長編「今度はあなたを」
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「はい。ではこの問題分かる者ー」
挙手する晶や郷子を指し、黒板の問題を解かせている間、ちらりと窓へと目を向ける。
この時間、彼女が受けもっている3年2組は体育だ。だから校庭で授業をやっていれば、教室から彼女の姿が拝めるというわけだ。
こんなとき、無駄にいい視力が役に立つ。
髪をまとめたジャージ姿の彼女。
首に提げたホイッスルを吹いては、鉄棒に励む子ども達を笑顔で応援している。
眩しい笑顔に俺もついついつられてニヤけてしまう。
幽霊展のデートでの彼女は、学校で会う彼女とはまた異なった雰囲気だった。
まとめた髪は下ろしていて、柔らかな色合いの服を着て……。
あの日のデートを境に、俺は彼女への気持ちをハッキリと自覚した。
恋だ。
好きだ。
とにかく好きだ。
そうと分かると単純なもので、職員室に彼女がいれば目で追ってしまう。
デートの日の夜に放送された妖怪特集を見たか尋ねれば、笑顔で感想を述べてくれた。
用がなくても、お茶を淹れようか尋ねたり、手伝うことはないか尋ねたりと、とにかく話したくて仕方が無かった。
おかげで職員室内の三年生の先生方が並ぶ机の島に近づけば、いつも呆れた視線を向けられている。
隣のリツコ先生はと言えば、面白そうに俺を見ては道明先生に関する情報を小出しに与えてくれる。しかしそんな時は、厄介事を引き受けさせる時なのだが。
ぬ~べ~………!
おい、………!
意識の外から広達の声がする。
何度も俺の名を呼んで………
………しまった!
「おいぬ~べ~!晶達はとっくに解き終わってるぜ?!」
「ぬ~べ~ったら、ずーっと上の空で外見てて!」
「どぉせ朱美先生のこと見てたんでしょ?!やぁねぇ、むっつり男のやることは」
こういう時はやたらと鋭い美樹は、見事に俺の行動を読んでいた。
「まだ授業中だってのに、デレデレ鼻の下伸ばしちゃって!どうせあの時のデートのこと思い出してたんでしょ?!」
既にクラスの皆は美樹から話を聞いているのだろう。同じタイミングで、深い溜息を付かれてしまった。
教師の面目が丸つぶれである。……今に始まったことではないが。
「デートが幽霊展って…朱美先生も変わっているわよね。でも、ぬ~べ~良かったじゃない、趣味が合う人がいて。朱美先生、あの時は否定していたけれど、やっぱりぬ~べ~のこと………」
郷子の言葉に美樹は「甘い!」と首を振る。
「好きな人とデートだったらそんな所に行かないわよ。もっとロマンティックな夜景が見えるところとか、高級レストランとか」
「やっぱいつも通り、ぬ~べ~の片想いなんだろ?」
「子どもが大人の事情に首を突っ込むんじゃない!」
克也はけらけら笑っていた。
というか、やっぱりとは何だ、いつも通りとは何だ!
「そろそろゴールデンウィークだし、またどっか誘うのかよ」
「誘ったとしても教えん!どうせ付いてくる気だろう?!」
「何よぉ。デートコースについてアドバイスしてあげようと思ったのに………って無理よね。こんな万年金欠男、どこも誘えないわよね」
「余計なお世話だ!」
当たっているのが悔しい。
霊水晶や数珠の手入れやらで出費がただでさえかさむに加え、悪霊との戦いで破損させてしまった備品の修繕費によって振り込まれる給料は雀の涙レベルだ。
だが………せっかくの連休………
どこか誘いたいに決まっている!
「どうでもいいけどぬ~べ~。早く授業進めてよ」
晶が苦笑いしていた。
はっとして時計を見れば、間もなく四時間目が終わりそうで、俺は慌てて授業を進めた。
ありもしない学校の怪談話やくだらない噂話を話題に出す美樹や広を何とか収めながら算数を教えつつ、連休のプランを練っていたのだった。