烏野
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今日は卒業式──高校生活最後の日だ。
いつもの時間に起きて制服に着替えるけど、すっかり着慣れたはずのシャツの襟が今日は何だか窮屈に感じた。
(今日が終わったら、あの子とも会えなくなるのか……)
三年間ずっと同じクラスだった結愛ちゃんは、明日には東京に行ってしまう……全寮制の大学に進学することが決まったからだ。
「あっ、菅原くーん!おはよー!」
「おはよう、結愛ちゃん。早いね」
教室に入ろうとした時に向こうから声をかけられて、俺は内心ドキッとしながらもそう挨拶を返した。
「今日でこの教室ともお別れかぁ。ちょっと寂しいね」
「そうだね。……あ、チャイム鳴った。早く入ろう」
「うん」
そう言って俺も結愛ちゃんも教室に入ると、自分の席に座って最後のHRを受ける。
それから式典が始まる前の休み時間、体育館までの移動を始めた皆を見ながら、俺はふと教室の壁に目を向けた──そこには結愛ちゃんがこっそり落書きしてた相合い傘の絵があったから。
(あの絵を書いてる結愛ちゃんを見つけた時、俺……自分の名前を書いて告白したんだっけ)
誰もいなくなった静かな教室で、今はすっかり色褪せてしまって見えにくくなっている思い出の絵を、俺はそっと指でなぞってみる。
「菅原くん、何してるの?」
「っ!!」
急に話しかけられてビックリした……でも俺がなぞっていた絵を見ると、結愛ちゃんもその時のことを思い出したのか、あっ……と声を上げ頬を赤く染めていた。
「まだ残ってたんだね、それ」
「あれからそんなに経ってないのに、なんか懐かしい気になるよ」
「そうだね。……ねぇ菅原くん。ちょっと手ぇ出して」
そう言われて素直に右手を差し出してみる──制服の袖から、誕生日プレゼントで貰った赤色のミサンガが覗く。
「……良かった。着けてくれてた」
言って安心したように息を吐いた結愛ちゃんは袖を捲って、俺とお揃いのミサンガを見せながら拳を突き出してきた。
「菅原くん。私、絶対に先生になる夢を叶えるから」
「結愛ちゃんなら絶対いい先生になれるよ。……俺も負けてらんないな」
お互いに決意を新たに拳を突き合わせたあと、俺たちはようやく体育館に向かった。
卒業式は滞りなく進んで、教室で証書を受け取る──結愛ちゃんとの別れの時が、刻一刻と迫ってきていた。
「結愛ちゃん。……あれ、泣いてた?」
「……泣いてないもん。菅原くんだって目が赤くなってるけど?」
「いや、式の間いろいろ思い出しちゃってさ」
遅咲きの桜が舞う校舎の前……記念写真を撮ったりしてる皆から距離を置いて、一人でいた結愛ちゃんに声をかけたら涙目でちょっと焦った。
「実は、私も。今日で皆ともサヨナラなんだなって思ったら、泣けてきちゃって」
「やっぱり泣いてたんじゃん。ていうか『サヨナラ』とか言うな」
言いながら俺が結愛ちゃんの頬を両側からむにっと軽く摘まむと、彼女は「うにゃ」と可愛い声を上げる……今のはマジでキュンときた。
「、それに、まだ『サヨナラ』じゃねーべ?」
「……そう、だね。ごめん」
「分かればよろしい。……結愛ちゃん」
「何……っ、」
名前を呼んですぐ彼女を抱き寄せ、俺はその温もりを制服越しに感じる。
「菅原、くん……?」
「……遠距離になっちゃうのは寂しいけど……俺はずっと、結愛のこと好きだから」
「、……うん。私も……っ」
そう言って結愛ちゃんも俺の背中に手を回し、抱きしめ返してくれた……卒業式以上に泣いてたけど。
──俺の胸でひとしきり泣いてスッキリしたのか、その後にクラスで集まって撮った卒業写真には笑顔で写る彼女がいた。
SAKURAグッバイ
(君への想いが、色褪せることはないんだよ)
2019.02.25