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ナルトと愉快な仲間たち

昔から眉毛が濃すぎて気持ち悪いと言われ続けていた。そしてセンスが全く無いために良く苛められていた。
別にモテたい分けじゃない。気持ち悪いと言われても案外平気だ。

ただ一心に願うは些細な夢。皆に認めてもらえること。
そして…いつか同じ立場の子を見守り、助け…道を見せてあげる事…

アカデミーと言う忍者学校に通い始めて彼が一番の問題にぶつかったのは…まもなくの事だった。担任の上原うえはらマコ先生は優しく気立てが良くて誰からも尊敬される良い人。彼女は女でありながら男子クラスの担任で、そん所そこらの大人の男共を投げ飛ばせるほどの実力の持ち主。

初めの頃、自己紹介で色んな子供たちが好き、嫌い、将来の夢などを語っていく中、彼だけが他の子と少し違う事をマコは見破っていた。

「はい、じゃあ次はそこのオカッパ頭の緑色の子。」

マコがそう言うとクラス全ての子達が彼を見つめた。そしてプッと笑うものや「なにあの眉毛とあのダサい緑色のジャージ…」と呟くモノも居たが、そんなものお構い無しに彼は勢い良く元気に自己紹介を始めた。

「俺の名前はマイト・ガイ! 好きなテレビ番組は『燃え上がれ! 熱き魂のバトル』で、好きな映画は『熱きスピリットのレクイエム』。好きな言葉は『青春、友情、努力』で、好きな食べ物はカレーライス。趣味は修行。将来の夢は誰かを助けられるような立派な大人になることです。嫌いなものはまったく思いつきませんので無いと言う事にしておいて下さい。これから宜しくお願いいたします!」

その勢いの良さに皆は唖然として固まった。どこの少年雑誌のアイデンディティ三条を掲げてるんだよと、ほとんどの者が思ったらしい。そして彼の二度名は今この瞬間から『熱苦しい珍獣』になってしまったのだった。

初日の自己紹介の時にクラスで浮き始めた彼、マイト・ガイ。九歳。いつも努力を怠らず何事にも全力を尽くした彼が…ある日の授業をキッカケに苛められる事になる。

あれは十歳になったばっかりのことだった。手裏剣授業、体術授業の他にもう一つ新しい授業が今年から始まる事にガイは内心ワクワクしていて、少し不安ながらも、彼は期待していたのだった。
親も、数少ない友達も彼に期待していて、それに応えようと頑張るつもりだったのだった。

「はい、次は皆が待ち焦がれた新しい授業、『忍術』です。」
「待ってました!!」
「やったぁ!」
「これが出来なきゃ忍者失格だぜ!」

その場は大いに盛り上がりマコは手を叩きながら「静かにしないんだったらやらねーよ?」と黒い笑顔で脅した。もちろん、直ぐに静まり返る教室。

「まずはチャクラの事について。この説明はとても重要だからちゃんと聞くようにね。」

少しずつ語られる忍術についての授業。分かりやすくノートにメモッたり、注意事も横に書いたりしてガイはカナリの真面目くんだった。
せっかくのこの機会を無駄にしたくない。期待に応えたい。忍者になりたい。

色んな気持ちが膨れ上がっていくのを彼は止められない。

ドキドキする。

忍術ってこんなにも幅が広く素敵なものだったんだ。
そして、同時に残酷なもの。使い方で人を殺す事もできる。
でも、それで人を助ける事もできる。

夢に一歩近づけるんだ。

一通り説明し終わり、印の組み方を教わり何人か前で試す事となった。変化の術。選ばれた生徒は計三人。他にも何名か手を上げやりたいと言い張った生徒はいたが、三人に絞られたのである。

忍者にとって全てにおいて完璧と言える『天才のはたけカカシ』

ずば抜けた身体能力と特殊で未知数な血系限界の一族、『数楽すうらくカズキ』

そして…『珍獣のマイト・ガイ』

カカシとカズキが呼ばれたときは皆に拍手喝采されて大歓迎されたが、ガイが呼ばれると皆静まり返りヒソヒソと話し始めた。
あまり良く思われていない証拠であるが、そんなのお構い無しにガイはマコ先生の説明を聞いている。

印を組む時はテンポ良く、順序良くかつ、スムーズに。
何に変化するかしっかりイメージしてチャクラを乱さずリラックスしながら。

肩に力を入れすぎないように。
最善の注意を払い三人はテンポ良くかつ、スムーズに印を組む。

そして

「「「変化!!」」」

そう言う声が聞こえ、ボン! という音と共に教室は煙に包まれた。

「カカシは上手くコツを掴んだみたいだな?」

マコは微笑みながらカカシを見つめた。そこには一匹の銀色の猫が居た。

「動物に化けるのは案外難しいんだよ。想像力が必要だしね。」

そう言いながら今度はカズキのほうを向く。

「ほう。私に化けるとは中々やるじゃないの。」

体系、身長や髪など全てをマコからそっくりそのまま映したカズキがいた。

「他の人、特に身長差がある人に化けるにはかなりチャクラコントロールが要される。集中力もね。カズキは天才と言うよりは天災…意外だったな。カカシより優れた奴がいるなんて。」

ますます笑みを深めたマコがそう言いながら今度はガイの方を見た。
そう、ガイの方を見たはずだったのだ。
しかし、何故かそこにガイの姿は無く、あるのはただの穴。

「「「何で穴があいてるの?!」」」

あっけに取られて皆の声がハモッた瞬間だった。

「…ガイ、穴を想像したの? と言うより、何故に穴に変化したの??」

と、穴に問うマコ。すると驚くべき事にその穴が喋りだした。しかもガイの声で。

「いえ、特には…マコ先生、どうやら俺は集中力も想像力も無いみたいです。」

力無く沈んだ声にマコは溜息を零す。

「もういい。じゃ、皆もうそろそろ変化解いて。席に戻りなさい。」

ボフッと音がしてカカシとカズキは席に着いた。

「えーと、それじゃさっきのおさらいと行こうか。変化の術でもっとも大切なのは―――…」
「先生。」
「ん? 何だカカシ?」
「ガイ君がまだ変化を解いてません。」

え? と言いながら振り向けばそこにはまだ穴のままのガイ。

「…ガイ?」
「はい。」
「何故解かない?」
「解けません…」

ハァ…と盛大に溜息をしながらマコは印を組み、次にチャクラを手に集中させ、その手をガイに乗せた。

「解!」

ボフン!

と盛大に音が鳴り、多めの煙が教室を包んだ。
ケホッケホッと皆が咳払いをし、前を見ればガイが大人しくそこに居て。

「チャクラが上手く練れなかったらこんな事になる。だから皆、一人の時や暇な時に練習するように! 変化が解けなかった場合、チャクラが切れれば元通りになるから安心してね。ほらガイ、席に着く。」

「はい…」

大人しく席に着けば皆がヒソヒソと馬鹿にする声が聞こえる。チラリと見ればクラスの殆どがガイを見下したような目で見てコバカにしていた。
そしてさらにシュンとするガイ。

その日は一日授業に身が入らなかった。

家に着けば家族からどうだった? と聞かれ「上手く変化が出来なかった上に皆に笑われた」と言えば頑張りが足らないだの、もっと努力しろだの言われマスマス落ち込んだ。

それなりに頑張ったし、努力も毎日怠らない。
それなのに一体何が悪かったと言うのだろう。

夜はああすれば良かった、こうしたらどうだったか色々考えて結局あまり眠れず、そのまま朝が来て学校へ行く破目に。

いつもなら鳥の鳴き声を聞き、緑多き豊かな道を楽しそうに口笛を吹きながらルンルン気分で学校へ行くが…今回は流石にそんな事は出来なかった。普通に学校へ歩いていく。

その道の途中でクラスの何人かが集まって集団行動をとっていた。皆、木陰に隠れているがバレバレだ。ガイはため息をこぼした。気配も上手く隠せないのか…。

しかし、なぜ集まっているのだろうと思いながらも、昨日の事が頭を過ぎり声を掛けられない。隠れている(つもりな)のなら、このまま気づいてない振りをして行ってしまおう。

これからどうするか。そう考えている最中に何者かにジャージの襟を掴まれ「グェ」と変な声が出てしまった。

見れば先ほどの集団が自分を囲むように立っている。

「何かな君達?」

少し警戒しながら問うてみた。集団はいつもガイの事を馬鹿にし、影で笑っていた奴等だ。きっとロクな事考えてないな。そう直感した。

「お前、いつもムカつくんだよ!」

そう言いながら右ストレートをガイの腹に。腹いせか?

「ゲホ!」

痛い。

「そんなに頭も良い分けじゃないのにテストで三位に入るし、体術だけはあの天才のカカシにも勝つし!」

そんなの知るか。そう言いそうなのを我慢する。

「変な格好のくせして女子に良いよね~とか言われてるし」
「何かとマコ先生はお前の肩を持つし。昨日だってお前なんかが前へ選ばれたのだって…」

ぶつぶつ文句をぶつけてくる同級生達。
なんだ。ただの嫉妬か。

「…勉強や復習をしているからだ。それに体術が得意なのは暇な時は必ず家だろうが何だろうが修行してるから。君らはそう言うの、した事があるのか? 努力もしない君らに何を言われようが知ったこっちゃない。君らの努力が足りないだけだろう。」

そう言いながら突っ立っていると何か危機感を感じて横にスグサマ避けると、直ぐに誰かの足が地面へ叩き落された。

「ちっ」
「正論なのもムカつく。」

その言葉が合図だったかのように十人全てが攻撃を仕掛けてくる。

最初のうちはガイも右に左に、上下ジャンプしたりして避けていたが、集中力が途切れて油断してしまった。
正面から来るパンチを避け、さて、これからどうするか考えていた時だった。

足払いをかけられ、地面にドサリと落ちた。
そしてその瞬間、いっせいに攻撃をしかけられ…見事ボコボコにやられてしまったのだった。

何分、何時間それが続いたのかは分からない。痛みが凄くて気絶してしまったから。
気がつけば辺りは薄暗く、森の中へ放り込まれているのが分かった。

「学校…無断欠勤しちゃったな…」

ポツリと呟くガイはボーっとしながらフラフラと立ち上がった。体中が痛かったが普段の修行で体を鍛えていたため、あまりダメージは無かった。腹と背中に異様に痣が出来たが、まぁ大丈夫だろう。

別にあいつらの事を強く信頼していた訳じゃないが軽くショックだった。

「…毎日顔を合わせるのに…遠慮と言うものを知らないのか。あいつらは。」

腹を抱えながら森を抜ける。

「門限…護れそうに無いなぁ…」

服の埃を取り除きながら何故か痛い左足を引きずる。家まではそうかからないが、この状態だときっと門限の八時半までには戻れない。

「まったく、とんだハプニングだ。」

そう言いながらニヒルに笑ってみせる。
きっとカカシやカズキだったら格好良いと言われるだろうが…

ホッペが紫色に腫れ上がり、服も体も土まみれでアチコチ傷や痣がついた自分が笑ってみたとしても立派な絵にはなっていないだろう。
むしろ恐怖のゾンビのような絵になってるのではないか。

思いながら彼は体を引きずる。
こんな姿は誰にも、決して見られたくない。

ポタポタと頬から地面へ水滴が流れてくる。

そう、こんな惨めな泣き姿など、誰にも見られたくない。

時間帯が夜で良かった。そして空を見上げる。自分を慰めてくれる温かい光を持つ綺麗な月は…出ていなかった。

「新月…」

何もかも闇と化してしまう日。空も空気も人さえも。
この日、マイト・ガイは、人々の心の中に潜む、醜い化物を垣間見たような気がした。
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