長編「今度はあなたを」
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『廃墟を探索した若者による投稿映像がこちら。
肝試しに興じる彼らだが、事態は一変する。
「ぎゃあああ!」
「わあああ!!」
何かを目撃したらしい彼ら。
撮影しているスマートフォンは絶叫と共に激しく揺れ、廃墟を脱出する。
果たして彼らは何を見たのか……。
実は、先程までの映像に、恐るべきものが写っている。もう一度御覧頂こう』
私は液晶から目を逸らすものの、怖いもの見たさで、視線を戻してしまう。
画面には青白く無表情な顔をした幽霊が物陰に立っていて、映像の中の悲鳴に私はびくりと体を震わせてしまった。
「あっはっはっはっは!!!」
そして隣に座っている鵺野先生の大きな笑い声に二度驚いてしまった。
おどろおどろしいナレーションとBGMが流れる液晶テレビを、まるでバラエティ番組でも見ているかの如く、彼は指さしながら大笑いしていた。
ゴールデンウィーク二日目。
私達は再び会っていた。
今度は私の家で鵺野先生が観たいものを映像配信サイトから選んでもらい、鑑賞している。
彼が選んだのは「恐怖映像100連発ー呪いのビデオ」である。
彼の選択に迷いはなかった。
ソファに座る私達の距離は近い。
そのドキドキに浸っていられたのも数秒間だけで、私は画面に写る数々の恐怖映像に身を固くしていた。
「いやー、どうみても人間ですよ。霊気が全く感じられない。所謂ヤラセってやつですよ」
などと得意気に映像の真偽を見分けている。
画面越しでも霊気とか分かるのかと感心してしまう。
「そうなんですか………」
そんなヤラセを怖がっている私は、ただ彼の言葉に頷くしかない。
次の映像は、大学生くらいの若者達がホームパーティーをしていた。
膝を立てて顔を埋めたい衝動を、なんとか堪える。膝の上の拳は依然、強く握りしめたままだ。
何気ない糸くずのようなものが画面を横切るだけのものであり、私はホッとするも、鵺野先生の表情は真剣なものへと変わり、「あ、これは本物ですね」と呟いた。
「ええ?!」
「楽しそうな空気に引き寄せられて来たみたいです。悪い霊ではありませんよ」
レントゲン写真から骨の状態を説明する医者のように、鵺野先生は淡々と解説する間も、映像は続く。
続いて夜の山道の映像では、木の陰からぬっと現れた白い顔に驚いた私は、大きく跳ねてしまった。
ソファから伝わる僅かな振動に、鵺野先生は私の方を向いた。
「もしかして先生……今、驚かれました?」
「…………はい」
即答しなかったのは、なけなしのプライドによるもの。
小さく頷く私に鵺野先生はくすりと笑っていた。
「大丈夫ですよ。これも、偽物です」
おどろおどろしいナレーションや演出に飲まれてしまっているから、映像に映る霊の真偽はもはや二の次であるのだけれど、偽物と分かりひとまずホッとする。
「怖がっている道明先生はなんだか新鮮で、かわ………………」
鵺野先生はストップモーションをかけたかのようになった。
「いつもと変わって見えますね、アハ……アハハハ……」
「変わってますか?」
なぜ真っ赤になって弱々しく笑うのだろう。
本当は違うことを言いたかったのではないだろうか。
例えば、かわいい………いや、そんなこと無い。
あまりにも都合のいい展開を想像した自分を諫めながら、私は鵺野先生を見つめる。
真っ赤になった鵺野先生は、次の瞬間真っ青になってソファの上でうずくまり、彼を纏う空気はどんよりと重いものになってしまっていた。
鵺野先生は相変わらず忙しい人だ。