死の恐怖と慣れない運動、双方が合わさっておなまーえの心臓は壊れるんじゃないかと思うくらい早打ちした。
「おい、嬢ちゃん大丈夫か!?」
「っ…ぁ……ぐっ……」
意識が朦朧としてくる。
「ラン…サー…」
心配しないでと言いたくて顔を上げた。
彼女の意識はそこで途絶えた。
《2月1日 終》