水鉄砲
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焦げるような日差しに照らされた夏の日。
まもなく試験期間も終わり、夏休みは目前だった。
今日の試験は2限目で終わり、気分転換に駅前のビルをぶらつくことにしたのだった。
空調の効いた100均で見つけた水鉄砲が目にとまる。
懐かしさに思わず手にとって見つめ、小学生時代の夏休みを思い出す。
自分は手に取って遊ばなかったが、近所の公園に行けば同級生が遊んでいて水を掛けられたこともあったっけ。
「あれ?伊瀬階さん?」
背後から意中の人に声を掛けられた驚きで身体が跳ねてしまった。
「ご、ごめんね。びっくりさせちゃったかな?」
「う、ううん?」
振り返ると彼が申し訳無さそうな顔をして立っていた。
「土井くん。偶然だね」
「うん。ちょっと気分転換してから図書館に戻ろうと思って」
「あ。私も一緒」
そんな話は前にもした。
だから、ここに行けば土井くんに会えるかな、なんて思っていたのは秘密だ。
「それ、懐かしいね」
土井くんは水鉄砲を指差した。
「昔ね、近所でお世話になった人の息子さんとよく遊んだっけ」
水鉄砲を撃ち合う土井くんとそのご近所のこどもさんを想像して、微笑ましさにニヤついてしまった。
どんな風に遊んでいたんだろう。
小学生の塾講師をしている土井くんの面倒見の良さは昔からなんだなと、改めて知る。
「伊瀬階さんも遊んだ?」
「あんまり」
すると土井くんは悪戯を思いついた子どものようにニヤリと笑った。
そんな顔もするんだなと、新たな発見に胸が高鳴った。
「買って今からやってみる?」
「え?」
土井くんの目は輝いている。
「何色がいい?俺は青にする」
商品棚から青色の水鉄砲を手に取る土井くんに私は慌てる。
「え、待ってよ。今?どこで?」
「待たない。向かい側の公園でやろう」
「えー?」
ほら。と、土井くんは勝手に私の分も取ってレジへと言ってしまった。
「その後、お昼をどこかで食べて、一緒に図書館で勉強しよう」
「う………うん?」
なんか土井くんのペースに流されているような気がする。
水鉄砲は割と飛ぶ。
土井くんに向かって撃てば、顔をくしゃりとさせて甘んじて水をかぶってくれる。
「お返しだ」とギラギラした目で私を狙う土井くんは少年みたいでニヤニヤとトキメキが止まらなかった。
夏休みを満喫している小学生に負けず、私達ははしゃいでプラスチックのトリガーを引いたのだった。
ーーー
いや、素敵なんだけれども。
惚れ惚れするんだけれども。
でも、こうも当たらないと腹立たしいというか。
そんなものかと不敵な笑みを浮かべて私の水鉄砲をひらりひらりと躱す半助さんにモヤモヤしていた。
「ほら隙あり」
いつの間にか半助さんは私の背後に回っていた。
夢とは違う、ポンプの付いたやや大きな水鉄砲はなかなかの水圧だった。
「ひゃっ」
間の抜けた悲鳴を上げてしまい、半助さんにくつくつと笑われてしまう。
夢の話をすれば、正夢にしてあげようと笑う半助さんは少し怖かった。
量販店で大きめの水鉄砲を何故か所望したのは「こんなに暑いんじゃ、このくらい豪勢なやつじゃないと」という理由らしい。
体温とほぼ変わらない気温のなか、私達は誰もいない昼近くの公園で撃ち合っていた。
「もう!」
夢の中の土井くんは可愛らしかったのに。
振り返って撃っても誰もおらず、地面を濃い色に染めるだけであった。
「決めました」
こんな手は使いたくなかったが、仕方がない。
「今日の昼は竹輪入りのうどんにします!」
「いっ?!」
「嫌なら撃たれてください」
ジト目で睨みながら半助さんは水鉄砲を持ったまま、両手を上げて降参のポーズをするので、遠慮なく構える。
「っ………」
トリガーを引いて半助さんのTシャツを濡らす。
半助さんも私もびしょ濡れだ。
大の大人がなにをやっているのだろう。
あまりの暑さに勢いのないセミの鳴き声を聞きながら私達は黙ったまま見つめ合い、やがて同時に吹き出した。
「帰ろうか」
「はい」
私達は公園を後にする。
「お昼はどうしようか」
「うどんですよ。ちくわ抜きの」
「良かった。一緒に作るよ」
「茹でるだけですし一人で大丈夫ですよ」
「それでも一緒に作りたいんだ」
自然と繋ぎ合った手は水に濡れたから少し冷たかったけど、すぐに同じ温度になった。