ナルトと愉快な仲間たち
「ナルトの怪我が治らない??」
「そうなんじゃよ。」
ここは木の葉の里の中心部に立っている火影屋敷。空は澄み切っていて晴々とした青。その清んでいる青はある人物を脳裏に浮かばせる。
「どう言う事ですか三代目?もうかれこれ一ヶ月ですよ?いくら重症だったとは言え…」
カカシが焦ったような顔で聞いてくる。対する三代目は書類を片付けた机に置かれた一枚の報告書に目を通していた。かれこれ一ヶ月、ナルトは入退院を繰り返し、任務もまともに実行できてない。第七班率いるカカシ班は癒しの歌姫が体調を崩し続けているのを黙って黙認していたが、つい三日前に田んぼの大ナメクジ退治の最中、力尽きて倒れた。
空中跳び膝蹴りを大ナメクジにお見舞いした後だったのでそのまま田んぼへダイブする所をカカシが素早く抱えて回避したのだが…ナルトの手足からあの変な文字が浮かび上がっていて彼は全身血だらけだった。直りかけの傷が開いたのである。
そのような事が起こってからナルトの容態は悪くなる一方。対するカカシ班はそんなナルトをもの凄く心配するが、依頼を受け続けなければならないために木の葉病院へお見舞いも出きずじまい。しかもナルトの容態が気になりすぎる三人(特にサスケ)は任務にありえないほどの失敗を繰り返す始末。
見かねたカカシが報告もかねて三代目火影に直接聞きに来たのだった。というより、何故一ヶ月まで放置したかだが、聞いてはいけない。
「たしかにおかしい。通常ならば一週間で片がつくほどの傷。それにあの子は九尾を中に飼っておる。三日くらいで完治するはずだった…」
そしてカカシに目を合わす。三代目も心配しているようだ。
「傷は塞がるが、感情の揺さぶりでまた開いてしまうのじゃ。それで退院してもナルトには木の葉病院に通ってもらっていたのじゃよ。しかし、傷が開くたびにチャクラと血を大量に無くしてしまう…」
「もしかしたら…このままじゃナルトは…」
ふぅと溜息を零す三代目。
「じゃから、ナルトにはしばらく里を離れてもらう事にした。」
チチチ…とスズメが鳴く。
風はあいも変わらず優しく吹く…
「…はい?」
しばし金縛りにあったかのように固まっていたカカシは今やっと答えた。
「じゃから、ナルトにはしばらく里を離れてもらう事にしたのじゃ。ここから少し離れた場所にわしの友人がいてな?ちょうど誰か手伝いが欲しかったらしいから、そ奴に頼んだ。」
と、微笑む三代目を見ながらカカシは必死に怒りの拳をこらえていた。
また、このナルトに甘々なアホ火影は!無茶なことを…!
「いや、何でナルトの怪我がナルトを里から出すことに…?」
ナルトは人柱力。むやみやたらに外に出さない方がいい。今までは危険は無いと高をくくってたが、ミズキ事件で雲の抜け忍たちが、どういったわけか、里の極秘を知っていた。
ミズキはこの事は他言していないと言っていた。なら、どこかから情報が漏れているということになる。
いつ誰が、彼を狙ってくるとも分からない。そんな危機的状況なのに、それなのにこの三代目ときたら。まるで孫を甘やかす爺さんだ。
「うむ、どうやらミズキの奴が幻術の中でナルトの中には九尾が居ると喋ってしまってな。あの戦いの中で九尾とは和解したらしいのじゃが…何分、精神的に壮大なダメージを追っていて…それで傷が完全に完治しない事が判明し、それならここに閉じ込めず、知り合いの元でノビノビと休んできてもらう方が良いと判断が出たのじゃよ。」
たしかに、このままここにいては、里の者の虐待がいまだ続く中、いつ危ない状況に陥るか心配でもある。たとえ昔よりは住み易くなったとはいえ、まだまだナルトを化け物としか見ない連中も多い。イルカやカズハがいるだけまだマシだが…なるほどたしかに、ナルトには休養が必要かもしれない。
だがしかし、ナルトを熟愛するカカシはやはりまだ心配な様子で、しかもここ数日彼と会っていないし、体力的にも精神面にもナルトは大丈夫なのか、とても心配する。
というより、大幅なことを端折る癖があるこの火影、ナルトにはキチンと説明したのか気がかりだ。
「いや、あの、ナルトにはこの事は…」
「すでに話してある。本人も大喜びだったわい。」
本当だろうか…彼は休暇があっても暇だからと修行やらなんやらする身だから、大人しく休養するなど、到底思えないのだが…
ここは、まぁ、とりあえず火影さまを信じるか。
「それは良いんですが…ナルト一人ってのは…」
「じゃからお前を呼んだのではないか。」
その言葉にピクっとカカシは反応した。妄想癖があるカカシは今まさに頭の中で描きたてていた。
まさか、俺がつきそい?そしたらナルトと添い寝?そしたら俺…
DO☆KI☆DO☆KIが止まらないね!
カカシのにやける気持ち悪い光景を目に、火影でさえ引いた瞬間だった。
~~~~~~~~~~~~~~
所と時間変わりまして、ここは木の葉の門の前。大きく【あ ん】と書かれた文字。澄み渡る綺麗な青空。聞こえてくる鳥の歌声…
「で?どこへ修行するんだカカシ?」
サスケの目の前には珍しく時間どうりに門の前に居たカカシが、荷物を背に何やらダメージを受けながらしゃがみこんでいた。
周りはドンヨリとした空気が密封しているかのように重苦しい。なんなんだこいつ。かなり面倒くさい上忍になってないか。嫌な顔をしながらサスケが一人心の中で愚痴る。
カカシは案の定、かなり落ち込んでいた。
あの後、三代目に笑顔で言われたのだ。
「お前も良く知る二人がついていくから、あのうちはの小僧の修行をお前に頼む。」
と。
嗚呼、一体誰がナルトを護衛するの!と頭を抱えながら喚いていた。
「…うぜぇ」
聞く話によれば、ナルトには里が誇る優秀な医療忍者一人と、これまた里が誇る優秀な護衛用の忍がつくのだと言う。
「あら?二人ともここで何をしてるの?」
弾むような声が聞こえサスケやカカシが後ろを振り向くとそこには。
「サクラと…恐怖の王女…」
桃色の髪の子サクラと、漆黒の髪を持つカズハがそこにいた。何故だか笑顔だ。ニコニコ弾んだような嬉しさがこっちにも伝わってくる。なん何だ一体?こんなに上機嫌なサクラは、ナルトの事以外には見られない。とカカシとサスケが疑問を持った。
そこへ今までに無いくらいトビっきりの笑顔をしたサクラが二人に向かって首をかしげながら聞いた。
「なに?もしかしてカカシ先生とサスケ君も延長任務 ?」
え?と二人は思った。そこへ、珍しくとても笑顔が素敵な上機嫌のカズハが挨拶をしてきた
「よう!白髪頭君にツンデレ君!!おっひさ~」
「しっ!しらがあたま…」
「…いい加減に、そのあだ名で呼ぶのやめてほしい…」
ポツリと悲願するもカズハはどこ吹く風。しかも彼女はめったに見せない大輪の笑顔をばらまいていた。
珍しい。サスケにまで笑顔を振りまくなど、明日は槍でも降ってくるんではなかろうか。それとも嵐がやってくるのでは。そんなことを考えているとカズハがにっこりと笑いながらサスケを見つめ、静かに問うた。
「君…今、物凄く失礼なこと考えなかった?」
「!」
サスケはブンブンと首を横に振る。背中には冷や汗。カズハの勘は電波よろしく鋭かった。笑顔が怖い。さすが恐怖の王女…!
と、そこまで考えて、またカズハが電波のごとく自分の思考を読み取るのではと、考えて一応、そのことは一旦頭の隅において置くことにした。
片隅にまたもや蹲(うずくま)るカカシをめいっぱい無視しながらサスケは冷静にカズハ達に答える。
「…ナルトの怪我が治るまでカカシと修行…お前らもどこかへ任務か?それにさっき言ってた事…」
二人の女性は眩しい笑顔を見せながら答えた。
「そうなのよサスケ君!!ナルトの付き添いが私こと春野サクラと、この里誇る一番のくノ一、数楽(すうらく)カズハさんってわけなのよ!!きゃーーー!!私の可愛いナルトと一緒に過ごせるわーーー!!」
「こらこらサクラちゃん?“私の”じゃなくて、“私達の”でしょ?それに、ナルトが修行禁じられてる間、アナタがナルトの変わりに私と修行するのよ?」
「ええ、それでもいいんです。バッチ来いです。しゃーんなろーー!!可愛いナルトの生写真いっぱい撮れるチャンスですから!!」
この二人の会話で、カズハと修行はいやだけど、いいなぁ…ナルトの生写真…と羨ましがりながらカカシはハッとした。
「ちょっとまてサクラ。聞いた話じゃ、護衛用に一人、もう一人は医療班のスペシャリストをつけるって話だったんだけど?」
「ええ、そうですね。」
「サクラは医療忍者じゃないでしょ。」
「ええ、そうですね。正式的(せいしきてき)には。」
「正式的には??」
カカシが聞き返した所でカズハが口を開いた。
「この子、下手な医療忍者より腕が立つ医療忍術の持ち主よ?年齢が十二歳だから正式的に医療班として働けないだけで。」
「「なんだとぉぉおうう?!」」
驚愕している二人を他所にサクラは首をかしげていた。
「あれ?いってませんでした?」
聞いてねぇよ!!と、サスケとカカシはダブルでツッコミをかましたと言う…
それはもう華麗で、二人とも練習してたの?と聞きたいくらいに息がぴったりだったと。
…サスケの将来が心配である。
「誰から教わったんだっけ?報告書に書いてあったんだけどメンドクサイから本人に聞いてるってわけだけど。」
「ええと。私、両親に連れられて一度だけ里から出て町に行った事があるんですけど、途中迷子になって…その最中に助けられたんですよ。女の人に。その人に世話になってもらって。いつの間にか修行させられて、『お前、医療忍者の素質がある。』とか言って医療忍術をしこたま叩きこまれました。」
「め、目茶目茶な人だな…名前は?」
「いえ、それが『アタシのことは師匠とお呼び!!』と殴られたので知りません。」
「そ、そうか…」
「師匠と出会う前はサスケ君ラブサスケ君ラブ言ってて、何度もウッゼェと言いながらたこ殴りにあってました。そして何故か修行もハードになって行き…今思い出しただけでも…ブルブルガタガタ!!」
これにより、普通ならばサスケサスケ言う乙女の一員にサクラも加わるはずが、気合と根性と気が強いくの一になったのである。
ちなみに、ウザイくの一たちはサクラが時々制裁を加えていた。理由はウザイからである。
…サクラの将来も気がかりだ。
しかし、その師匠とやらは一体全体何者なんだろうか。こんなにも人を変えるほどに辛い修行を課したのか。
「サ、サクラちゃん?!大丈夫なの?顔が真っ青で今にも倒れそうよ?!」
「恐怖の王女の次はフォビア王か…?」
「お、サスケ結構物知りだな?」
フォビア→ 一種の恐怖症。特定のある一つのものに対して異常なまでの恐怖心を抱く事。恐怖神経症とも言われる。Byウィキペディア。
一方その頃、木の葉病院室内。
「よう。ナルト。具合はどうだ?」
「シカマル?うわ!一ヶ月ぶりだってばよ!!」
片手だけを上げながら、もう片方はポッケに突っ込んだままシカマルが気軽に少し微笑みながらナルトのいる病室に入ってきた。
「まったくよ。お前は昔から危なっかしくていつも怪我してたよな。」
呆れ顔なのに何故かどこか嬉しそうだ。しかしナルトは苦笑いしている。
「?どうした。」
しかしナルトは答えない。そればかりか凄く苦しそうに、力なく笑う。
「…普通ならさ…こんな傷三日で治ってた。」
「たしかにな。どんな傷でもすぐ治ってたよな…ま、今回はたまたまおせぇだけで…」
シカマルは困っていた。
忙しい中やっと取れた休み。その時に知ったナルトの異常な治らない怪我。そして一時期ナルトが里を離れるという情報。誰よりも早く駆けつけてお見舞いがてら、少し落ち込んでるであろうこの黄色いヒマワリのような笑顔のする奴を元気付けたかった。
しかし…
(少しどころじゃねぇな…モノスッゴク落ち込んでやがる…)
チラリとナルトのほうへ視線を寄こせば彼の顔からは完全に笑顔が消えている。
シカマルはギョッとした。悲しみでいっぱいになったナルトの顔を一度たりとて見たことがなかったから。
「そんなに落ち込むなよナルト。」
ポンっ!っとナルトの頭に手を乗せ優しく撫でる。
「今回はたまたま怪我の直りが遅いだけで―――…」
「シカマルってさ」
急にナルトが話しかけた。頭はまだ垂れ下がっていて表情は読み取れない。
「シカマルってさ…いつも俺が落ち込んでいる時…決まって元気付けてくれてたよな…」
「…そうだっけか?あんまし覚えてねぇなー。」
「ひっでー。俺は覚えてんのに。」
そしてクスリと笑う。
「一人ぼっちの時は決まって近くに来てさ、良い昼寝の場所はあーだ、こーだ言ったり、聞いた面白い話とか話してくれたり…」
優しく撫でていたシカマルの手は力を増してナルトの頭をグシャグシャっと乱暴に扱い始めた。
「だから、それが親友って言う奴じゃねーのか?」
そのシカマルの言葉にナルトはポカンとする。
「くだらねー事話したり、一緒に泥だらけになりながら遊んだりよ。それ全部必要な、大切な自分の時間だろ?」
「必要な、大切な時間…」
シカマルはいつにも増して優しく微笑んでいた。恐らく自分でも気ずかない内に。
「ケンカしたり、笑い合ったり…辛い事とかあったかもしれねぇ、だけどよ、今思い返すと『楽しかった』が残んねぇか?」
ナルトは静かに頷いた。うん、そうだってばよ。と言い、そして笑う。
「だから、それが『親友』だろ?」
いいながらイタズラっぽく笑い、ナルトの片方のホッペをつねる。
「い、イデデデデデ…ひかまる、ひたいってばよ」
「痛みも、悲しみも、楽しみも悩みも全部一緒に背負って、歩いていく。それが」
『仲間』だろうが。そう言いながらナルトのほっぺたを解放したシカマルはまたいつもの笑顔に戻っていた。
「だからよ、お前が、らしくも無く落ち込んでる時は無性に元気付けたくなるのが俺の癖なんだよ。いいから黙って俺に元気付けられてろ。そんで笑ってろ。」
恥ずかしそうに、けれども嬉しそうにナルトが微笑みながら「うん。ありがとな!シカマル。」と言った。シカマルも緊張が解れたのか顔が緩む。
そして…その和やかな空気の中に…
ドス黒い嫌~な空気がドコからかだだ漏れしていたのに二人とも気づいた。
「う~た~ひ~め~が~」
「ち~び~ひ~ま~が~」
そんな呪うような、地面を這う低い声が聞こえてくる。
ナルトは恐怖でベットから飛び起きシカマルの腕に巻きつきガタガタ震えてしまっている。シカマルは冷静にかつ、いつでも術を発動できるように印を組む。
「「し~か~ま~る~とぅ…イチャイチャしてるぅ~」」
「…落ち着けお前ら」
そう言いながら病室の扉が開かれ、サスケが入ってきた。
後ろには今まさにシカマルに正義の鉄槌を食らわそうと目論むカズハ、何故か涙を流しまくってるサクラに何故かブルーなカカシがゾロゾロと病室に入ってくる。
対するナルトはシカマルの腕から離れ「よかった、幽霊じゃなかったってばよ。」とホッとしながらベットに入っていく。
どこからか小さく舌打ちした音が聞こえたが、それも皆の声にかき消されたのだった。
「皆が見舞いに来てくれるなんて本当に嬉しいってばよ!!ここんとこ任務もまともに出来なかったほどに体調悪かったし…」
「…フン。だろうな。」
「あれ~?いいのかな?すわ~すけきゅ~ん??そんなに意地張っちゃって。ナルトが任務にこれなくなった途端にナルトよりミスしまくっちゃったくせに。」
「なっ!カカシてめぇ…!!」
「ええ?!マジで?!このサスケが??完璧主義者みたいなこいつが??!」
「くっ!あ、あれは…」
「あれ~?顔赤いですよ??すわ~すけきゅ~ん??」
「くそ!サクラまで悪乗りするんじゃねぇ!!」
「ほほう、つまりツンデレ君はチビヒマの容態があまりにも心配で心配で、何にも気が回らなくなって失敗ばっかりして…君、もしかしてチビヒマの事…」
「!!?きょ、恐怖の王女も何言って…」
「ほう、サスケが慌ててるって事は…もしや…」
一方からかわれているサスケは顔を真っ赤にしながら肩を震わせ、そして
「てめーら、いいかげんにしやがれぇぇぇえええええ!!!」
サスケが吼えた丁度その時、病室のドアが開いて誰かが入ってきた。
「チョウジ!!」
「や、ナルト。具合どう?」
「大分良いってばよ!」
ポッチャリ君がフルーツいっぱいの差し入れを持ってきたのだった。
「賑やかだと思ったら、もう皆来てたんだね。そうそう、三代目がさっさとナルトを連れて行けって言ってたよ。」
「あ、そうだった、私達ナルトを迎えに来てたんだった。」
「ナルト、話は聞いてるでしょ?起きられる?」
「うん、大丈夫だってば。」
そして他の奴等は邪魔になるので追い出され...不満が残る中、皆その場所を去っていった。
「シカマル。」
「あん?なんだチョウジ?」
チョウジの足が止まるのと同時に皆も止まる。
「機嫌が悪いね。どうしたの?」
「…べつに。」
そんな友人を見てチョウジは少し笑った。
「ナルトとの二人きりの時間を潰されちゃったから?」
たちまち頬が赤くなるが、さすがシカマルとでも言うか頭の回転は誰よりも速い。
「…はぁ、チョウジ、お前って奴は…」
少し呆れ気味に言うので他のみんなは気にせずさっさと前へ歩いていく。自然とシカマルとチョウジだけが取り残されることになった。
「何で分かるかねぇ。」
顔を緩ませながら語る友人に優しく微笑み返すチョウジ。
「だって僕ら親友だから。」
「チョウジ…」
「それでいて仲間だから、シカマルも何か悩みとかあったら僕に相談してもいいんだよ?」
その言葉を聞いてシカマルは深い溜息。
「お見通しか…毎度ながらすげぇよ。お前は。」
するとチョウジは少し悲しそうに自信無く言う。
「ううん。僕なんてさ、ちっとも凄くなんてないよ。どっちかって言うとシカマルの方が…「チョウジ」…何?」
チョウジの頭を乱暴に撫で回した後、満面の笑顔でシカマルは続けた
「お前って、すげぇ優しい最高な親友だぜ。」
そう告げた後「コレから親父ンとこ行かなきゃいけねーから俺先行くわ」メンドクセエけど。と付け足しながらシカマルは走っていった。
「ありがとう。シカマル。僕もだよ。」
そう言いつつ心配そうに後ろを振り向いた。
「もちろん、君も僕にとって大切な仲間の一人だからね?」
しかし誰も答えないし、ましてや姿も現さない。
「いい加減にしたら?いの。」
名前を呼ばれて悔しそうに、いのが物陰から出てきた。
「…なーんでチョウジにはバレんのよ?シカマルでさえ気ずかないって言うのに!!」
「そうだよね。最近シカマル頭の回転が鈍ってきちゃってたよね。それでいのの気配も読めなかったんだろうけど…」
「どうも最近変だったわよね。だからちょっと心配になって後つけてみたら病院なんてのに入るから、もぅ私、てっきり…」
クスリと笑いながらチョウジは何故か少し感情が高ぶっている目の前のくの一に優しく問う。
「シカマルが病気だとでも思った?」
「ぁあ~…まぁ、そんなカンジ…みたいなものよ。うん。」
「大丈夫。シカマルはナルトのお見舞いに来ただけだから。話はいのも聞いてるでしょ?」
少し落ち着いてきたいのは落ち込んだみたいに表情を曇らした。
「聞いてるわよ、それぐらい…問題はそこじゃなくて…見舞いに行くんだったら私も誘ってくれても良かったのに…」
チョウジもそこは同感だったらしく、うんうん、そうなんだよねー。と言う。
「ま、しょうがないと思うよ。」
懐からお菓子のポテチを開けてバリバリ食い始めた。
「シカマルはさ、人に自分の優しさを見せるのが極度に恥ずかしいみたいで。」
「だからって、私に何も言わずに…!一緒の班なのにさ…チョウジもここにいるし…なんだか私だけが仲間外れみたいじゃない…!」
怒ってるのか悲しんでるのか分からない声のトーンを聞きながらチョウジはゆったりと歩いていく。それに気ずき、いのも歩く。
「だから、さっき言ったでしょ?いのも僕にとっても、シカマルにとっても…ううん、きっとナルトやサクラも、思ってることだよ。皆いのの事仲間って思ってるから。」
「でも、あのシカマルの行動はないわよ!三日前からソワソワして頭も鈍くなるし!そしたら任務が休みなのにこんな所へくるし!!」
「まあ、しょうがないんじゃない?」
すでに1パック食べ終わり二つ目に突入したチョウジはいのに振り返りながら笑顔で言った。
「好きな子絡みじゃ、天才のシカマルでも…」
その言葉にギョッとしたいの。目が点になって口がポカンとあいてパクパクしてる。魚かお前は。
「ちょっと、ちょっっっっと待ちなさい!!し、シカマルって好きな子いたの?!あの天下の面倒臭がりやが?て言うか、この話の流れから、な、ナルトの事を…?」
「?そうだよ?シカマルが好きな子っていうのは、ナル「みなまで言わないで!!」…いの?」
肩が震えてるいの。
「ちょっと、それって」
唇も自然と震える。
「ど、同姓…?す、すき…シカマルが?な、ナルトを…」
そこでチョウジがあれ?と言う顔をした。
「同姓って…?もしかして、いのは気づかなかったんだ?ナルトの事。」
深刻な顔をしていたいのだったが、チョウジの発言によりますます分けが解らなくなる。
「ナルトの事って…だってそうじゃない?男の子同士でしょ?」
そこでチョウジはくくくと笑った。
「そっか、僕とシカマルだけが気づいたんだ。」
「ちょっと、どう言う事よー?」
「うーん、秘密だよ。ナルトの側にいれば解るよ?あと、少なくともナルトはシカマルの気持ちに気づいてないから…いのも頑張ってね?」
いきなり顔を赤くしながらいのはムキー!と吼えた。
「なんなのよもうー!!」
病院を出て、いつものお昼寝の場所に座るチョウジ。
「いのも、大変だなぁ。やっぱり女の子だよね。」
そう言いながら青空が見える屋上のベンチに横たわる。
「いのの恋も応援したいけど…シカマルのも応援したいなぁ…」
うーん、複雑で難しい。そう言いながらチョウジはお昼ねタイム。
そこで、ふと無謀な事を考えてしまう。
こんな小太りで色々と術の練習をしていても失敗し続けてしまう疎い自分を、いつか誰か、側にいて、微笑んでくれて、ご飯とかお弁当とか用意してくれて…愛してくれるのだろうか
「…僕の事、好きになってくれる人…いつか現れるかな…」
無理かもしれないけど…現れると良いな…
チョウジはどちらかというと温和で温厚派タイプ。
戦闘はできれば避けたいし、自分はそんなに強くもない。
おまけに疎いおかげで、いつも文句を言われ続け
己の内に眠る力を知らず、彼は自分を最低評価していた。
自分にまったく自信が無いといっていいだろう。
もっとも、これから物語の中で、彼自身そうではなかったと体験していくのだが…それはまだ、先のお話…
「そうなんじゃよ。」
ここは木の葉の里の中心部に立っている火影屋敷。空は澄み切っていて晴々とした青。その清んでいる青はある人物を脳裏に浮かばせる。
「どう言う事ですか三代目?もうかれこれ一ヶ月ですよ?いくら重症だったとは言え…」
カカシが焦ったような顔で聞いてくる。対する三代目は書類を片付けた机に置かれた一枚の報告書に目を通していた。かれこれ一ヶ月、ナルトは入退院を繰り返し、任務もまともに実行できてない。第七班率いるカカシ班は癒しの歌姫が体調を崩し続けているのを黙って黙認していたが、つい三日前に田んぼの大ナメクジ退治の最中、力尽きて倒れた。
空中跳び膝蹴りを大ナメクジにお見舞いした後だったのでそのまま田んぼへダイブする所をカカシが素早く抱えて回避したのだが…ナルトの手足からあの変な文字が浮かび上がっていて彼は全身血だらけだった。直りかけの傷が開いたのである。
そのような事が起こってからナルトの容態は悪くなる一方。対するカカシ班はそんなナルトをもの凄く心配するが、依頼を受け続けなければならないために木の葉病院へお見舞いも出きずじまい。しかもナルトの容態が気になりすぎる三人(特にサスケ)は任務にありえないほどの失敗を繰り返す始末。
見かねたカカシが報告もかねて三代目火影に直接聞きに来たのだった。というより、何故一ヶ月まで放置したかだが、聞いてはいけない。
「たしかにおかしい。通常ならば一週間で片がつくほどの傷。それにあの子は九尾を中に飼っておる。三日くらいで完治するはずだった…」
そしてカカシに目を合わす。三代目も心配しているようだ。
「傷は塞がるが、感情の揺さぶりでまた開いてしまうのじゃ。それで退院してもナルトには木の葉病院に通ってもらっていたのじゃよ。しかし、傷が開くたびにチャクラと血を大量に無くしてしまう…」
「もしかしたら…このままじゃナルトは…」
ふぅと溜息を零す三代目。
「じゃから、ナルトにはしばらく里を離れてもらう事にした。」
チチチ…とスズメが鳴く。
風はあいも変わらず優しく吹く…
「…はい?」
しばし金縛りにあったかのように固まっていたカカシは今やっと答えた。
「じゃから、ナルトにはしばらく里を離れてもらう事にしたのじゃ。ここから少し離れた場所にわしの友人がいてな?ちょうど誰か手伝いが欲しかったらしいから、そ奴に頼んだ。」
と、微笑む三代目を見ながらカカシは必死に怒りの拳をこらえていた。
また、このナルトに甘々なアホ火影は!無茶なことを…!
「いや、何でナルトの怪我がナルトを里から出すことに…?」
ナルトは人柱力。むやみやたらに外に出さない方がいい。今までは危険は無いと高をくくってたが、ミズキ事件で雲の抜け忍たちが、どういったわけか、里の極秘を知っていた。
ミズキはこの事は他言していないと言っていた。なら、どこかから情報が漏れているということになる。
いつ誰が、彼を狙ってくるとも分からない。そんな危機的状況なのに、それなのにこの三代目ときたら。まるで孫を甘やかす爺さんだ。
「うむ、どうやらミズキの奴が幻術の中でナルトの中には九尾が居ると喋ってしまってな。あの戦いの中で九尾とは和解したらしいのじゃが…何分、精神的に壮大なダメージを追っていて…それで傷が完全に完治しない事が判明し、それならここに閉じ込めず、知り合いの元でノビノビと休んできてもらう方が良いと判断が出たのじゃよ。」
たしかに、このままここにいては、里の者の虐待がいまだ続く中、いつ危ない状況に陥るか心配でもある。たとえ昔よりは住み易くなったとはいえ、まだまだナルトを化け物としか見ない連中も多い。イルカやカズハがいるだけまだマシだが…なるほどたしかに、ナルトには休養が必要かもしれない。
だがしかし、ナルトを熟愛するカカシはやはりまだ心配な様子で、しかもここ数日彼と会っていないし、体力的にも精神面にもナルトは大丈夫なのか、とても心配する。
というより、大幅なことを端折る癖があるこの火影、ナルトにはキチンと説明したのか気がかりだ。
「いや、あの、ナルトにはこの事は…」
「すでに話してある。本人も大喜びだったわい。」
本当だろうか…彼は休暇があっても暇だからと修行やらなんやらする身だから、大人しく休養するなど、到底思えないのだが…
ここは、まぁ、とりあえず火影さまを信じるか。
「それは良いんですが…ナルト一人ってのは…」
「じゃからお前を呼んだのではないか。」
その言葉にピクっとカカシは反応した。妄想癖があるカカシは今まさに頭の中で描きたてていた。
まさか、俺がつきそい?そしたらナルトと添い寝?そしたら俺…
DO☆KI☆DO☆KIが止まらないね!
カカシのにやける気持ち悪い光景を目に、火影でさえ引いた瞬間だった。
~~~~~~~~~~~~~~
所と時間変わりまして、ここは木の葉の門の前。大きく【あ ん】と書かれた文字。澄み渡る綺麗な青空。聞こえてくる鳥の歌声…
「で?どこへ修行するんだカカシ?」
サスケの目の前には珍しく時間どうりに門の前に居たカカシが、荷物を背に何やらダメージを受けながらしゃがみこんでいた。
周りはドンヨリとした空気が密封しているかのように重苦しい。なんなんだこいつ。かなり面倒くさい上忍になってないか。嫌な顔をしながらサスケが一人心の中で愚痴る。
カカシは案の定、かなり落ち込んでいた。
あの後、三代目に笑顔で言われたのだ。
「お前も良く知る二人がついていくから、あのうちはの小僧の修行をお前に頼む。」
と。
嗚呼、一体誰がナルトを護衛するの!と頭を抱えながら喚いていた。
「…うぜぇ」
聞く話によれば、ナルトには里が誇る優秀な医療忍者一人と、これまた里が誇る優秀な護衛用の忍がつくのだと言う。
「あら?二人ともここで何をしてるの?」
弾むような声が聞こえサスケやカカシが後ろを振り向くとそこには。
「サクラと…恐怖の王女…」
桃色の髪の子サクラと、漆黒の髪を持つカズハがそこにいた。何故だか笑顔だ。ニコニコ弾んだような嬉しさがこっちにも伝わってくる。なん何だ一体?こんなに上機嫌なサクラは、ナルトの事以外には見られない。とカカシとサスケが疑問を持った。
そこへ今までに無いくらいトビっきりの笑顔をしたサクラが二人に向かって首をかしげながら聞いた。
「なに?もしかしてカカシ先生とサスケ君も
え?と二人は思った。そこへ、珍しくとても笑顔が素敵な上機嫌のカズハが挨拶をしてきた
「よう!白髪頭君にツンデレ君!!おっひさ~」
「しっ!しらがあたま…」
「…いい加減に、そのあだ名で呼ぶのやめてほしい…」
ポツリと悲願するもカズハはどこ吹く風。しかも彼女はめったに見せない大輪の笑顔をばらまいていた。
珍しい。サスケにまで笑顔を振りまくなど、明日は槍でも降ってくるんではなかろうか。それとも嵐がやってくるのでは。そんなことを考えているとカズハがにっこりと笑いながらサスケを見つめ、静かに問うた。
「君…今、物凄く失礼なこと考えなかった?」
「!」
サスケはブンブンと首を横に振る。背中には冷や汗。カズハの勘は電波よろしく鋭かった。笑顔が怖い。さすが恐怖の王女…!
と、そこまで考えて、またカズハが電波のごとく自分の思考を読み取るのではと、考えて一応、そのことは一旦頭の隅において置くことにした。
片隅にまたもや蹲(うずくま)るカカシをめいっぱい無視しながらサスケは冷静にカズハ達に答える。
「…ナルトの怪我が治るまでカカシと修行…お前らもどこかへ任務か?それにさっき言ってた事…」
二人の女性は眩しい笑顔を見せながら答えた。
「そうなのよサスケ君!!ナルトの付き添いが私こと春野サクラと、この里誇る一番のくノ一、数楽(すうらく)カズハさんってわけなのよ!!きゃーーー!!私の可愛いナルトと一緒に過ごせるわーーー!!」
「こらこらサクラちゃん?“私の”じゃなくて、“私達の”でしょ?それに、ナルトが修行禁じられてる間、アナタがナルトの変わりに私と修行するのよ?」
「ええ、それでもいいんです。バッチ来いです。しゃーんなろーー!!可愛いナルトの生写真いっぱい撮れるチャンスですから!!」
この二人の会話で、カズハと修行はいやだけど、いいなぁ…ナルトの生写真…と羨ましがりながらカカシはハッとした。
「ちょっとまてサクラ。聞いた話じゃ、護衛用に一人、もう一人は医療班のスペシャリストをつけるって話だったんだけど?」
「ええ、そうですね。」
「サクラは医療忍者じゃないでしょ。」
「ええ、そうですね。正式的(せいしきてき)には。」
「正式的には??」
カカシが聞き返した所でカズハが口を開いた。
「この子、下手な医療忍者より腕が立つ医療忍術の持ち主よ?年齢が十二歳だから正式的に医療班として働けないだけで。」
「「なんだとぉぉおうう?!」」
驚愕している二人を他所にサクラは首をかしげていた。
「あれ?いってませんでした?」
聞いてねぇよ!!と、サスケとカカシはダブルでツッコミをかましたと言う…
それはもう華麗で、二人とも練習してたの?と聞きたいくらいに息がぴったりだったと。
…サスケの将来が心配である。
「誰から教わったんだっけ?報告書に書いてあったんだけどメンドクサイから本人に聞いてるってわけだけど。」
「ええと。私、両親に連れられて一度だけ里から出て町に行った事があるんですけど、途中迷子になって…その最中に助けられたんですよ。女の人に。その人に世話になってもらって。いつの間にか修行させられて、『お前、医療忍者の素質がある。』とか言って医療忍術をしこたま叩きこまれました。」
「め、目茶目茶な人だな…名前は?」
「いえ、それが『アタシのことは師匠とお呼び!!』と殴られたので知りません。」
「そ、そうか…」
「師匠と出会う前はサスケ君ラブサスケ君ラブ言ってて、何度もウッゼェと言いながらたこ殴りにあってました。そして何故か修行もハードになって行き…今思い出しただけでも…ブルブルガタガタ!!」
これにより、普通ならばサスケサスケ言う乙女の一員にサクラも加わるはずが、気合と根性と気が強いくの一になったのである。
ちなみに、ウザイくの一たちはサクラが時々制裁を加えていた。理由はウザイからである。
…サクラの将来も気がかりだ。
しかし、その師匠とやらは一体全体何者なんだろうか。こんなにも人を変えるほどに辛い修行を課したのか。
「サ、サクラちゃん?!大丈夫なの?顔が真っ青で今にも倒れそうよ?!」
「恐怖の王女の次はフォビア王か…?」
「お、サスケ結構物知りだな?」
フォビア→ 一種の恐怖症。特定のある一つのものに対して異常なまでの恐怖心を抱く事。恐怖神経症とも言われる。Byウィキペディア。
一方その頃、木の葉病院室内。
「よう。ナルト。具合はどうだ?」
「シカマル?うわ!一ヶ月ぶりだってばよ!!」
片手だけを上げながら、もう片方はポッケに突っ込んだままシカマルが気軽に少し微笑みながらナルトのいる病室に入ってきた。
「まったくよ。お前は昔から危なっかしくていつも怪我してたよな。」
呆れ顔なのに何故かどこか嬉しそうだ。しかしナルトは苦笑いしている。
「?どうした。」
しかしナルトは答えない。そればかりか凄く苦しそうに、力なく笑う。
「…普通ならさ…こんな傷三日で治ってた。」
「たしかにな。どんな傷でもすぐ治ってたよな…ま、今回はたまたまおせぇだけで…」
シカマルは困っていた。
忙しい中やっと取れた休み。その時に知ったナルトの異常な治らない怪我。そして一時期ナルトが里を離れるという情報。誰よりも早く駆けつけてお見舞いがてら、少し落ち込んでるであろうこの黄色いヒマワリのような笑顔のする奴を元気付けたかった。
しかし…
(少しどころじゃねぇな…モノスッゴク落ち込んでやがる…)
チラリとナルトのほうへ視線を寄こせば彼の顔からは完全に笑顔が消えている。
シカマルはギョッとした。悲しみでいっぱいになったナルトの顔を一度たりとて見たことがなかったから。
「そんなに落ち込むなよナルト。」
ポンっ!っとナルトの頭に手を乗せ優しく撫でる。
「今回はたまたま怪我の直りが遅いだけで―――…」
「シカマルってさ」
急にナルトが話しかけた。頭はまだ垂れ下がっていて表情は読み取れない。
「シカマルってさ…いつも俺が落ち込んでいる時…決まって元気付けてくれてたよな…」
「…そうだっけか?あんまし覚えてねぇなー。」
「ひっでー。俺は覚えてんのに。」
そしてクスリと笑う。
「一人ぼっちの時は決まって近くに来てさ、良い昼寝の場所はあーだ、こーだ言ったり、聞いた面白い話とか話してくれたり…」
優しく撫でていたシカマルの手は力を増してナルトの頭をグシャグシャっと乱暴に扱い始めた。
「だから、それが親友って言う奴じゃねーのか?」
そのシカマルの言葉にナルトはポカンとする。
「くだらねー事話したり、一緒に泥だらけになりながら遊んだりよ。それ全部必要な、大切な自分の時間だろ?」
「必要な、大切な時間…」
シカマルはいつにも増して優しく微笑んでいた。恐らく自分でも気ずかない内に。
「ケンカしたり、笑い合ったり…辛い事とかあったかもしれねぇ、だけどよ、今思い返すと『楽しかった』が残んねぇか?」
ナルトは静かに頷いた。うん、そうだってばよ。と言い、そして笑う。
「だから、それが『親友』だろ?」
いいながらイタズラっぽく笑い、ナルトの片方のホッペをつねる。
「い、イデデデデデ…ひかまる、ひたいってばよ」
「痛みも、悲しみも、楽しみも悩みも全部一緒に背負って、歩いていく。それが」
『仲間』だろうが。そう言いながらナルトのほっぺたを解放したシカマルはまたいつもの笑顔に戻っていた。
「だからよ、お前が、らしくも無く落ち込んでる時は無性に元気付けたくなるのが俺の癖なんだよ。いいから黙って俺に元気付けられてろ。そんで笑ってろ。」
恥ずかしそうに、けれども嬉しそうにナルトが微笑みながら「うん。ありがとな!シカマル。」と言った。シカマルも緊張が解れたのか顔が緩む。
そして…その和やかな空気の中に…
ドス黒い嫌~な空気がドコからかだだ漏れしていたのに二人とも気づいた。
「う~た~ひ~め~が~」
「ち~び~ひ~ま~が~」
そんな呪うような、地面を這う低い声が聞こえてくる。
ナルトは恐怖でベットから飛び起きシカマルの腕に巻きつきガタガタ震えてしまっている。シカマルは冷静にかつ、いつでも術を発動できるように印を組む。
「「し~か~ま~る~とぅ…イチャイチャしてるぅ~」」
「…落ち着けお前ら」
そう言いながら病室の扉が開かれ、サスケが入ってきた。
後ろには今まさにシカマルに正義の鉄槌を食らわそうと目論むカズハ、何故か涙を流しまくってるサクラに何故かブルーなカカシがゾロゾロと病室に入ってくる。
対するナルトはシカマルの腕から離れ「よかった、幽霊じゃなかったってばよ。」とホッとしながらベットに入っていく。
どこからか小さく舌打ちした音が聞こえたが、それも皆の声にかき消されたのだった。
「皆が見舞いに来てくれるなんて本当に嬉しいってばよ!!ここんとこ任務もまともに出来なかったほどに体調悪かったし…」
「…フン。だろうな。」
「あれ~?いいのかな?すわ~すけきゅ~ん??そんなに意地張っちゃって。ナルトが任務にこれなくなった途端にナルトよりミスしまくっちゃったくせに。」
「なっ!カカシてめぇ…!!」
「ええ?!マジで?!このサスケが??完璧主義者みたいなこいつが??!」
「くっ!あ、あれは…」
「あれ~?顔赤いですよ??すわ~すけきゅ~ん??」
「くそ!サクラまで悪乗りするんじゃねぇ!!」
「ほほう、つまりツンデレ君はチビヒマの容態があまりにも心配で心配で、何にも気が回らなくなって失敗ばっかりして…君、もしかしてチビヒマの事…」
「!!?きょ、恐怖の王女も何言って…」
「ほう、サスケが慌ててるって事は…もしや…」
一方からかわれているサスケは顔を真っ赤にしながら肩を震わせ、そして
「てめーら、いいかげんにしやがれぇぇぇえええええ!!!」
サスケが吼えた丁度その時、病室のドアが開いて誰かが入ってきた。
「チョウジ!!」
「や、ナルト。具合どう?」
「大分良いってばよ!」
ポッチャリ君がフルーツいっぱいの差し入れを持ってきたのだった。
「賑やかだと思ったら、もう皆来てたんだね。そうそう、三代目がさっさとナルトを連れて行けって言ってたよ。」
「あ、そうだった、私達ナルトを迎えに来てたんだった。」
「ナルト、話は聞いてるでしょ?起きられる?」
「うん、大丈夫だってば。」
そして他の奴等は邪魔になるので追い出され...不満が残る中、皆その場所を去っていった。
「シカマル。」
「あん?なんだチョウジ?」
チョウジの足が止まるのと同時に皆も止まる。
「機嫌が悪いね。どうしたの?」
「…べつに。」
そんな友人を見てチョウジは少し笑った。
「ナルトとの二人きりの時間を潰されちゃったから?」
たちまち頬が赤くなるが、さすがシカマルとでも言うか頭の回転は誰よりも速い。
「…はぁ、チョウジ、お前って奴は…」
少し呆れ気味に言うので他のみんなは気にせずさっさと前へ歩いていく。自然とシカマルとチョウジだけが取り残されることになった。
「何で分かるかねぇ。」
顔を緩ませながら語る友人に優しく微笑み返すチョウジ。
「だって僕ら親友だから。」
「チョウジ…」
「それでいて仲間だから、シカマルも何か悩みとかあったら僕に相談してもいいんだよ?」
その言葉を聞いてシカマルは深い溜息。
「お見通しか…毎度ながらすげぇよ。お前は。」
するとチョウジは少し悲しそうに自信無く言う。
「ううん。僕なんてさ、ちっとも凄くなんてないよ。どっちかって言うとシカマルの方が…「チョウジ」…何?」
チョウジの頭を乱暴に撫で回した後、満面の笑顔でシカマルは続けた
「お前って、すげぇ優しい最高な親友だぜ。」
そう告げた後「コレから親父ンとこ行かなきゃいけねーから俺先行くわ」メンドクセエけど。と付け足しながらシカマルは走っていった。
「ありがとう。シカマル。僕もだよ。」
そう言いつつ心配そうに後ろを振り向いた。
「もちろん、君も僕にとって大切な仲間の一人だからね?」
しかし誰も答えないし、ましてや姿も現さない。
「いい加減にしたら?いの。」
名前を呼ばれて悔しそうに、いのが物陰から出てきた。
「…なーんでチョウジにはバレんのよ?シカマルでさえ気ずかないって言うのに!!」
「そうだよね。最近シカマル頭の回転が鈍ってきちゃってたよね。それでいのの気配も読めなかったんだろうけど…」
「どうも最近変だったわよね。だからちょっと心配になって後つけてみたら病院なんてのに入るから、もぅ私、てっきり…」
クスリと笑いながらチョウジは何故か少し感情が高ぶっている目の前のくの一に優しく問う。
「シカマルが病気だとでも思った?」
「ぁあ~…まぁ、そんなカンジ…みたいなものよ。うん。」
「大丈夫。シカマルはナルトのお見舞いに来ただけだから。話はいのも聞いてるでしょ?」
少し落ち着いてきたいのは落ち込んだみたいに表情を曇らした。
「聞いてるわよ、それぐらい…問題はそこじゃなくて…見舞いに行くんだったら私も誘ってくれても良かったのに…」
チョウジもそこは同感だったらしく、うんうん、そうなんだよねー。と言う。
「ま、しょうがないと思うよ。」
懐からお菓子のポテチを開けてバリバリ食い始めた。
「シカマルはさ、人に自分の優しさを見せるのが極度に恥ずかしいみたいで。」
「だからって、私に何も言わずに…!一緒の班なのにさ…チョウジもここにいるし…なんだか私だけが仲間外れみたいじゃない…!」
怒ってるのか悲しんでるのか分からない声のトーンを聞きながらチョウジはゆったりと歩いていく。それに気ずき、いのも歩く。
「だから、さっき言ったでしょ?いのも僕にとっても、シカマルにとっても…ううん、きっとナルトやサクラも、思ってることだよ。皆いのの事仲間って思ってるから。」
「でも、あのシカマルの行動はないわよ!三日前からソワソワして頭も鈍くなるし!そしたら任務が休みなのにこんな所へくるし!!」
「まあ、しょうがないんじゃない?」
すでに1パック食べ終わり二つ目に突入したチョウジはいのに振り返りながら笑顔で言った。
「好きな子絡みじゃ、天才のシカマルでも…」
その言葉にギョッとしたいの。目が点になって口がポカンとあいてパクパクしてる。魚かお前は。
「ちょっと、ちょっっっっと待ちなさい!!し、シカマルって好きな子いたの?!あの天下の面倒臭がりやが?て言うか、この話の流れから、な、ナルトの事を…?」
「?そうだよ?シカマルが好きな子っていうのは、ナル「みなまで言わないで!!」…いの?」
肩が震えてるいの。
「ちょっと、それって」
唇も自然と震える。
「ど、同姓…?す、すき…シカマルが?な、ナルトを…」
そこでチョウジがあれ?と言う顔をした。
「同姓って…?もしかして、いのは気づかなかったんだ?ナルトの事。」
深刻な顔をしていたいのだったが、チョウジの発言によりますます分けが解らなくなる。
「ナルトの事って…だってそうじゃない?男の子同士でしょ?」
そこでチョウジはくくくと笑った。
「そっか、僕とシカマルだけが気づいたんだ。」
「ちょっと、どう言う事よー?」
「うーん、秘密だよ。ナルトの側にいれば解るよ?あと、少なくともナルトはシカマルの気持ちに気づいてないから…いのも頑張ってね?」
いきなり顔を赤くしながらいのはムキー!と吼えた。
「なんなのよもうー!!」
病院を出て、いつものお昼寝の場所に座るチョウジ。
「いのも、大変だなぁ。やっぱり女の子だよね。」
そう言いながら青空が見える屋上のベンチに横たわる。
「いのの恋も応援したいけど…シカマルのも応援したいなぁ…」
うーん、複雑で難しい。そう言いながらチョウジはお昼ねタイム。
そこで、ふと無謀な事を考えてしまう。
こんな小太りで色々と術の練習をしていても失敗し続けてしまう疎い自分を、いつか誰か、側にいて、微笑んでくれて、ご飯とかお弁当とか用意してくれて…愛してくれるのだろうか
「…僕の事、好きになってくれる人…いつか現れるかな…」
無理かもしれないけど…現れると良いな…
チョウジはどちらかというと温和で温厚派タイプ。
戦闘はできれば避けたいし、自分はそんなに強くもない。
おまけに疎いおかげで、いつも文句を言われ続け
己の内に眠る力を知らず、彼は自分を最低評価していた。
自分にまったく自信が無いといっていいだろう。
もっとも、これから物語の中で、彼自身そうではなかったと体験していくのだが…それはまだ、先のお話…