英雄の笑顔、悪者の涙

【その26:望むもの】

 死ぬ訳には、行かない。
 カブトのライダーキックを喰らいながら、それでも「彼」は生への執着を見せた。
 ボロボロとザビーの鎧が剥がれ落ち、ザビーゼクターへの強制介入すらも出来ない体ではあるが、それでも「彼」は願った。
 死にたくない、と。生きて、元の世界に戻って、そして……そして、人間を滅ぼすのだと。
 そうしなければ、自分達ワームが生き残る事ができないからと。そう思うのは、もはや本能に近かった。自分達が、「いつ」、「どこで」生まれたのか、どうしてあの世界に執着し、ライダー達と戦い、人間を滅ぼそうとしているのか。全て分らないし、知らない。
 それでも、「生きていたい」と願うのは……生物としては当然の欲望であった。
 だから、だろうか。
 瀕死の状態であるにもかかわらず、「彼」が「もっと強い奴に擬態しなければならない」と、強く強く思ったのは。
 どこか遠くで、獣の咆哮が聞こえる。怨念と、悪意に満ちた咆哮。「彼」の望む「強い奴」と思うにふさわしい存在。
――アレに擬態すれば、カブトを屠れる? 俺はまだ、生きながらえる事ができる?――
 頭の片隅にそんな考えが過ぎる。だが……すぐにその考えを、自身で否定した。
――アレには自我がない。アレはただの獣だと。獣になりきってしまっては意味がない
 「彼」の望みは人間の殲滅。獣は、食うだけ食って、満足したらそれ以上は動かない。それでは駄目なのだ。本能と、欲望だけの獣では。多少の知性や理性を持つ存在でないと、人間を滅ぼす事などできない。
 ならば、何になれば良い? 今の体では駄目だ。脆弱すぎる。
 何になろう、何に……そこまで、思ったその時だった。
 「彼」の視界に、うってつけの存在が現れたのは。
 こういう状況を人間は……
――「天恵」と呼ぶのだろうな――
 そう思うと同時に。「彼」の口は、綺麗な弧を描き……クロックアップでその存在、魔化魍、ヒトツミの背後に回った。
「くそっ!」
 ヒトツミが、悔しげに息を吐く。背後に「彼」がいるなど、微塵も気付いていない様子で。
 体からは、先程歌舞鬼が放った緑の炎が燻っている。腐っても鬼、清めの力は健在と言う事か。
「……あいつら……回復したら、食い殺してやる!!」
 暗い決意をその身に宿し、ヒトツミはヒトの中で隠れるべく、擬態である街娘の姿に戻って森の中を彷徨う。先程、オロチの咆哮が聞こえた。おそらくはあの生意気な紫の鬼が生贄を奪い返し、戦っているのだろう。
 何もかも、気に食わない。殺したい、食いたい、消し去りたい。
 そんな欲求の赴くまま、彼女は血眼になって鬼の姿を探す。どの鬼でも良い。殺して、その血を啜り、己が身を蝕む渇きを癒したい。
「殺す……殺してやる!」
 ヒトツミの放つその悪意は、周囲の木々を腐らせ、森を侵食する。青々としていた葉は茶色くカサつき、太く立派だった幹は自身の重みに耐え切れなくなったのか乾いた音と共に折れてしまった。
 生きとし生けるもの、全てに対する憎悪と言っても過言ではない。
 「二口女」の二つ名の指し示す通り、彼女は常に飢えた存在だ。何を食べても満たされない、何をしても満足しない。
 唯一、鬼を殺す時だけが、僅かに満たされる瞬間だった。それは多分、魔化魍としての本能だろう。
 そんな彼女の視界に、一人の鬼の姿が目に入る。
 濃い紫の体、赤い隈取に炎の力を纏った太鼓の撥。その傍らには、赤い甲虫のような鎧の戦士が立っていたが、彼女にとってはそんな事はどうでも良かった。
 生意気な鬼がいる。魔化魍に刃向かう愚か者がいる。それだけで充分だった。甲虫の方は後で倒せば良い。幸いにも、二人共こちらには気付いていない。
「鬼め……まずはお前から殺してやる!」
 姿を本来の物に戻し、怨嗟を込めたその声に、鬼……響鬼がようやくこちらに気付いたらしい。一瞬だけ驚いたようにびくりと体を震わせ、その動きを止めた。
――勝った――
 響鬼の一瞬の硬直を見逃さず、ヒトツミは牙を向けながらそう思った。一瞬でも油断した方が負ける。それが魔化魍と鬼の常だ。
 満身創痍とは言え、油断しきった響鬼に引けをとるとは思わない。清めの音を放つ隙も与えずにその生血を啜れる。
 嬉々とした表情で、その牙を響鬼の体に付き立てようと思ったその瞬間。
 血飛沫を上げ、大地にひれ伏していたのは……ヒトツミの方だった。
――何が起こった?――
 不審に思い、彼女は新たについた傷をなぞる。
 腹部を貫通した、細い傷跡。まるで、蜂の針に刺されたかのような……そんな跡。
「死ぬ訳には、行かない……っ!」
 伏した自身の後ろには、誰か……否、「何か」が立っている。自分以上に「生」に執着した「何か」が。そこで初めて、彼女は「彼」の存在に気付いた。
 自身の後ろをついて回っていた、自分と全く同じ「悪意」の持ち主に。
「お前、まさか!」
 響鬼の驚愕の声が響く。ヒトツミは、最後の力を振り絞って己の後ろに立つ「それ」を見やった。
 そこにいたのは……ニヤリと笑い、手に付いた血を振り払う自分自身。
 否、そんなはずはない。自分は無二の魔化魍のはず。童子や姫のような理性を持つ、獣を脱した魔化魍だったはずだ。
 ならば……目の前で凄絶な笑みを浮かべているのは、一体誰だと言うのか。
 その答えなど出ないまま、魔化魍、ヒトツミの意識は、浮上せぬ闇の底へと消え堕ちていく。
 それを引き継ぐかのように、「彼」は彼女のそれまでを見つめ、記憶した。
 だが、引き継いだのは記憶だけではない。……彼女が抱く、鬼への悪意もまた、同じように自身の身の内に落とし込む。
 そして……ああ、と「彼」は納得した。自分がこの存在に惹かれたのは何も強いからだけではなかったのだ。彼女が持っていた悪意は、自身がカブトに抱いている物と殆ど同じ感情。対象が「鬼」か「ZECTのライダー」かの違いだけだ。
「フフ……あはははっ……!」
 理解すると、「彼」は高らかに笑う。ヒトツミの仮の姿である、街娘の姿になって。
「おいおい、魔化魍に擬態したのか? 節操がないねぇ」
 目の前にいる紫の鬼が呆れたように呟くが、その声に焦りのような物が混じっているのがわかった。
 その隣で佇むカブトも、警戒しているらしく隙を見せずに身構えている。
 だが今は、こいつらの相手をしている場合ではない。
 引き継いだ記憶の主の仕事をしよう。「自分」の敵は目の前にいる連中だが、それ以上に厄介なのはこの時代の鬼達だ。
 奴らがいるから、この時代を狂わせる事が出来ないのだ。
――狂わせろ。殺せ。破壊しろ――
――全てを消し去れ――
 自分ではない誰かが、「彼」に囁いたような気がした。それは、この世界に来て最初に出会った「誰か」のような気もしたし、この記憶の本来の主のような気もする。だが、今の「彼」にとっては、そんな事はどうでも良い。
 「彼」はぴたりと笑いを止めると、ニィとその口の端を吊り上げ……ヒトツミの記憶にある「術」を用いて、その姿をくらまし、別の場所へと移動する。
 クロックアップのような高速移動ではない。これは単純に、他人の視覚を欺く幻術だ。今頃カブトや先程の鬼が血眼になって探しているだろうが、見つかる訳がない。
 くっくと喉の奥で笑いながら、「彼」が向かった先には……この時代の紫の鬼こと、響鬼。並み居る雑魚を倒した直後らしく、少し気を抜いているように見えたのだが……やはり、この時代でも歴戦の勇士らしい。
 思いながら冷たく哂うと、「彼」はその姿を魔化魍へと変えた。

「響鬼ぃっ!」
 無数に襲い来る狐面と、それを率いるオロチの童子と姫を相手に戦っていた「この時代の響鬼」の耳に誰かの声が、届く。
 油断せずにその方向を見やると、狐面の壁の向こうから、煌びやかな姿の鬼が視界に入る。それが煌鬼だと気付くのに、そう時間は必要なかった。
「やっぱ戦うわ、俺も! もう逃げるのはごめんだからな!!」
「俺も戦う。女房に合わす顔がないからな」
 怒鳴るような煌鬼の声に同調するよう、宙から響いた声の主は羽撃鬼。彼は童子と姫の真正面に降り立つと、動揺する彼らに向かって斬りかかった。
「よっしゃあ! 埋蔵金の夢が見たいんじゃい!」
「仏の声を聞いた。戦いの時だ!」
「僕も戦いますよ。人間の為にね」
「やっぱ、やるしかないんだよね」
 別方向からは西鬼、凍鬼、轟鬼、威吹鬼の四人が、煌鬼と同じように狐面を切り散らしながらこちらへと駆けてくる。まるで、オロチの生贄の少女を守るかのように、その周囲を取り囲みながら。
 ……これで、全員揃った。
 それを見るや否や、オロチの姫……戦闘態勢に入っているので妖姫と呼ぶべき存在が、手に持つ鉄扇を振り、部下である狐面達に対し鬼を倒すよう指令を出す。
 羽撃鬼、西鬼、凍鬼は近くの森の中へ向かい、残った面々はその場に残って相手の戦力を分断する。
 まずは羽撃鬼が宙から、そして西鬼は地上から狐面達を撹乱し、追ってきた妖姫に対しては凍鬼が気合と共に、持っていた音撃金棒・烈凍を振りぬき、あっという間に妖姫を撃砕する。
 一方水辺に残った煌鬼は水中に狐面を引きずりこんで切り裂き、威吹鬼は地上に残った他の狐面を撃ち貫く。そしてこちら側に残った怪童子に対しては、轟鬼が気合一閃相手の脳天に一撃を加えた後、とどめとばかりに相手の体に自らの音撃を叩き込み、あっさりと怪童子を粉砕した。
 そして、一人残った響鬼はと言うと。他の面々が敵を引きつけてくれたおかげで、随分と楽になったらしい。守っていた明日夢とひとえに逃げるように指示し、彼らが安全な方へと駆けて行くのを見送る。
 その瞬間彼の背筋に冷たい物が走った。
 悪意と、敵意と、殺意と……およそ負の感情と呼べる物全てをこちらに向けられたような、そんな気配。その気配の方を見やると、そこには派手な着物を着た、一人の少女……の姿をした「何か」が、冷たい笑みを浮かべて立っていた。
 刹那、それが魔化魍であると認識し、響鬼は一気に間合いを詰めると、気合と共に烈火を振り下ろす。
 だが、相手はそれを軽く避けると、幻術によって巨大化したように見せた手で響鬼を掴みあげ、そのまま森の中へと落とした。
 慌てふためく響鬼とは対照的に、相手……ヒトツミに擬態した「彼」は、込み上げる笑い声を止める事もなく、そのまま幻術の槍を響鬼に向かって振り下ろす。
――愉快だ。心の底から。魔化魍とは……そして幻術とは、これ程までに楽しい物なのか――
 自らに翻弄され、倒れこむ鬼を見るのは気分が良い。
 この感情は自分の物なのか、それともヒトツミの物なのかは分からないが、これ程までに高揚する気持ちは初めてかもしれない。
 楽しいがための傲慢か、「彼」は幻術を解き、響鬼に向かってその槍を突き立てようと駆け出す。ヒトツミの記憶の中にある、鬼の体を引き裂く感触を思い出し、「彼」の体は歓喜に震える。
 しかし響鬼も黙って倒されるはずもない。烈火を用いてその槍を受け止めると、それを払いのけて逆に「彼」の腹部に強烈な一撃を与え、続けざまに胸部へともう一発、烈火による打撃を加えた。
――鬱陶しい――
 そう思った瞬間。僅かに後ろでリンと言う金音がした。その音に気付いた時には、既に自身の後ろで錫杖を吹き矢のように構えた茶色い鬼……羽撃鬼の姿が。
 不味い。魔化魍は鬼の攻撃にすこぶる弱い。それは以前の戦闘で良く知っている。この体は、擬態とは言え魔化魍の物だ。まともに喰らえばただでは済まない。擬態を解いて少しでもダメージを軽減させるべきか?
 と、一瞬のうちに考えた物の……気がつけば自らの体には、羽撃鬼の放った三つの鬼石が彼の身を穿ち、身動きを封じていた。
「音撃奏、旋風一閃」
 冷静な声と共に、羽撃鬼の武器である音撃吹道フルート、烈空から清めの音が放たれる。
――音撃とはこれ程までに耳障りな音だっただろうか。これもやはり、魔化魍に擬態した弊害か――
 その音に耳を塞ぎ、苦しみながらも、「彼」はどこか冷静に考えていた。
 「自分の世界」で聞いた時は、忌々しさこそあった物の、それ程耳障りだとは思わなかった。むしろ美しいとすら感じたくらいだ。
 よろめく「彼」の姿を機と捕えたのか、今度は別方向から煌鬼がシャン、シャンと言う音と共に、音撃震張シンバル、烈盤で、金色のオーラを生み出し「彼」を捕らえ、更なる清めを施す。
「音撃拍、軽佻訃爆」
――フルートの音が鳴り止んだと思ったら、今度はシンバルか――
 全く、とんだブラスバンドだ。ある意味贅沢なのかもしれないが、今の「彼」にとっては迷惑でしかない。
「音撃射、疾風一閃」
 フルートに代わって、今度の管楽器はトランペット。
 威吹鬼の持つ音撃管、烈風の音を聞き、苦しみながらも「彼」は心の中で苦笑を浮かべる。
 羽撃鬼に撃ち込まれた鬼石の影響もあって、この青き力もまた、自身の体を苦しめる要因だと言うのに。
 そして一回、三人の鬼によって放たれた清めの力が、「彼」の身の内で炸裂した。
 終わったかとも思ったが、「彼」はまだふらりとよろめき、鬼達の側へ歩み寄る。それは恐らく、魔化魍としての反射なのだろう。
 それを見るや、西鬼が音撃三角トライアングル、烈節を構えて改めてそれを打ち鳴らす。
「いくで! 音撃響、偉羅射威!」
 いらっしゃい、いらっしゃいと言っておきながら、魔化魍を遠ざける音を奏で、西鬼は次の鬼の支度が整うまでカンカンと鳴らされる巨大トライアングルを叩き続ける。
 直後、彼の視界の端には準備を整えた轟鬼の姿が映り、ようやく音を止めた。
「音撃斬、雷電激震!」
 音が止まると同時に、「彼」の体を轟鬼の持つ音撃弦、烈雷が貫き、そのまま直接身の内に音撃を響かせる。
――ギターは振り回す物じゃ無かろうに。そもそも何故ギターなどあるのだろう? どういう武器のチョイスだ?――
 苦しみも、度を超すと諦めに似た何かをもたらしてくれるらしい。「彼」は心の中で冷静なツッコミを入れる。
 苦しいので、その言葉は声に出す事は出来ないが。
 それでも何とか轟鬼を引きはがし、自分の身の安全を確保しようとした……瞬間。まるでそのタイミングを狙っていたかのように白い鬼、凍鬼が既に構えていた。
「音撃殴、一撃怒涛」
 銅鑼のように鳴らされるその音撃は、溜まりに溜まったダメージを更に増加させた。
 身の内で、いくつもの清めの音が作用し合い、今にも「彼」の体を破壊せんと駆け廻っている。
 そして最後に……「彼」にとっても、そしてヒトツミにとっても、この上なく忌々しい存在が、自らの体に音撃鼓、火炎鼓を取り付け……
「音撃打、爆裂強打ぁっ!」
 ドンドン、ドンドンと四回。その名の通り、「彼」の体に響鬼の強打が打ち込まれ……大きく体が吹き飛ばされる。
 着地したのは森の中ではなく砂浜で。
 自身を追ってきた七人の鬼達が、自分の最後を見届けようとしている。
――結局は、自身はここで死ぬ運命だったのか?――
――自分のやるべき事は何だったのだ?――
 その問いに答える者など誰ひとりとしていないまま、「彼」は本来の姿……「ワーム」としてではなく、「魔化魍ヒトツミ」として、異なる世界で葬られた。

 ヒトツミが倒れ、完全に清められたのを七人の戦鬼が見届け、緊張を僅かに緩めた瞬間。
 おおん、と今まで身を潜めていたはずの大蛇が鳴いた。
 その声に漢字を宛がうなら、「汚怨」だろうか。自身へ捧げられるはずだった贄を奪われ、「親」を倒されたそれは、激昂したように鳴き声をあげる。
 魔化魍、オロチ。獅子舞に似た顔に、緑色の長い蛇のような体。そして胴からは申し訳程度に生えている手足。例えるなら蛙になりかけた頃のおたまじゃくし、と言ったところか。
「あれが……オロチ!?」
 オロチ達から僅かに離れた場所で、驚いたような声でユウスケが叫ぶ。その後ろには、ようやく合流したのか、驚いたように口をぱくつかせる幸太郎と一歩引いているテディ、そして真剣な表情でオロチを睨みつける翔一の姿もある。
 鬼ではない彼らにもわかる程、その魔化魍は毒々しい瘴気を放ち、世界を滅ぼす勢いで暴走している。
 口から火炎を吐き、その太い尾で鬼達を弾き、巨体に見合わぬ素早さで彼らを踏み潰そうと足を踏み出し……気付けば、この時代の響鬼が持っていた剣が、弾かれた勢いで海の中へと沈んでしまう。
 それを見た瞬間、彼らはこくりと頷き合った。
 黙って見ているだけなど、彼らに出来ようはずもない。
「カブキさんはここにいて下さい」
「待て、俺も……」
「その怪我で来られても、足手纏いだ。良いから終わるまでそこにいろ」
 ユウスケと幸太郎は、半ば強引に岩陰にカブキを押し込むと、そのまま一気に砂浜まで駆け下り、それぞれ鬼達に負けぬ気迫でオロチに向かって駆けつける。
「あの人……」
「あいつ、にゃんでこんなとこにおるんじゃ?」
「鬼でもないのに……死ぬで、あいつらっ!」
 威吹鬼、煌鬼、西鬼の順に、驚愕の声を上げる。
 ただ人が来て、勝てる相手ではないとわかっているからか。
 だが、そんな彼らの心配などお構いなしに。彼らはある程度の距離まで来ると、声を上げた。
『変身!』
 各々変身し、まずはオロチの尾に対してNEW電王こと幸太郎の斬撃が放たれ、直後その部分をアギトこと翔一の拳が寸分違わず炸裂。最後にクウガことユウスケのマイティキックが止めと言わんばかりにその尾を蹴り貫いた。
「ぐぅぅぅをおおぉぉぉっ!」
 痛みからか、オロチは苦しげに呻き、鬱陶しそうに彼ら三人を弾き飛ばそうと体をくねらせる。
 だが……オロチの体が、見えないハンマーに殴られたように、唐突に傾いだ。そうかと思えば、傾いだオロチの腹に、音撃鼓が展開する。
「ナイスだ、青年!」
 腹部に立っていたのは、ユウスケ達とは別方向から来たらしい響鬼。そして……
『Clock Over』
 自分達の背後には、クロックアップでオロチを翻弄していたらしいカブトこと、天道の姿。
「そんじゃあ行くぞぉ! 音撃打、一気火勢の型!」
 言うが早いか、響鬼は烈火の如き勢いでその音撃を打ち込む。先に聞いた音を、反芻するかのように。
 だが……
「るうぅぅおおおおおっ!」
 苦しげに暴れるオロチに振り落とされ、清めの音は中途半端に終わってしまう。
 逆にオロチの怒りに油を注いだ形になってしまった事を軽く後悔しながら、それでも響鬼は自身の持つ音撃棒、烈火を構え、オロチと相対する。
「ひ、響鬼さんが、二人いるっす……!」
「お前達、何者だ?」
 轟鬼と凍鬼の問いに、響鬼は困ったように頬を掻き……
「詳しい話はあとあと。今は、そいつを倒す方が先だろ?」
「ま、それもそうだな」
 響鬼の言葉に、この時代の響鬼が軽く返す。鬼達も、それで納得したのだろうか、苦笑気味に肩をすくめた後……各々、自分の武器を構えてオロチと相対した。
 ……七人の戦鬼と、五人の未来の戦士達。この時代の戦いは、そろそろ決着を迎えようとしていた。
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