今日の日はこれで
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この時代にはその文化がないのは知っているけれど、私がもたらしたので、今日は色々な忍たま達から贈り物を頂いてしまっている。
乱太郎からの半助さんのスケッチ。ありがとう。すごくありがとう。
しんべヱからの南蛮菓子。美味しい。
きり丸からの1枚1分の肩揉み券。5枚あるので連続で使ってやろう。
一年は組一同から贈られた可愛い花束は、思わず頰が緩んだが、そこにナメ太郎がいて思わず奇声を発してしまった。
二年生と三年生からは、彼らなりにまとめてくれた手作りの忍術の解説書が贈られた。
勤勉な彼ららしい贈り物だ。
彼らの復習にもなるし、私にとってもありがたい。
個性派揃いの四年生の贈り物は、やはり個性的な贈り物で。
まず、朝一で綾部くんのスペシャルな落とし穴にはまったのだ。今日に限って、一人で食堂まで歩いていた。
底には「ほわいとでぇです」という看板が立てられており、ひっくり返ってしまった。
そのほかにも滝夜叉丸くんのソロファッションショーやら、三木ヱ門くんの石火矢ショーやら、タカ丸くんに髪の毛を手入れしてもらったりとか。
守一郎くんからは、彼が考え出したダジャレを披露してくれるはずだったのだけれど、言う前から彼は吹き出してしまい、結局分からなかった。
どんなダジャレだったのか非常に気になるけれど、涙を流して笑い転げる守一郎くんの姿は、何より楽しそうだったし、それはそれで面白かった。
五年生は、三郎くんによる変装ショーか、はたまた久々知くんの豆腐料理か…と構えていたら、ギャルソンの格好を半助さんの変装をした三郎くんが久々知くんお手製の豆腐を運んでくれた。勘右衛門くんも八左ヱ門くんも雷蔵くんもギャルソンの格好をしていて、なかなか様になっていた。
六年生は最上級生らしい凝った贈り物をくれた。
伊作くんからは月の物の痛みを和らげてくれる薬をいただいてしまったし、留三郎くんと文次郎くんと小平太くんは演武を披露してくれた。なお、一分もたたずにその演武は二人によって本気のケンカになってしまった。
仙蔵くんは例の二人に巻き込まれた時の脱出用の煙玉をいただき、長次くんからは歌集をいただいてしまった。
まるで誕生日とクリスマスプレゼントを一気に貰ってしまったかのような、充実した時間だった。
しかし、肝心の人から頂いていない。
「……」
自室から隣の部屋を仕切る壁をじっと見つめる。
今は夕飯の支度前の私の僅かな自由時間。
うん。まだ夕方。
半助さんは忙しいもの。
期待している私は浅ましいだろうか。
それから夕食を済ませ、お風呂に入り、夜になる。
二人きりの時間。
いつもの小屋で、いつもの甘い時間。
「朱美……愛している」
いつもの特別な甘い言葉。
そしていつもの、行為。
「そろそろ戻ろうか」
衣を直しながら半助さんは提案する。
あれ。
頭の中がはてなマークで埋め尽くされる。
半助さんにホワイトデーを教えていなかったっけ?
そんなことはない。
でも、あまりにも何も無すぎて、その可能性を疑ってしまう程だった。
小屋から出ようとする半助さんの背中をぼーっとみていると、視線に気がついた彼は振り返る。
困ったような笑みがそこにあった。
「………ごめん、朱美」
「え」
申し訳なさでいっぱいの表情だ。
「今日が君の世界で何の日か知っているのに」
半助さんは再び小屋の中の板間に座り、大きな溜息を付いた。
「生徒たちが張り切って準備しているのを見ると、私は君に何を贈ればいいのか迷ってしまって」
「忙しさも相まって、用意できなかった……?」
言葉を引き継げば、半助さんはこくりと頷く。
「呆れた?」
悲しそうに笑う半助さんに、私は「まさか」ゆっくり首を振る。
「半助さんらしいなって」
特別な物を贈りたいと考えていたのだろう。
「ごめん」
そっと腕を回され、抱きしめられる。
「許しません」
悪戯っぽく笑いながら見上げれば、半助さんは目を見開く。
「何も頂けない代わりに、どういうものを贈ろうとしたか教えていただけますか?」
数回瞬いた後、くすりと笑い、半助さんは私を再び押し倒す。
「いいよ」
終わったばかりだというのに、妖しく光る半助さんの瞳に、もう欲しくなってしまっている。
「小物を贈ろうとしたんだ。櫛は既に贈ってしまったし、君の世界と比べて装飾品は少ないから迷ってしまって………何より買いに行ける時間が無かった」
時間は作るもの。というが、文章作成ソフトもコピー機もメールもない時代。補習続きの一年は組の教科担当には時間が無いのだ。
首筋に彼の唇が触れ、甘い痺れを残す。
「何か君のために作ろうと思ったんだが、小型花火も季節外れだし、食堂も人がいない時間がなかったし」
学園で開かれた夏祭りの夜を思い出し、胸が締め付けられた。
彼が作った線香花火の火花が今でも鮮やかに脳裏に蘇る。
半助さんの口付けが首筋から鎖骨へと移り、私の息は浅く、余裕が無くなっていく。
「物を贈るのが厳しいなら、夜に君をどこか連れて行こうとしたんだが」
今日は生憎曇りだ。
降り注がんばかりの星空は隠れてしまっている。
「だから…ごめん。何も用意できなかったんだ」
「………はい」
今日に至るまでの彼の足跡を知ることが出来て、胸がいっぱいになった。
悲しそうに眉をハの字にして私を見つめる半助さんの頰に触れる。
「ちゃんと用意するから。今日はこれで我慢してくれないか」
我慢するというか、もう我慢できないというか。
私が何度も頷くと、半助さんはくすりと笑いながら深い口付けをしてくれたのだった。