1月29日
夢小説設定
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教会の外に出る。
空は青色とオレンジ色が混ざり、幻想的な風景を醸し出していた。
おなまーえは夕陽に照らされる教会を背に、坂を下っていく。
『ランサー、聞こえる?』
『ほお、念か。ちゃんと聞こえるぜ。』
『よかった』
現在ランサーは霊体化している。
この状態で普通に会話をすることも可能だが、一般の人から見ればおなまーえが独り言を喋っている不審者にみられてしまう。
そのため、魔力を細い糸で繋げる感覚、例えるなら糸電話の要領でランサーと会話を試みた。
(初めてでうまくいくか心配だったけど、大丈夫そうだね)
おなまーえは慣れない魔術を悟られないように平然な顔をしていた。
『空、綺麗だね』
『ああ。マジックアワーって言うらしいぞ。』
『ふぅん…』
息を吹きかければ白い空気が現れる。
雪でも降りそうな気温だ。
『そういや嬢ちゃん』
『おなまーえ』
『まぁまぁ、いいじゃねーか。嬢ちゃん、戦いには慣れてないだろ。』
言峰と魔術の鍛錬をしたことはある。
だがそこで学んだことは実戦とは遠くかけ離れているだろう。
魔術師同士の戦いはおろか、人間同士の争いもおなまーえは疎かった。
『戦闘に関しては私は口出しできない。もしかしたら言峰さんから何か指示されるかもしれないけど、それ以外は基本的にランサーの好きなように動いていいよ。』
『ほぉ。好きなように動いていいときた。お前さん、自衛手段はあるのか?』
『一応簡単なガンドだけはなんとか』
言峰の元で学んだここ数日でやっと習得できたのは、魔術師ならば生まれてすぐに習うであろうガンドのみ。
『じゃあアレだな。嬢ちゃんの子守もしなきゃなんねぇってことか。』
『…なるべく後ろに下がっているようにする』
前線に出ても足手纏いにしかならないと言いたいのだろう。
今日だけで2度もバカにされて、おなまーえはあからさまに落ち込んだ。
ランサーに怒りの感情をぶつけられればまだ気が晴れたのだろうが、あいにくそんな気概は持ち合わせていなかった。
(……どうせ私は優秀な魔術師なんかじゃないし)
ほろりと溢れた涙は、冬の乾いた風のせいにした。
****
ホテル冬木はこの辺りでもトップクラスのホテル。
流石にスイートとまではいかないが、そこそこの値段の部屋に通され、おなまーえは目を輝かせた。
「わあ…」
おなまーえは少し興奮した様子で部屋の中を見回す。
冷蔵庫、テレビ、電子レンジまでついている。
奥には広い風呂もあり、こんな贅沢は今まで一度だってしたことがなかった。
「ランサーすごいよ!これぶくぶくするお風呂だよ!すごい…!」
「お前さん、どんな生活してきたんだ」
年齢に見合わず、子供のようにはしゃぐおなまーえに、ランサーはやれやれと首を振った。
ちょっと世間知らずなところがあって、まだまだ不明な点も多数あるが、このマスターは彼にとっては"比較的アタリ"だった。
純粋で繊細で正直で、だが無知というわけではなく、人の汚い面もきちんと理解している理想のマスター。
2つ目の令呪が無く、言峰綺礼がいなければ大当たりだっただろう。
「嬢ちゃん」
「ん?どうしたの、ランサー」
ホテルまでの道のりで落ち込んでいたおなまーえはもういない。
大きな窓から街を見下ろしていた彼女は、好奇心に満ちた笑顔をそのままランサーに向けた。
その顔にわずかに胸が鳴ったのは彼の気のせいだろう。
「…あいにくオレは聖杯に託す望みは持ち合わせちゃいねぇ。死力を尽くし、強者と戦うことこそがオレの望みだ。」
「あ…じゃあ2つ目の令呪…」
「気にすんな。どうせあの男の差し金だろ。かけちまったもんは仕方ねぇ。」
2つ目の令呪。
『必ず全員と戦い、一度目は撤退すること』。
言峰にはそう命令するように指示された。
偵察をして、それから対応策を練ろという意味かと思ったが、別々に滞在するのであればそれは意味を成さない。
一体なんのためにこんな命令をさせられたのかは不明だった。
「嬢ちゃんは聖杯が欲しいのか?」
「うん」
「なら聞く。なぜこの戦争で勝ちたい?」
「…それ言わなきゃいけない?」
「いいだろ?別に減るもんでもないし」
「そうだけど……」
おなまーえはゆっくり目を落として、自身の手をじっと見た。
まるで雪のように白い肌。
滑らかで傷一つなくて、だが世の女性が羨むそれは、ただただ血色が悪いだけだった。
「……今は言えない。言いたくない。」
「信用できねぇか?」
「いや。ただ私が言いたくない。」
「ほぉ」
ランサーが無表情でこちらに歩いてきた。
怒らせてしまっただろうか。
おなまーえは身構える。
「そんな構えなさんな。ほいっと。」
ぽんと頭に手を乗せられた。
そのままわしゃわしゃとてっぺんを撫でられる。
「言いたかねぇなら構わねぇよ。あんたがマスターである限り、我が槍は嬢ちゃんのために振るおう。」
「ランサー…」
わしゃわしゃと髪を乱される。
「よろしくな、嬢ちゃん」
「……おなまーえだってば」
おなまーえは頬を少し緩めて顔を上げた。
「よろしく、クー・フーリン」
《1月29日 終》