1月29日
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「……あれ」
目覚めると、太陽が中天に達していた。
言いつけられていた朝の掃除をサボってしまった。
言峰に怒られるだろうか。
額に当てた手を持ち上げると、手の甲に赤い文様がひとつだけ書かれている。
そこでようやく自分が聖杯戦争に参加したのだと思い出した。
「……随分と遅い寝起きじゃねえーか、お嬢ちゃん」
「…おなまーえだってば……ランサー」
名を呼べば、霊体化していた彼が姿をあらわす。
ベットの脇に腰をかけ、ニマニマとこちらを見ている。
「あともう少し寝てたら襲っちまおうかと思ってたところだ」
「…そういえば女性関係は結構派手だったもんね、あなた」
「あ?生前の話か?」
「うん」
1月29日
目をこすりながら足を下ろす。
まだ覚醒しきっていないため、うつらうつらと船をこぐ。
立ち上がろうとして、立ちくらみを起こし、おなまーえはベットに勢いよく倒れ込んだ。
――バフン
「おいおい、大丈夫か?」
「…んー」
元から低血圧だったが、今日は特にひどい。
ゴロンと転がり、再度体を起こす。
先程よりは意識が覚醒していた。
昨晩ベットに潜った記憶がない。
教会の一角でランサーを召喚して、令呪を2つ使って、そこで意識が途切れている。
「ああ、嬢ちゃんのことなら昨日オレが運んだ」
「…心読んだの?」
「まさか。英霊つったって、そこまで万能じゃねぇよ。」
「じゃあどうして?」
「お前さん、表情がわかりやすいってよく言われねないか?」
「………」
「図星だな」
悔しくもこのサーヴァントの言う通り、おなまーえは思っていることが表情に出やすい。
まさか出会って半日も経っていない男に言われるとは思わなかったが。
おなまーえは立ち上がり、朝食の支度を始める。
ランサーは霊体化した。
こうしてみるとおだやかな朝の光景だ。
トーストをオーブンに放り込み、その間にコーヒーを淹れる。
もう昼時だが、寝起きに重い食事はキツイので、今のところはトーストとヨーグルトだけで良いだろう。
そういえば意識を失う直前にランサーに「理由を言え」と言われていたような気がする。
「ランサー」
「なんだ」
呼べばすぐに返事がきた。
部屋のどこかにいる気配はしたが、見えないところから返事が聞こえるというのは些か気持ちが悪い。
「朝ごはん、食べる?」
もちろん英霊にそんなものは必要ない。
彼らはエーテルでできた体。
必要なものは魔力か魂だ。
おなまーえもそんなことは理解している。
「…ふ、ははは!いいぜ、嬢ちゃん」
シュワンという小気味好い音とともにランサーが姿を現した。
あの青い装束のまま、椅子に腰をかけている。
「…………」
おなまーえはトーストにジャムを添えてランサーの前に置いた。
コーヒーの香ばしい香りが部屋を充満する。
おなまーえも腰を落ち着けてブランチの時間となった。
戦争などまるで感じさせない、穏やかな空気。
それは緊張感のない食事という行為だけが作り出したものではない。
もとよりおなまーえという人柄が、血の匂いを感じさせなかった。
最初に口を開いたのはランサーだった。
「いくつか聞きてぇことがある」
「どうぞ」
食事の手を止めて、おなまーえはコーヒーを飲むランサーを見た。
聖杯戦争において、サーヴァントとのコミュニケーション不足は致命傷になり得る。
なるべくサーヴァントとはわかりあった状態の方が好ましい。
「んじゃあ、まずはあの男からだ」
「言峰さん?」
「ああ。あの野郎何か企んでやがる。あまり言いたかねえが、利用されてるぞ、嬢ちゃん。」
あの立ち振る舞い。
ただの代行者というわけではなさそうだった。
本来中立であるはずの聖堂教会がマスターになることは難しい。
故におなまーえを手駒として、彼はこの聖杯戦争に参加しようという魂胆なのだろうと、彼女は推測していた。
「うん…そうかもね。言峰さんは何か企んでる。でもそれでもいいんだ。」
意外にもおなまーえはあっさり認めた。
ただの操り人形かと思いきや、そこまで鈍くはなかったようだ。
「言峰綺礼に利用されているなんて、初めから分かってる。でも私はこれしか手がないの。」
おなまーえはポケットから薬を取り出すと、慣れた手つきでそれを飲み干す。
「言峰さんは私にチャンスを与えてくれた。別にあの人が何を考えていようがそれは構わない。」
「目的のためには使えるもんは全て使うってか。嫌いじゃないぜ、そういうの。」
「そう言ってくれる?優しいね、ランサーは。」
逆に取れば、自身の目的のためならば人殺しだって厭わないと宣言しているようなもの。
戦争に参加するということはそういうことだ。
コーヒーを一口飲んで、おなまーえは渋い顔をした。
砂糖を一つつまみ、まだ暖かいカップの中に入れる。