1月28日
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「よくやった、おなまーえ」
渋く、ねっとりとした声が教会に響いた。
祭壇の後ろで控えていた言峰綺礼がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
「ありがとうございます。これで私も聖杯戦争に参加できます。」
おなまーえは言峰に感謝の言葉を述べる。
「……マスター、あの男は?」
「言峰さん。私の恩人みたいなもの。」
「ふぅん…」
ランサーは鋭い視線を言峰に向けた。
まるで番犬が不審者を警戒するような態度だ。
本当に犬であったのなら唸り声を上げているところ。
「この聖杯戦争に参加するために、色々と工面してくれたの」
おなまーえは慌ててフォローする。
なぜランサーがここまで言峰を目の敵にするのかわからないが、この2人の仲が悪くなることは喜ばしいことでは無い。
「…どうやら躾がなっていないようだな。おなまーえ、早速済ませてしまいなさい。」
「あ、はい」
おなまーえは令呪の刻まれた右手を差し出した。
「どうした?嬢ちゃん」
「おなまーえです。ごめんなさい、言峰さんとの約束だから、2つだけ令呪使います。」
「ふたつ?」
令呪とはマスターのみに与えられる、自らのサーヴァントに対する3つだけの絶対命令権。
これがなくなればマスターは聖杯戦争に参加できなくなり、サーヴァントとの契約が満了してしまう。
その令呪をいきなり2つも使うと言うのだ。
このマスターは何を考えているのだとランサーは驚く。
「令呪をもって命じる。言峰綺礼の言葉にはマスターと同等のものとして従うこと。」
「っ!?」
フォンという音を立てて、令呪特有の赤い光がランサーにかかる。
「重ねて命じる。必ずサーヴァント全員と戦い、一度目は撤退すること。」
「はぁ!?なに言っ――っ!」
ランサーは抗議の言葉を上げようとしたが、令呪の強制力にあえなく押さえつけられる。
おなまーえの手の甲からは令呪が2つ消えた。
「あ…」
彼女の体が傾いた。
当然だろう。
英霊を召喚しただけでなく、令呪を2画も使った。
どんなに優れた魔術師でも枯渇するほどの魔力を使った。
急激な眠気と倦怠感におなまーえは力なく倒れる。
「おっと」
それを支えたのはランサーだった。
彼はおなまーえを支えたのとは反対の手を握っては開く。
令呪による強制力に体が慣れていないのだろう。
なんて勿体ないことをするのだと呆れた。
だが使ってしまったものはどうしようもない。
ランサーは諦めた表情でおなまーえを見下ろす。
「せめて理由くらい教えろ、マスター」
「…うん…」
「ったく、ほら寝ろ寝ろ。俺が運んでやる。」
「ありが…と…」
くたりと彼女はもたれかかった。
規則正しい呼吸音から、寝落ちしてしまったことがわかる。
なぜこんな令呪を施行したのか、それは明日聞けばいい話だ。
まだ名前しか聞いていないマスターを抱きかかえ、ランサーは祭壇の前を睨みつけた。
「んで、こいつの寝床はどこだ?コトミネサンよ。」
「ふむ。令呪を使ったとしても態度までは変わらないのだな。」
「るせぇ。マスターを使ってお前が何を企んでいるのかは知らねえ。だがな、コトミネサン。英霊には英霊なりの矜持ってもんがある。俺はマスターを勝利させる。それに仇すもんは、誰だろうとぶった切る。」
「いいだろう。では一つ私からも。聖杯戦争はサーヴァントを使ったマスター同士の殺し合いだ。だがそこの娘が若くして命を落とすのは私としても偲びない。」
「はっ、心にもないことを」
「そこでだ。今後はそこの娘のことはマスターとは呼ばないことを勧める。」
「…………」
「他のマスターを混乱させるためにも、良い提案だとは思うが」
ランサーは自身にかけられた令呪が作用しているのを感じた。
言峰綺礼の言葉に逆らえない。
「……わかった」
渋々といった様子でランサーは頷いた。
不本意だが、この令呪の強制力は本物だ。
言峰も満足そうに頷く。
「では案内しよう。彼女の私室はないのだが、客間が空いている。」
おなまーえを使って、この男が何をしようとしているかはわからない。
彼女がなぜ聖杯を求めているのかもわからない。
だが、だからと言って英霊としての役割が変わるわけではない。
マスターを勝利へと導く。
それが英霊にとっての最大の目的。
「……今回もなにかと無理難題が多そうだ」
ランサーはおなまーえを持ち直すと、言峰に付いていった。
《1月28日 終》