第1章・君をいつの間にか3

バスケ部の練習を終えてから、理苑が祥太郎の家を訪れた。

「最近、週に1回しかプリント持って来れんでゴメンな。オレもバタバタしてて……」

「そんなんエエよ。いつもゴメンな、理苑」

「……直輝、来てたんか?」

祥太郎の勉強机に、誰かが飲んだグラスが残っている。

祥太郎の作った、ロケットや設計図も広げられていた。

「うん。今後、ロケット飛ばしてみような、って言うてくれたんやけど、俺、ずっとこんな体調で学校行かれへんし、来てくれんの申し訳なくて……」

「それは気にせんでエエんちゃう?アイツも来たくて来てるんやし。あ、オレが来るんも気にすんなや。週末の早目に上がれる時しか来てへんし」

「ありがとう。理苑……あんな……」

何やら言い澱む祥太郎に、理苑は首をかしげた。

「何や?どないしてん?」

「何でお前、直くんと仲良くないん?」

理苑は返答に困った。

何でと言われても、気が付いたら直輝とはこんな感じだった。

何度か祥太郎の家で一緒になった事があったが、話し掛けても何となく拒絶されてるのを感じる。

それには確たる理由もなかったが、直輝とは何かソリが合わないとしか言いようがなかった。

「別にケンカしようとか、アイツの事がキライやとか、そんなんとちゃうねん。何て言うたら良いか分からんねんけど、なんぼ頑張っても上手い事、会話が繋がれへん。何か、ゴメンな」

直輝と同じように謝る理苑に、思わず笑ってしまった。

「ホンマに、二人共、優しいのんに何で合わんかな。確かにしんどいけど」

「ゴメン……。って、今、思てんけど、祥太郎、声変わりしてへんか?声、何か低くなってる」

「そうやねん。ママが「何や最近のアンタ可愛いないな」って言いよるねん」

「別にエエやん!オレなんか、まだ、声、子供のままやで?身長、めっちゃ伸びて来てるのに。何でやねん!」

「理苑は声だけとちゃうやろ。毛も生えてないツルツルやん。オバチャンがこないだ言うてたで」

「あ~!オカン!何言うねん!もう、めっちゃ恥ずかしい!」

祥太郎の母が、理苑に晩御飯を食べるように声をかけて来た。

「家で晩御飯を用意してるから、すんません。ありがとう」と、理苑にしては珍しく丁寧に断るので、祥太郎親子は『明日は雪降るんちゃうか』と言って、理苑をからかった。
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