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「ねぇワトソンくんはキスしたことある?」
突然の問いに全身飛び跳ね目はギンギンに見開いていた。さすがに唐突すぎたか?

震える手で少し冷めたコーヒーを口にして落ち着こうとしていた。
「小さい頃によく遊んでいた女の子と、とはいっても転んだ拍子にぶつかっただけなんですけどね。」
ははって笑ってはいるが何処となく気まずさを漂わせている笑いだった。彼をまじまじと見てもこれ以上返答がなさそうなのでもう一つ爆弾を投下する事に。
「側近はいつなの?」
ぎょっとこれまた目を見開く。口も何か訴えようと開いたり閉じたりを小刻みに繰り返してる。
流石にいじめ過ぎたと反省し「プライベートな事だね、ごめん」と謝っておいた。
彼は物凄く助かったぁという表情をしていたし、胸を撫で下ろす仕草までしていた。

***

沈黙が、重い。
普段なら気になる事なんてないが、今は異様に居心地の悪さが目立つ。たまらず私はネガティブな事を口にしていた。
「“離れた人通しの声を繋ぐ”なんて考えてはいるものの、私自身キスすら、いや、人と繋がった事すらない人間が何を言ってるんだと考えると…」
手に持った縄を持つと助手がどうどうと静止してきた。
「出来なかった事よりも、今しようとしてる事の方が僕は大事だと思います。」
困ったように眉を下げながら私に笑いかける。
そっか、なんて納得していた隙に持っていた縄は没収されてしまった。

「さ、続き頑張りましょう!」

あからさまに伸びをして縄ごと何処かへ消えてしまった。
彼が出て行った後、ひとりになった部屋で自分の唇を指でなぞる。先程の会話をしていた様子を思い返す。
身振り手振りがいつもより派手で覇気も普段より強い返事。それに終始ほんのりと赤い耳。
(ふーん、どうしたものか。)
温くなったコーヒーを飲みながらぼんやりと考える。こんな状態では研究なんて後回しだ。

***


多くの参考書と睨めっこしてる内に頭に靄がかかり体の力も抜けてくる。
もう限界と自覚する前に参考書ごと机に突っ伏してしまった。

暫くしてなのか随分経ってかはわからないが、淹れたての香ばしい香りを微かに感じる。その香りが段々と近付いて来て、私のいる部屋を満たした。
机にカップが置かれる振動を感じ、夢心地から抜けようとした時、
唇を何かになぞれた後、頬に柔らかな感触が落ちたのだ。

バッと上体を上げるとそこには普段通りの助手が立っていた。
「おはようございます。少し楽になりましたか?」
「ああ、」と軽く返事を済ませたら助手はいつもの席で黙々と参考書を読み進めて行った。
何もありませんでした、なんて態度取られても気になる。たまらず私は、

「ねぇワトソンくんは、
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