烏野
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ど、どどどどうしよう……こんなに焦るのは、烏野に入学してから初めてかも知れない。
だって今日はHRで席替えがあって、俺は窓際の前から4番目の席になって、それで……隣にはクラスで一番の人気者の後藤さんが……!
(どうしよう……何を話せばいいのか分かんなくなってきた……)
でも後藤さんは委員長でもあるんだから、もしもの時のために慣れておかないとダメだよね。
なんて思っても、マドンナ的存在の後藤さんとお近づきになりたい男子は学年問わず溢れてる。
俺これ、ヘタしたら死ぬんじゃない……?え、なに死亡フラグ?
「山口くん。これからよろしくね」
「えっ!?あ、あぁうん……よろしく」
後藤さんの方から話しかけてきたから、ビックリして一瞬だけど声が裏返っちゃったよ……。
だけど彼女は特に気にする様子もなく、先生の話を聞いてる……やっぱり俺なんて眼中にないのかな。
(まあ、俺は所詮ツッキーの引き立て役に過ぎないから、仕方ないよな)
そう考えた自分に虚しさを感じながらも、俺も先生の話に耳を傾けようと黒板の方に向き直った。
昼休みになって、いつものようにツッキーとお弁当を広げて、俺はようやく一息つく。
「はあぁ~……やっと緊張から解放された……」
言いながら新しい位置になった机に額をつけると、ツッキーが声をかけてきた。
「え、なに。山口、大丈夫?」
「大丈夫……じゃないかも知れない。ねぇツッキー!俺これからどうすればいいと思う!?」
「いや、知らないし。でも良かったね、隣の席になれて」
ツッキーのその言葉に俺は「そうだけどさ……」と返しながら、他の友達と楽しそうにお弁当を食べてる後藤さんに目を向ける。
友達の話に笑って応える彼女は、俺には天使に見えた。
「召されたい……」
「……本当に大丈夫じゃないね、山口。そんな状態で部活できるわけ?」
「あ、そこは大丈夫!部活はちゃんとやる!」
「だったらいいけど」
溜め息混じりにそう言ってお弁当のおかずを口にするツッキーに倣って、俺も自分のお弁当を改めて食べるのだった。
放課後になって部活の時間、俺はツッキーと一緒に部室に向かう。
「……あ。ごめんツッキー、先に行ってて!忘れ物した!」
「いいけど、忘れ物って何?」
「英語の教科書!」
それだけ言って教室に戻ると、扉を開けようとして思いとどまった──中から話し声がしたからだ。
(あ、あれって……後藤さん?向かい合ってるのは、同じクラスの奴じゃないな。別クラスの人?)
気になって窓から中の様子を見てみると何だか入りづらい雰囲気で、なかなか扉を開けられずにいると「ごめんなさい」という後藤さんの声が中から聞こえた。
「その、気持ちは嬉しいんですけど、私……他に好きな人がいるんです。だから、本当にごめんなさい」
そう言って頭を下げた後藤さんを見て、彼女に告白した奴だけでなく俺までショックを受ける。
(好きな人、いたんだ……)
そりゃ後藤さんだって年頃の女の子なんだから、好きな人くらい居て当然だ。
だけど、あまりにもショックが大きすぎて、俺は英語の教科書を取りに来たことも忘れてフラフラと部室に向かおうとした。
でも気付かれずに去ろうとした時に限って上履きが、キュッ、と余計な音を鳴らす。
「、山口くん!?」
「あっ、ご、ごめんね!俺、別に何も聞いてないから!後藤さんが告白されてたこととか好きな人がいるとか言ってたのも何も聞いてないから!」
教室から出てきた後藤さんは俺に気付くと驚いた顔をしてたけど、焦って捲し立てる俺の言葉を聞いてるうち、少しずつその頬に赤みが差してきているように見えた。
「し、しっかり聞いてるじゃん!」
「はっ!しまった……で、でも俺、誰にも言わないから!じゃ、じゃあね!好きな人とお幸せに……!」
言ってまた立ち去ろうとしたら、不意に腕を掴まれ引き留められてしまった。
「え……な、なに?」
「あの、さっき……私が言った『好きな人』のこと、なんだけど」
「!」
「……山口くんの、ことなんだよね。実は」
夢でも見てるのかと思った……だって後藤さんが、クラスの人気者である彼女が、顔を赤くして俺のことを好きだって言ってる……。
「、なんで、俺なの?後藤さんなら、他に釣り合う男子がいると思うけど……ツッキーとか」
「月島くんは、確かにカッコいいけど……でも私は山口くんがいいの。……やっぱり、覚えてないかな?」
「え?」
『覚えてない』……その言葉の意味が分からなくて聞き返したら、後藤さんは一つ頷いてから答えてくれた。
「小学4年生の夏休み、体育館の前で体調を崩して動けずにいたら声かけてくれたでしょ?『大丈夫?』って。それから私を背負って医務室にも連れて行ってくれた。山口くんはその時も月島くんと一緒にいたし、よく覚えてるの」
それを聞いて、俺はようやく思い出した……後藤さんが言っているのは多分、俺がツッキーについていって小学生のチームでバレーをしていた頃、一人の女の子が具合悪そうな蒼白い顔で倒れてて大騒ぎした時のことだ。
「え……ていうかあの時の女の子、後藤さんだったの!?」
「うん。名乗る前に二人とも体育館に行っちゃったから……それでずっと気になってて。それが烏野に来てやっと会えたから、嬉しくなって……」
そう言ってどこか恥ずかしそうな笑顔を浮かべた後藤さんを見て、俺は一際高く鼓動が跳ね上がった。
「ねぇ山口くん。部活が終わってからでいいから、私の話、聞いてくれる?」
「う、うん!分かった。それじゃあ、また後で」
「頑張ってねー!待ってるからー!」
言いながら手を振って見送ってくれた後藤さんに、俺も手を振り返して今度こそ部室に向かうのだった。
その後、部活が終わって着替えていたらツッキーに英語の教科書のことを聞かれて思い出した俺は、どちらにしても教室に戻ることになったのだった。
I LOVE YOUが聞きたくて
(そして早く、君をこの手で抱きしめたいんだ)
2019.03.08