タルトが焼き上がるまで
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彼女は一緒に作るのだと言ってきかなかった。
「料理している姿が見たかったから」
なんて照れた様子で請われれば、叶えたくなってしまう。
彼女の部屋は、オーブンレンジで焼かれているタルトの甘い香りで溢れていた。
その間、シンクの中に溜まったボウルや泡立て器を洗っている。
独り暮らしのキッチンでお菓子を二人で作るのはスペース的に厳しかったけれど、それ故に彼女を間近で見ることができた。
「半助くんって器用なんだね」
「そうでもないよ」
俺が洗い終えた器具を、彼女は乾燥籠に収納する。
「掃除も得意なの?お部屋綺麗だったよね」
「得意というか必要だからしてるだけ」
「何でもできちゃうね」
「朱美だって掃除も洗濯も料理もそつなくこなせるだろう?」
「そんな事無いよ」
「一緒に暮らしたら家事は当番制だな」
ピタリと彼女の手が止まり、顔を真っ赤にして私を見る。
まじまじと俺を見てくるから、とうとう俺も真っ赤になってしまう。
「た、例えばの話だよ」
逃げてしまった。
本当はもっと具体的に話そうと思っていた将来の話。
でも、真っ赤になった彼女を見て、俺の意志は萎れていってしまった。
もしかして朱美はそこまで考えていなかったのではないだろうか、とか。
もしかして俺一人だけ先走ったことを考えていたんじゃないか、とか。
「例え話…なの?」
それなのに寂しそうに尋ねてきたから、俺は首を激しく横に振る。
「ち、違うよ!」
「私は、半助くんと一緒に住みたい」
先を越された。
何故かそんな風に思ってしまい、悔しさが募る。
「俺も」
「本当?」
疑いの目を向ける彼女に苛立ちさえ覚える。
「俺は朱美と付き合ってからずっと考えてた!」
ついムキになって、いかに君のことを考えていたのか語りたくなってしまう。
洗い物に視線を戻しながら語気荒く語ってやる。
「例え話と言ったのも、君が真っ赤になったからだよ。俺一人そんな先走ったことを考えてたのかなって思っただけ!俺の方が朱美より先に考えてた!」
しかし、よくよく考えてみれば。
いや、考えてみなくても、なかなか気持ちの悪い言葉。
しまったと彼女を見れば、何故かにまにまと幸せを顔中に満たした笑みを浮かべていた。
「ふふ」
「何だよ」
「幸せだなって」
半助くん。
そう呼ばれて返事をしようとしたら、唇を塞がれた。
「ん……」
お互い手は使えない。
それでも唇だけは相手を求め、激しく絡み合った。
音を立てて離れれば、彼女の瞳は完全にそれを期待していて。
「早く済ませよう」
「うん………」
洗い物を済ませて、甘い匂いをまき散らしているタルトが焼き上がるまで、そのベッドの上で。
もっともっと甘い時間を過ごそう。