長編「今度はあなたを」
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エンドロールが流れ、鵺野先生は両手を伸ばし、大きく伸びをした。私も手を組んで前に伸ばす。
「いやあー面白かった!たまにはアクション映画もいいですね!」
「良かった。お化けが出てこないから退屈じゃないかなって不安だったんですよ」
「失礼な!人を心霊オタク扱いして……って違わないんですけどね」
カーテンの隙間からは夕陽が差し込んでいた。
「もうこんな時か………ん"っ」
そう独りごちる鵺野先生は立ち上がろうと。正座から膝を立てた時、大きくバランスを崩してこちらに倒れてきた。
「えっ……ちょっ、鵺野先生……!」
咄嗟に受け止めようとしたけれど、支えきれるはずもなく、そのまま鵺野先生の下敷きになってしまう。
密着した体から急激に伝わる体温と重さ、すぐ傍に感じられる吐息。
「すみません!!大丈夫です……か」
身を起こす鵺野先生の態勢は、恋人の行為のソレに近くて。
先生の顔が近い。
太い眉の下の丸い瞳が私を見下ろす。
目が離せない。
だめだ。
見つめ続ければ続けるほど抑えていた気持ちがどうしようもなく溢れてくる。
明かしてしまいたい過去と
打ち明けたい気持ち。
「鵺野先生……」
「道明先生」
深く優しい鵺野先生の声が心地いい。
鵺野先生は慌てることもなく、まっすぐ私を見下ろしていた。
私達は大人だ。
二人きりで、
こうなってしまって、
見つめ合って、
名前を呼び合えば
鵺野先生は自然と顔を寄せてくる。
私も目を閉じた。
目を閉じても先生の顔がすぐ傍まで来ていることが分かる。
「おーい、ぬ~べ~!いるかー!!」
「まだ寝てたりしてー!」
「ぬ~べ~!どうせ一人でやらしい本でも読んでるんでしょ~!」
ドンドンドン!と乱暴にドアを叩く音と無邪気な五年三組の生徒達の声。
鵺野先生も私も慌てて身を起こした。
「あいつら……!!」
「家まで特定されてるんですね」
私達は目を合わせなかった。
床の木目を見ながら私は髪を直す。
「参ったな……アイツら、絶対に騒ぐだろうな」
「あー、そうですよね」
学区内で、二人きりで、それも一方の家の中で会うなんて、保護者に見られればアウトな状況なわけで。
鵺野先生の怪我のことを思っての行動だったけれど、事情を知らなければ不健全極まりない状況だろう。
そんなことに今更気づき、浮ついていた気持ちは冷水に浸されたように引き締まった。
「ぬ~べ~!いるんだろうー?!」
「居留守使ってんじゃないわよー!」
またしてもドアを無遠慮に叩かれ、私は思わず笑ってしまった。
「押し入れに隠れてやりすごそうかと思いましたけど、ちゃんと説明するしかないですね」
「すみません」
「押し入れには鵺野先生の秘密がたくさん詰まってますもんね」
「道明先生……!!」
鵺野先生は顔を真っ赤にさせて私を睨んだが、宏くん達の声に急かされてドアへと向かう。
残念な気持ちとほっとした気持ちがせめぎ合うなか、私は深呼吸する。
彼らの前で慌てないように紅くならないようにするために。
そして、さっきの鵺野先生の真剣な眼差しを頭の中から追い出すために。
ゴールデンウィークは、まだ始まったばかりだ。