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Kahlua and Milk.




僕なりにベルさんの望む形を考えてみたりはするが、正解の形が全くわからない。
両思いである事がわかったはずだし、そういう関係になれたはずなのだが。それらしい事は何一つないままひと月が経とうとしてしまった。

(酷い扱いってなんなんだよ。)

今日の研究を終わらせそのままベルさん宅でお邪魔している。二人掛けソファに肩を並べて、恋人の入れたコーヒーを飲みながら隣の恋人を薄目で眺めていた。
コホンと小さく咳払いした後に、気まずそうに目を合わせられた。

「口に合わなかったかな?」
「あ、いえ。美味しいです、すごく。」

想いが通じ合う前に初めて飲んだあの味を思い出しながら感想を伝える。頭の中で思考がグルグル渦巻いていたせいで、あまり味が分からなかった。
(好きあってるはずなのに、今がこんなにそばにいれるはずなのに、)

ーーーーもう、疲れたな。
カップの中の黒い自分と目を合わせながら、ボソボソと呟き始めてしまった。

「告白してからずっとベルさんの事を考えっぱなしで、」

情けなく項垂れながら話す僕のことを笑うことなく、いつもと変わらずコーヒーを飲み続けるベルさん。静かに受け止めてくれるベルさんに、年上の余裕と自分の情けなさとが入り混じって感情がぐちゃぐちゃだ。
カップの自分から目線を移し、虚な目で彼を見つめた。


「どうやって“酷く扱う”と喜んでくれるのかって。」



彼の目が突然見開かれ、コーヒーが気管に入ったのか胸を拳で強く叩く。つっかえが取れたのか、人差し指で涙を拭う仕草をしながらまだ笑っていた。
(苦しそうな癖に楽しそうだな。)
答えは水責めにあったのか?もう思考回路が迷宮入りしているのが自分でもよくわかる。

「君、ど真面目だったな。」

笑いが落ち着いたベルさんは、カップをテーブルへ置いた。ゆっくりと見つめられたが、目の奥で何かギラギラするものを感じる。こんなベルさん、初めてだ。

「一人で考えるなら私と色々試してみればいいのに。」

空いている片方の手の甲を、指先でトントンと触れた。思わず拳を握る。自分から触れる事は何度かあったが、触れられるのは初めてで心臓がひっくり返りそうだ。
カップを握る手を揺らさぬようにしているが、水面が乱れている。僕の心みたいだ。

落としてしまう前にテーブルに置こうと体を起こした時、握りしめていた拳の腕が引っ張られた。バランスを崩したカップは嫌な音を立てて、テーブルをコーヒーで溢れさせた。
バランスを崩したのはカップだけでなく僕自身もだ。ベルさんのお腹に顔を埋めてしまった。
慌てて顔を上げると両頬を優しく包み込まれ見つめながら薄い唇が開いた。

「ふふっそんな事考え続けるなんて、」

目を離さずにいると、声はなく唇だけで言葉を見せつけられた。
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