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第1章・君をいつの間にか4

いつもならインターフォンの直後に、ドカドカと入り来んでいた祥太郎の家。

今日は、そのインターフォンを押すのすら、躊躇っていた。

久しぶりやし、オバチャン、来んといてって言うてたのに来ても良かったやろか?

オレ、騒がしいから、大人しい直輝は良くてもオレはアカンのかな?

会えなかった日数が、理苑を気弱にしていた。

でも、祥太郎に会いたい。

直輝が言っていた変な誤解も困る。

いや……誤解は誤解なんやけど、何でオレは祥太郎に訂正したいんやろ?

自分の気持ちを消化しきれないまま、理苑はインターフォンを押していた。

「アラ、理苑、来てくれてありがとう。……祥太郎……具合悪いんやけど、ちょっとだけ会うていく?」

祥太郎の母から拒絶されない事にホッとした。

「ほんなら、ちょっとだけ……お邪魔します」

自室ではなく、リビングに敷かれた布団は、母の目が届くようにしているからだろう。

寝たきりの祥太郎は、前よりも更に痩せて、痛々しい程だった。

理苑は、その姿に何と言葉を掛けて良いか分からなくなった。

「祥太郎、具合、悪そうやな」

「せっかく来てくれたのにゴメンな……。今日は理苑とゲームする力もないねん」

「そんなん良いし。オレが勝手に来ただけやから。オレこそ、調子悪いのに来てゴメンな。最近、会うてないから、どないしてるかと思って」

理苑は枕元に座った。

「オレに何かして欲しい事、あるか?大した事、出来ひんけど」

「そうやな~、したい言うたら、小学校の時みたいに、理苑とサッカーとか野球がしたいなぁ」

「……祥太郎……」

「ホンマにしたい。何で俺だけ、こんなしんどい人生やねん。みんな普通に学校行けてるのに、俺は学校も行けてない。神様はホンマに意地悪や」

理苑は、言葉もなかった。

小学校の時は、祥太郎は自分より運動神経が良かった。

何でこんなに弱ってしまったのだろう。

あんなに日に焼けて、健康そのものだったのに。

「ずっと具合悪い病気やないんやろ?大きくなったら、ピョンと治るて言うてたやん。もうちょっとの辛抱や」

「大きなったらっていつなん?中学の間に治るんか?高校までこのままか?俺、もう3年も学校ロクに行けてないんやで」

大人しくて穏和な祥太郎が、珍しく声を荒げていた。

積もり積もった鬱積が爆発していた。

横で静かに聞いていた祥太郎の母も、それには困惑した。

「祥太郎、理苑がせっかく来てくれてるねんやん。そんなん言わんと……」

「いや、オバチャン、オレは構わんから」

その理苑の優しさに、祥太郎は我にかえった。

「ご、ゴメンな。理苑。俺、イライラしてた」

「オレに当たれるなら、当たっても良いで。オレの神経、かなり太いし。ナンボでも聞けるし」

理苑の優しさが逆に痛かった。

祥太郎は嗚咽がこみ上げ、泣き笑いのようになってしまった表情を、隠す事が出来なかった。

「オレが聞いてスッキリするなら家に来るんやけど、オマエ、体調悪い時はどうしようもないやろ?電話でもエエで。何か話たかったら、いつでも電話して来いや」

「ありがとう……」

その日は喋るのも辛そうだったので、理苑は「また来るから」と言って、帰る事にした。
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