1月29日
夢小説設定
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「じゃあ次の質問だ。見たところ嬢ちゃんは魔術師ってガラじゃなさそうだが、何もんだ?」
「……魔術師だよ。一応ね。ちゃんと魔力はいっているでしょ?」
サーヴァントの召喚はおいそれとできるものではない。
いや、正確には召喚自体は聖杯の力を借りて容易くできるが、英霊を現世に留めておくのはマスター自身の魔力だ。
稀に他の手段で魔力を得ているサーヴァントもいるが、基本的にはこの方法が主流だし、今のランサーも例にもれない。
「ならサーヴァント同士の戦いを一般人に見られた時はどうする?」
「…試してるの?」
「マスターの方針くらい聞いておいてもいいだろ?」
「…もちろん殺すよ。それが魔術師のルールだもの。」
「たとえ見られたってだけでもか?」
「残念ながら私忘却魔術は覚えてないの。私が使える魔術は少ないから。」
「そうか」
ランサーの表情は読めなかった。
おなまーえはコーヒーをおかわりするため立ち上がる。
カップに熱い液体を注ぎ、ミルクと砂糖を加える。
「嬢ちゃんにその選択ができるとは思えねぇがな」
「なにそれ、バカにしてる?」
「いーや」
「そもそも、サーヴァントってのはマスターに従うものでしょう。それともなに?逆らう気にでもなったの?」
「マスターである嬢ちゃんには全面的に従うぜ、オレは。それがアルスターの流儀だからな。」
例え相手が親友であろうと、敵陣に回ったならば、星の巡りの悪さを共に笑いながら命のやり取りをする。
例え相手が親の敵であろうと、味方であるのならば誓約の限り守り通す。
それがケルト戦士特有の考え方に従って生きた、クー・フーリンという男の在り方だ。
「…………」
開き直ったような態度が気に入らず、おなまーえはランサーを睨みつけた。
彼とやっていける気がしない。
ケルト神話の英雄とは言われてはいるが――そこでおなまーえは重要事項を確認していなかったことを思い出した。
「そういえば、すっごく今更だけど」
「ん?」
「あなたの真名は、このイヤリングにルーン魔術をかけた彼で間違いないのよね?」
おなまーえは自身の耳につけている、銀の耳飾りを指差した。
それはランサーの耳についているものと同じ形状をしている。
「おー、違いない違いない。この時代までよくもったな。」
「傷はちょっとあるけどね…」
耳飾りは傷こそついてはいたが、色褪せずに原形を保っていた。
これがケルト神話の時代から数多の人の手を渡り、やがて自分の元へやってきたなど想像もできない。
耳飾りに反射して自身の青い目が映る。
「……ランサー、これ――」
――ガチャ
おなまーえが何か言おうとした瞬間、部屋の扉が開けられた。
「邪魔をするよ」
「…言峰さん」
ピリッと空気に緊張が走った。
客人にランサーが警戒の目を向けたからである。
おなまーえはカップを机において、言峰に駆け寄った。
「どうされたんですか?」
「しばらくの間ここではないところに滞在してもらうと、以前話しただろう」
「ああ、そういえばそうでしたね」
教会はあくまで中立地帯。
そんな場所におなまーえが頻繁に出入りしていたら、贔屓だと他のマスターから
そのため彼女はしばらくの間ホテル暮らしをすると、言峰と話していた。
「ホテルはこちらで手配した。荷物をまとめて、今日中にでもそちらに行ってもらいたい。」
「わかりました。言峰さん、お気をつけて。」
「それはこちらのセリフだ、若きマスターよ」
言峰は簡素な座っているランサーを一瞥した。
「それから、キャスターのマスターからお前に手紙を預かっている」
「手紙?」
「…乗るも乗らないもお前次第だ、おなまーえ」
協力関係の依頼だろうか。
不審に思いながらもおなまーえはそれを受け取る。
「何かあればこちらに顔を出しなさい。中立という立場からは離れられんが、これでも私は君のことを応援しているのだよ。」
「わかりました」
「…ケッ」
彼は机にホテルのカードキーを置くと、優美な足取りで部屋を出て行った。
扉を閉める際にフッと笑ったように見えたのは気のせいではないだろう。
「…………」
先程までの穏やかな空気は既にない。
戦争はもう始まっているのだ。
この教会を出た瞬間に襲われる可能性だってある。
「移動すんのかい?」
「うん。まだ聖杯戦争が本格的に始まっていない今のうちに転居しておきたいから。」
少しの衣服をまとめる。
もともと私服を着る機会なんて滅多になかった。
彼女がよく纏っていたのは清潔な匂いのする水色の装束。
いつもいつも、いつもそれに縛られていた。