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ナルトと愉快な仲間たち

 彼、はたけカカシは難しい顔をしながら手に持つ一枚の紙と睨めっこをしていた。
 その紙は書類であり、彼の悩みの種でもある。

「中忍試験…か。」

 思えば最近、ロクな事がなかった。
 身体が鈍っている事は分かっていたのに何もしなかった自分が悪い。悪いが…

 ナルトの怪我、サスケとの修行、帰ってきたらナルトが狙われているから手助けして来いと、火影から命が下った。
 ナルトLOVEなカカシなので言われずとも行ってやると覚悟を決めて、出陣。
 敵を難なくぶっ倒して、ナルトが起きるのを待つだけだと意気揚々していた直後、襲ってきたのは昔置いてきたはずの過去の記憶。

「せんせい…?」

 波風ミナト本人がそこに現れた…と思った。その次の瞬間には変化だったと音を立てて元に戻る老人。
 名をたしか、ミト。三代目火影のご友人。だが、カカシは不に落ちなかった。

「あれは本当に変化だったのか…?」

 己の勘が告げていた。あれは真の姿だったと。しかし、心が追いついていけない。
 懐かしい感覚。優しい臭い。どれをとっても、彼だった。ていうか、あの時自分は写輪眼つかってたし。
 はぁ…カカシはため息を吐く。なーに熱くなっちゃってんの俺。そんな分けないじゃないの。先生はあの時…たしかに…

 自分はまだ、過去に縛られている。何も出来ずに己の先生を死なせてしまったあの、忌まわしい過去に…
 その時自分は絶望した。大切なものを奪っていく世界に、儚い脆い命に。
 そして、己の未熟さと力のない自分に。
 また、失ってしまったと。俺は何度、大切なものを失ったらいいのだと心の中で嘆いた。

 そして、もう何もない、何も持ちたくないと、任務に没頭し明け暮れた。
 来る日も来る日も何も考えないように、何も思い出さないように、連休無し休み無しで働いた。術も磨いた。火影が気を使って無理に休暇を与えても、自分はそんなものは必要ないと言い張る。

 しかし火影は休んで頭を冷やせといってちょくちょく休暇を与えていた。
 その休暇のたびに血の滲むような修行をやったカカシ。ゲロや血反吐も吐きながら、身を削るようにして励んでいくうちに、大切なことに気づかされた。

 周りが、己を気にしている。心配しているということに。
暗部の後輩も、火影も、もう常連客となってしまった店々の主人達も。皆。
 だから気づいた。己は心も未熟だったと。そして、木の葉の里こそが己の帰る場所だと。己の守る大切なものだと…

 その心の変化に、一番に嬉しそうにしていたのが三代目火影だった。
 よくぞ気づいてくれた…。そう弱々しく呟かれた言葉が自分の心の奥深くに染み渡った時のことはよく覚えてる。泣きそうになった。不覚にも。

 目の前で静かに涙を流して喜ぶ三代目火影。いや…今は一人の心優しいおじいちゃん、猿飛ヒルゼン。その心遣いと優しさが、とても嬉しくて仕方がなかった。
 いつもは小難しそうな顔で説教してきたり、怒ったり怒鳴ったり、イチャパラを読んでいるときのダラケタ鼻の下を伸ばした助平の顔だったから尚更だった。

 だから、驚愕したのだ。自分が担当する子供達がよりにもよって、あの二人+αだったから。

 かたや、自分が置き去りにしたい過去の恩師の息子、うずまきナルト。
 かたや、自分が消し去ってしまいたい過去のライバルの弟、うちはサスケ。

 正直言って、顔を合わせる前から逃げ出したかった。嫌だといって、暗部に戻ってしまおうかと考えたときもあった。
 悩んで悩んで、悩みきって疲れ果てて、しかたがないと腹をくくって会いに行って…愕然とした事を今でもはっきり覚えている。

 目の前の構造は摩訶不思議としか言いようがなかったのだから。

「…二人ともなーにやってんの?」

 そう言えば、きっと止まってくれるだろうと発した己の言葉はキレーに無視され(地味に傷ついた)、挙句目の前に広がるは美男子サスケがいたずらっこの、でもきっと多分将来はきっと美しくも格好良い青年へと変化するであろう笑顔素敵ナルトにちゅーしようとしている場面。


…………。


ナニコレ??

 ああ、駄目だ。昔の記憶と今の現実がダブルになって襲い掛かってきて心が折れそう。HP(体力ポイント)ゼロに近いほどダメージ負ったよ痛てーどころじゃねーよコンチクセウ。

 もうヤダこんな世界嫌い。俺引きこもりたい。ていうか逃げたい。全部ポイ捨てて農園やってのんびりしたい。お茶飲みたい。
 と、カカシが遠くを見つめて現実逃避していた瞬間、ナルトの雄たけびのような、女子の悲鳴のような大声が聞こえてハタと現実を見据えた。

「ふっざけんなぁああああ!! プチ変態がぁぁああ!!!」

 顔を真っ赤にさせて、涙ぐみながらクシャクシャな悔しそうな顔で。細められた鋭い目。

 カカシの心をかき乱した。子供であるにもかかわらず男の子にナニコレ可愛い。
 そう思った自分に一番ダメージを食らった。
 なにやってんのよ俺。疲れてるんだな。
 そう考えながら目の前で戦闘もどきを繰り広げる二人を瞬間的に止めた。

 嫌いだ。こんなやつら。俺の心をかき乱す。俺が俺を保てなくなるようで嫌だった。だから嫌いだと言った。なのに…

 気づけばサクラはただの女子じゃなさそうだったし。いきなりナルトLOVEだと言ったし…サスケも何故だかナルトLOVEだったし。腐的な意味じゃなく、別の何かについてのLOVEだったと後から気づいたが。
 その後、だんだんナルトを認めていった自分が居て、どんどん惹かれていった。
 しまいにはナルト三馬鹿と言われたし。うん、まぁ、LOVEってそういう事だよね。

 そういえば、彼、ナルトが一番変わっていた。
前、暗部で護っていた時期があったが…随分と変わったなと感じたのだ。
 雰囲気というか、考え方というか…記憶が曖昧であまり思い出せないが…思い出せる部分もある。だからおかしいと思う部分が幾つかある。
 なにより、おかしかったのは、彼の夢だ。

『火影を超える火影になる』そういつも呟いていたはずだったのに。
 自己紹介のとき掲げた夢は…想像を超えるものだった。

『火影を超える』そう言った。そして…こうも言った。『歌って、世界を救えると思う』と。
『だから夢は世界を歌で救う事!! 歌が俺を救い上げたように、皆を救える歌を歌う事が俺の夢だってばよ!!』

 それって、火影になる気はない。だが、世界を救う。その手段が歌だと。そうすればどんな歴代の火影をも超えると。そう聞こえたのだ。
 カカシはその日以来、気がかりだった。そもそもナルトは不幸が立て続きに起こり、それでも真っ直ぐさは変わらないと安堵もした。
 しかし、妙だ。いくらなんでもおかしい。夢は、そんな短期間で変わるものなのだろうか? あんなに真っ直ぐだからこそ、己の信念を曲げるなど、考えにくい。ナルトだからこそ、尚更おかしい。

一体、自分が知らない裏で何が起こっている?

 カカシの不安は募る一方だ。そしてそんな時に限って、波乱の種はブッ込まれるものなのだ。それが悲しいかな。己の住まう世界の理らしい。

「こんな時に中忍試験? ふざけているとしか言いようがないよね」

神様は自分に優しくない。ポツリと呟いたカカシだった。


○●○●○●○●○●○●○●○●○●○


「中忍試験…かぁ…」

ポツリと呟くのはナルト。

「なんだ? 受けないのか」

隣で嫌味ったらしく言うのはサスケ

「そんな事は言ってないってばよ。ただ…俺は別に中忍になりてぇだなんて思ってもなかったから」
「はぁ? 火影になるのがお前の夢じゃなかったのか」
「…俺は一言もそうは言ってないってばよ?」
「え?」
「俺は『火影を超えたい』って言ったんだ。『歌で超える』って。」

二人の手に握られているのは、先ほどカカシに報告された中忍試験を受ける下忍に渡される、言わば、許可証。

「ふうん。俺はてっきり火影を目指しているからお前は頑張ってたと思ったんだがな」
「別に火影を目指さなくたって出来ることは沢山ある。」
「歌で人を救うってったって、どうやってだよ。それに、火影目指してないんだったら、どうして下忍になろうとした? どうして今まで任務こなしてきた?」

「ああ、それは、まぁ、働いて生活費を稼ぐためもあるけど」

風がよく吹く原っぱにナルトは寝転がった。

「チャクラとか、術を使えなきゃ、俺の目指している“あの人”には近づけないからなぁ。歌にチャクラをこめて癒すなんて並みの上忍でもあまりできないってばよ」

そのナルトのため息交じりの言葉に、サスケが驚き固まったが…彼は何も言わず、そっとナルトを見つめるだけだった。

「あの人って、誰のことだ?」
「え?」

 サスケは幾度となくそうやって聞いてきた。時折ナルトは遠くを見つめながら、あの人のような凄い人になりたいと言う。それで興味でそれは誰だと問えば、ナルトは不思議そうに首を傾げる

「さぁなぁ…いっつも思い出そうとするんだけど、モヤみたいなのが邪魔して思い出せねぇんだよなぁ…」

 いつもこんなだ。しかも偽りのない真剣な眼差しで考え込む事から、彼自身も不思議でしかたがないのだろう。
 それもそうだ。本当に憧れている人なのならば、それはいつまでも思い出の中に、記憶の片隅に、魂に刻まれ、永遠に衰える事はないのだから。
 なのに、覚えていないのではなく、思い出せないのには、かならずそこに謎を解く鍵があると、サスケは考えていた。

 実を言うと、サスケはシカマルとなんとなく和解したあの後、幾度と修行に付き合い、話すうちに、シカマルからとんでもない情報を得ていた。
 それは、木の葉の里には影がある。その影はナルトはもちろん、世界を揺るがすほどの危険な爆弾だとも。

 腑に落ちない出来事が幾つかあるとも言っていた。
 その一つが、ナルトだ。“気がついたら”そこに彼がいて、クラスメイトだと言うこと意外、一切の記憶が己らにない…いや、“思い出せないでいる”と。

いつからナルトは己らの側にいる?
いつからナルトはそんな夢を掲げ始めた??
いつから、ナルトがどこか違う…と感じ始めた?

幼い頃、幾度か会った気がするのに、まったく思い出せない。

 そして、そんなモヤモヤしていた時、カカシとの修行に出て帰ってきて、そしてすぐまた任務でナルトを救いに出かけたあの日。
 あの日に得られた鍵は沢山あった。それが確信を呼び寄せたのかもしれない。

 カカシがサクラの力を確かめようとして写輪眼をワザと隠さずそのままで問いただそうとして失敗して笑いあっていたとき。
 ふと、何かの気配を感じたのか、カカシがハッとして窓際のほうを見た。つられて見ると、そこには、そこはかとなくどこかで見た事あるような美男子。しかも誰かに滅茶苦茶似ていた。
 その男を見て、驚愕したカカシは、目を見開いたまま驚き固まり、そして呟いたのだ。

「せんせい…」

と。

 あの、鼻の良い、己が認めた上忍が。呟いてしまった言葉。
 うっかりではなく、苦々しく悲しげに儚く言うものだから、何も聞けなかった。
 あそこで無神経にも聞いていたら、カカシの何かが崩れるような気がして。
 だから、黙ったままにしておいた。

そして重要なもう一つの鍵は…ナルトが起きて発した言葉だ。

 なんかわかんねぇけど、わかったから。
 なんか知んねぇけど、もうすぐで里に帰ってくるから、あと少しの辛抱だって言ってた。

 誰が? と聞くとナルトはいつもの笑顔で、わかんねぇと。

 夢の中でいっぱい話して、しかし目が覚めれば忘れてしまっていたと。しかし、彼は眩しい笑顔で自信満々に言った。

 優しい感じは覚えてる。懐かしいポカポカする暖かさだった。と。
 なら、もしかしたら、ナルトが憧れた人の記憶と、その夢の中で出会った人の記憶が曖昧なのは…もしかしたら、それは同一人物だからなのではないかと。

だったら、もうすぐ出会えるはずだ。

 会えたら、思い出す。ナルトが言ったその言葉に、妙に納得してしまったのだ。
 まるで、自分も誰かにそう言われたような感覚。

ならば、答えは一つ。

「中忍試験で、なにかしら起こる。だから、“帰ってくる”。会えたら、すべてが分かるように仕組まれている。ってことなんじゃねぇかな」
「サスケ?」
「ナルト、もしかしたらお前が一番、思い出しちゃまずいから、お前の記憶も封じているのかもしれないぜ? 考えたら、ずっとおかしい事ばかりなんだ。昔、知り合ったお前と今のお前、なんか違う。でも、お前はお前だし、頭こんがらがるけど」

でも、その謎すべて、中忍試験でケリがつく。

「そう思ったら、ワクワクが止まらねぇ」

ニヤリと笑ってくるサスケを見て、ナルトもニッカと笑う。

「俺も」

風を身体全体に受けながら。

「そう思うってばよ」

目をつぶった。

「なぁ? サクラちゃんもそう思うだろ?」

そのナルトの言葉に、初めて側の木にサクラが天辺にいることに気がついた。

「ええ。多分下忍の、ナルトを救出したあの皆全員そう思っているはずよ。」
「しかも、三代目火影が裏で手を引いていると俺は感じたな」
「うん。俺もそう思った。カズハ姉ちゃんとカズキ兄ちゃんもきっと一枚噛んでるってばよ。」

あの日に限って時々チャクラを乱していたから、皆感づいた。

「これは試験受けなきゃ、きっと前には進めないわ」

三人、寝転がってため息を吐きつつ、目をつぶった。

「じゃあ、せめて、今少しだけでも心と身体を休ませなきゃな」

そこに、カカシも現れて三人の隣で寝転がったのは、言うまでもなかった。

「「「やっぱり居たかストーカー」」」

その三人の容赦ない台詞に

「もっと労わって欲しいな…先生もヘコムんだよ?」

とほほ。と悲しんでいるカカシがそこにいた。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*


試験当日。

様々な者達の思考や想いが飛び交う中、中忍試験は開催された。

 最初の難問は幻術。だがそこは幻術小町のサクラ。すぐに見破り、後の二人に合図。程々にな。そうサスケに言われてチッと舌打ち。
 幻術返しをお見舞いして、サクラは鼻歌を歌いながらその場を去った。お見舞いされた側は苦しみもがき、た、たすけ…て…ガクッ。と意識を暗闇へと落としてしまった。

 それを見て、「あーあ…やっちゃったよサクラちゃん…」と、倒れた術を使った二人を可哀相な眼で見るナルトに「ザマーねぇな。術士が聞いて呆れるな」と小生意気に静かに罵倒するサスケ。
 満足げに鼻歌を歌い続け、ニンマリ黒い笑顔を振りまくサクラ。

まさに、恐怖のスリーマンセルがそこに健在していた。

「あ・れ・ほ・ど! 手加減忘れるなって言ったでしょ?!」

 一つの部屋で待機していると、カカシが現れ三人に説教を始めた。
 試験開始、約三分でカカシの元に苦情が届いた。危険すぎたら三人とも中忍試験脱落させると言われてしまったカカシは猛ダッシュでかけつけた。
 そんな事がもしおきたら、あの三人がどうなるか想像した。最悪な結末しか浮かばない。
 サスケはきっとこんな里には愛想が尽きた。とでも言って里抜けするだろう。
 ナルトは親友を取り戻そうとして、サスケの考えに特化されて一緒についていってしまいそうだ。そしてそんなナルトをサクラが黙って指をくわえて見ている分けがない。
 きっと後を追って、後々力をつけて木の葉に復讐するかもしれない。

*カカシは妄想力がハンパない

そんなこと起こさせるかっ!

カカシはなお、一層声を張り上げた。

「ただでさえ、お前らはちょっと(どころではないが)スレてんだから、そこを計算に入れて、周りの凡人たちを驚かさないようにするのもまた、忍びにとっては大切な経験だ!! それをお前らは…「え? かなり手加減しましたよ?」どの辺りが? 子供に扮してたとは言え、相手は中忍だったんだぞ? それを悶えさせ、呼吸困難にさせ、挙句には失神させるなんて…「でもさー、あれくらいのレベルで中忍ってさぁ、駄目じゃねぇ? イルカ先生のほうがまだまだマシだってばよ」ナルト、お前につき合わされてもはや凡人の中忍レベルを超えてしまった可哀相なイルカ先生と比べちゃ駄目だ!!」

そこで息切れしてきたカカシは一旦止めて呼吸を整えた。

「とにかく、先のことを考えて、相手に合わせて戦え。もし強い奴が居たら、もうそこは遠慮せずにドカンといっても良い。でもまだだめだ。せめて、“死の森”が出てきたら本気を出すことを許可しよう。」
「えー。面倒くさいってばよぅそれぇぇええ」
「ナルト、勘に触るからその言い方は止そうな」
「えー。それでもナルトは可愛いからいいでしょせんせぇぇぇええ」
「サクラ、いくらお前でも先生本気でブン殴っちゃうゾ☆」

出やがった! カカシのキレル寸前の素敵スマイル!
サスケは一瞬にして背筋が凍り、瞬間的にカカシとサクラとナルトの前へ出て、二人に向き合った。

「サクラ! ナルト!! もういいだろ!! 担当上忍のあのカカシが言うんだ。きっと他にも理由がある。大方、他の危険要素を呼び込まないように、目をつけられないように俺達を護ろうとしての発言だ。ここは従おう」

その、あまりにも一生懸命で、なおかつ真剣な、焦っているサスケを見て驚く二人。彼がココまでするのなら、本当なのかも…?

「え…そ、そうなんですか…? 先生。」
「先生…優しいってばよ…俺、今始めて先生のこと見直した」
「じゃあ、今まで見下してたって分けなんだ?」
「そんなことは言ってねぇぞカカシ。俺達はちゃんとお前を認めている」
(え? 私まだ認めてないけど??)
(見直したのは事実だけど…俺にとっちゃまだ先生は弱そうな印象があるってば)
(しっ。黙れお前ら!! お前らはこいつが本当にキレたところを見てないからそんなことが言えるんだ。)

えっ?!

(この遅刻魔が?)
(多少ビビリでちょっと間抜けで死んだ魚のような目をしているこの先生が??)

サスケは疲れたため息をした。

(ああ。おまけに助平も入るな。イチャパラ常習犯だし。だが、普段は奴の蕩けるように甘い優しさが勝って本気が出せないだけなんだ。一度ブチ切れたら、制御なしに全力の力でねじ伏せてきやがる…それを俺はこいつとの修行の日々の中で垣間見た。俺でもこいつの攻撃避けられなかったくらいだった。全部食らったんだぜ。全部だ。まぁ、丁度いい修行にはなったんだがな。)

うそ?! 先生ってそんなに強かったんだ?!/のか?!

「ねぇ? お前ら…さっきから、失礼なこと考えてない??」

ゆらりと、幽鬼のような銀色の狼のような影がゆれた。
いわずもがな、カカシだ。
三人はとりあえずカカシのご機嫌をとることにした。

「先生、悪かったってばよ。俺達まだまだ周りが見えてないよなぁ。」
「本当。立派な優しい仲間想いのカカシ先生が私達の担当でよかったわぁ」
「そうだな。気を配ることは大切だし、視野もカカシは広い。さすが俺が認めた上忍だ。」

みるみるカカシの鬼の顔が消えて行き、寒気がするほどの殺気もやむ。

「そ、そう? そこまでの男じゃないとは思うが…」
「いやいや、そんなことはないってばよ?」
「そうよ先生。貴方は私達の唯一の存在よ」
「だな。こんな逸材、めったにいないよな」

 今まで貶す事しかしてこなかった下忍たちが…褒めまくる。やっと彼らに認めてもらえたのだろうか…
 あ、やばい。泣きそう。

 カカシはグッと来る涙を押し込め、にっこりと照れ笑いをしながら頬をかく。
 その、初めて垣間見る少年のような可愛らしい仕草に、不覚にもナルトやサクラ、サスケさえ、雷遁を食らったかのような衝撃が走った。

グハぁぁぁああ!!←血反吐

心の叫びはかろうじて三人が必死に口を閉じたことで出すことはなかったが…

その照れ笑いのまま、手を振りながら今世紀最大の嬉しそうな仕草で爽やかに手を振りながら翔けて出て行くカカシを見送り…

 残されたのは、その最後の姿を見て、たまらず胸に手を当てて過呼吸になっているサクラ。
 顔を真っ赤にしながら、地面にゴロゴロ転がって悶えているナルト。
 誰にも見せないようにうつ伏せて柱に手を当ててため息を繰り返すサスケが残された。

だめだ。褒めすぎてもダメージが来る。

 三人はカカシの恐ろしい(本人は自覚無し)天然タラシを回避するため、今後気をつけようと心に誓った。

「ていうか、なんなんだってばよここの先生たちは…イルカ先生といい、カカシ先生といい…」
「そうよね…普段とのギャップがあって…なんだかグラッと来るわ…萌えっともくるわね…」
「不覚ッ…! カカシなんかにトキメイてしまった自分が気色悪い!!」
「しかたないわよサスケくん…きっとこれが、幼少期、子供で居られなかった立場の天才の名残…だから時々可愛いくかんじちゃうのよ。中の子供がでてくるから。」

そうして、三人は、きっと永くなるだろう中忍試験を真面目に手を抜こうと決意した。ヤバそうなときは本気を出す形でいこうと決める。

 またカカシが出てきて天然タラシ(略してTNT)でもお見舞いされた日には、何か異次元的な扉が開きそうで怖い。
 だから、頑張らないことを頑張ろう…!

 変な決意を固めた三人だった。
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