長編「今度はあなたを」
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四時間目は体育の授業だ。
四列横隊に整列させた生徒達は順番で鉄棒で好きな技を披露してもらう。
体育が得意な生徒は、連続逆上がりが難なく出来るけれど、苦手な生徒は前回りがやっとだ。
「芳男、お前って前回りしかできねぇの?」
石原耕太くんは正しく体育が得意な生徒で、村澤芳男くんは苦手な生徒だった。
ちなみに耕太くんは出席番号1番で、身長も1番高い。自分の気持ちを素直に口に出す性格で、それが人によっては傷つけてしまうことも多々あった。
芳男くんはご両親のお仕事の都合で今学期から童守小学校に転校してきた子だ。口数が少なくて、読書が好きな子で、転校前は読書感想文で県や全国の賞をもらっていた。
前回りを終えた芳男くんは、耕太くんに目もくれず、列の1番後ろへと歩いていく。
「無視すんなよ」
「耕太、いいから早くどいてよ。私の番」
峯川亜玖亜さんは、明るくて活発でクラスの中心的存在の女の子だ。芳男くんに更に文句を言おうとした耕太くんは、亜玖亜さんの睨まれて、大人しく列へと戻っていく。
しかし、列に戻れば耕太くんは芳男くんを睨んでいた。一方の芳男くんは気にする素振りもなく、そして誰とも喋ることなく前を向いていた。
ゴールデンウィークが迫るなか、私はこの二人の関係に悩まされていた。
今のところ芳男くんを悪く言う子はいないけど、クラスの中心人物である耕太くんの行動次第で、悪い流れが生まれるのではないかと私は危惧している。
悪い流れとは、無視や陰口、暴力………つまりいじめへと発展することだ。
杞憂であればいい。でも、かつての自身の経験から、発展する可能性は大いにあると思う。
阻止したいけれど、どうすればいいのか分からない。
まずは皆のことをもっと知ろうと、機会があれば話しかけて性格の把握に努めているけれど、芳男くんは壁が厚い子で、なかなか打ち解けてはくれなかった。
チャイムが鳴り、給食の時間になる。
「みんなよく手を洗ってね」
元気な返事と共に、皆は校舎へと走っていく。しかし芳男くんは一人ゆっくりと歩いていた。
仲よくなる絶好のチャンスだ。
「芳男くん。今日の給食は春雨サラダとハンバーグだって。楽しみだね」
「僕は別に」
目も合わせず放たれる冷たい言葉が私の胸を刺す。
「芳男くんはゴールデンウィークはどうするの?どこかお出掛けするのかな?」
「しません。どこも混んでますし。疲れるだけですよ」
即答だ。
小学三年生にしては大人びた答えだなと思った。
「じゃあ。先生は職員室に寄ってから教室に行くね。じゃあね」
「はい。お疲れさまでした」
昇降口前で手を振って別れれば、社会人のような礼と挨拶をされてしまった。
だめだ。
全然仲良くなれない。
取り付く島もないとはこの事だ。
スニーカーをスチール製の靴箱にしまいながら、私は溜息をついた。