1月30日
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1月30日
「本当に乗らなくていいのか?」
「うん。協力関係は魅力的だけど、こんな拙い文章の書き方しかできないようなマスターに貸す義理もない。」
言峰からもらった手紙は、それはそれは酷い内容だった。
人を見下した態度。
協定内容も到底納得できない条件だった。
厚顔無恥が形になったような手紙に、おなまーえもご立腹である。
とはいえ、初めての戦闘。
おなまーえは体の震えが止まらなかった。
「……嬢ちゃん」
見兼ねたランサーが声をかける。
「なに?」
「ゲッシュって知ってるか」
「えっと、確かケルトの戦士が交わす、誓いとか制約とかいう…」
「そーそー。そのゲッシュが多ければ多いほど戦士としての格が上がるんだが……」
ランサーは何かを思い出したように楽しそうに笑う。
「ランサー?」
「すまねぇ、思い出し笑いしちまった。ま、そこでだ、嬢ちゃん。」
「ん?」
「ひとつ、この俺と交わしちゃくれねぇか?」
「よくわからないけど、いいよ」
「"嬢ちゃんの願いを成就させずにオレが死んではいけない"。それがオレらが今から交わすゲッシュだ。」
「私は構わないけど、そんなの気軽にホイホイ交わしていいものなの?」
「ゲッシュが厳しければ厳しいほど、戦士は力が上がる。ま、ケルト流の令呪みたいなもんだな。」
「なるほど…」
制約をつけるほどに、ケルトの英雄は神から恩恵を受けていたのだろう。
だがその分ゲッシュの誓いを破った時の反動は凄まじいものだ。
古来、英雄の破滅はゲッシュに反する事で迎えられたと聞く。
目の前の男も、女王メイヴにゲッシュを利用した罠にかけられたはずである。
おなまーえは恐る恐る口を開く。
「……それがランサー自身の破滅に繋がったりしない?」
「よく知ってんな。ゲッシュの大抵はやっかみ、嫉み、妬みによる嫌がらせだって。」
「それくらいは基礎知識で仕入れてる。でも、やっぱり私の身には余るよ。だって私が死んだらランサーもすぐに死んじゃうってことじゃない。」
「まぁそうなるわな」
マスターを失っても、サーヴァントは少しだけ現世にとどまっていられる。
その間に新しいマスターと契約することで、サーヴァントは戦いに復帰することができるのだ。
だがこのゲッシュを交わせば、おなまーえの命が絶たれた時点で彼女は勝利できなくなる。
必然的にランサーにも罰が下され、この世には現界できずに消滅するだろう。
「ランサーはいいの?それで」
戦いに生きた英雄として、各時代各世界の
それも叶わずに彼が消滅する可能性だって出てきてしまうのだ。
「あのなぁ、むしろオレがいいのかって聞いてんだ。オレが提案してんだからよ。お前はどうなんだよ。」
「わ、私は全然構わない…というか、光栄だけど…」
「んじゃ決まりだな」
ゲッシュの契約に何か儀式だったり作法があるのだろうか。
ランサーがこちらにゆっくりと近づいてきたので、おなまーえは思わず身構える。
――ぐしゃ
整えられた髪を、ランサーの大きな手で乱された。
昨日から何度も撫でられて、だが不思議と嫌な気はしない。
むしろ心地良い感覚だ。
「…ありがとう、ランサー」
勇気付けようとしてくれたのが伝わり、おなまーえの震えは少し収まった。
戦争に参加したのは自らの意思だ。
今更尻込みしてどうする。
「よし!」
ぱんっと頬を叩いた。
「私は遠見の魔術でランサーを援護する。あなたの力、ここで見せて。」
「遠見とは珍しい芸当だな」
「逆に言うとこれくらいしか自慢できる魔術は使えないんだけどね」
おなまーえの使える魔術は遠見。
魔法陣を設置した場所を、水晶を通じて見ることができる。
監視カメラのようなものと言うとわかりやすいだろうか。
監視カメラに設置するためには自らが足を運ばなくてはならないため、千里眼のように万能でないのが欠点である。
「ちょっとちくっとするかもしれないけど我慢して」
おなまーえはランサーの背中に魔法陣を仕込む。
「これってずっと残るのか?」
「まぁ意図的に壊されない限りは。つまりランサーの体がバラバラにならない限りは。」
「うぉー、こえー。てかそれじゃあオレのプライベートダダ漏れじゃねぇか。」
「なに?マスターに内緒でやましいことでもするの?」
「いや、しねぇけどよ」
「安心して、ストーカーの趣味はないから」
描き終えると魔法陣は形が見えなくなった。
「じゃ、行ってらっしゃい」
「おう」
ランサーの姿が霊体化した。
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