夏の夜の約束
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パチ………パチパチ……
樹状の火花が微かに夜闇を照らす。
手元の橙の明滅を、伊助、石人くん、三郎次くん、タカ丸くんは息を殺して見守っている。
「あっ!」
伊助の持つ線香花火が落ちる。
続いて三郎次くん、私の火もポトリと地面に落ちてしまった。
残る石人くんとタカ丸くんだったが、僅差でタカ丸くんの方が長く残ったのだった。
「タカ丸さん、凄いですね」
「まだパチパチしてる」
尊敬の眼差しを送る私達にタカ丸くんは頭を掻いたから、その揺れで彼の線香花火もポトリと落としてしまった。
「みんなお待たせ」
「小さめだが打ち上げ花火を持ってきたぞ」
筒状の花火を抱えてきた久々知くんと半助さんに、私達は駆け寄った。
「線香花火をしていたんだね」
久々知くんの問いに私達は頷く。
「競争してまして」
「タカ丸さんが一位になりました」
そうか、と微笑む半助さんと目が合い、私の胸は飽きることなくときめいた。
「それにしても良かったんですか?土井先生がお作りなった花火を皆で使ってしまって」
「うん」
迷いなく頷く私に、尋ねてきた三郎次くんは意外そうに目を開いた。
「こうやって皆と花火をして思い出を作って……また新しく花火を作っていけたらなって」
言ったあとでしまったと思い、口を手で塞いた。
皆は何事かと黙って私を見つめているので、おずおずと手を外し、話を続けた。
「あ………あの、花火、これからも作ってくれるかな?勿論、私も協力するから」
まるで花火をさも当然のように作ってくれること前提に話をしてしまったのだ。厚かましく思われただろう。
おずおずと尋ねる私に、半助さんを含め皆は溜息を付くから、ますます不安になる。
しかし、すぐに皆は微笑んだ。
「勿論。作りますよ」
「豆腐作りと同じ位楽しいですから」と言う久々知くんの声は弾んでいる。
「これで火薬委員会主催の花火大会、なんて出来たら面白そうだね」
「うわぁ、楽しそうですね!」
タカ丸くんの提案に石人くんの真っ黒な瞳はキラキラと輝いた。
「それなら、『そんなことでいいんかい』なんて言われませんからね」
腕を組みながら話す三郎次くんに伊助は何度も頷いていた。
「そんなこと言わせないから。ついでに予算も確保してみせるから」
ヘタレの火薬委員会なんて言わせない。
ここは潮江文次郎会計委員長と気が合わないところであり、予算会議のときは物申したいところだ。
事務員がそんなことをしていいのかは分からないけれど。
「あ。黒い気配が滲み出てる」
「これがあの、土井先生に執着するあまり、土井先生に関連する物事については土井先生と同じ位執着するという朱美さんの『土井先生馬鹿』ですね」
無邪気に指摘してくる伊助と石人くんに、半助さんは苦笑していた。
「さて。打ち上げ花火の前にもう少し手持ち花火を楽しむか」
半助さんの提案に皆は賛成した。
三郎次くんと石人くんとで私は色が変わる花火を堪能していた。
石人くんは初めての花火に大はしゃぎだった。
「すごいなぁ!綺麗だなあ!」
はしゃぐ石人くんを少し呆れたように見つめる三郎次くんを微笑ましく見ているが、視界の端の動きに私はぴくりと反応する。
半助さんの髪を、眉を寄せて見つめているタカ丸くんが気になったのだ。
「土井先生………また髪の毛の手入れを」
半助さんの髪を掴もうとするタカ丸くんの腕をやんわりと掴む。
「タカ丸くん」
「………ひっ」
怯えさせてはいけないと純度の高い笑みを浮かべているのに、タカ丸くんはやはり怯えていた。
「いいから。花火、しよう?」
「ははははいいいい」
姿勢のいい彼だが更に背筋をピンと伸ばす彼に私は手持ち花火を渡す。
「タカ丸さん………」
「ほら、行きましょう」
久々知くんと伊助くんに手を引かれていくタカ丸くんに手を振れば、隣からは盛大なため息をつかれてしまった。
「何をやっているんだ君は」
「だって」
半助さんから軽くデコピンされてしまい、私は額を抑えた。
「来年も花火を作ろう」
「はい………あ………」
ふと浮かんだ言葉を言うべきか言わざるべきか。
「どうした」
ふっと笑みを溢しながら首を傾げる半助さんの破壊力に負けて、私は白状することにした。
「前と同じように………私の分は、半助さんが作っていただけますか?」
きょとんとしている半助さんに私は焦り、次々と言葉を並び立てた。
「も、もちろん私もお手伝いいたします。お忙しいところ恐縮なのですが、でも、どうしても半助さんのが良くて!だから!」
必死のあまり、声が大きくなってしまった。
「分かった。分かったから!」
半助さんは額に手を当てながら私に「待て」と、もう一方の手で制してきた。
「作るさ。もちろん」
困ったように笑う半助さんに申し訳なさでいっぱいになってしまう。
「お忙しくて無理なら………大丈夫ですから」
「いや、そうじゃなくて」
苦笑いする半助さんは、私の背後を指差す。
振り返れば、にやにや顔の火薬委員達が私を見ていた。
聞かれていても別に構わない。
そう言い聞かせても、羞恥心は湧いてくるもので。
頭を抱える私に半助さんは小さく笑ったのだった。