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FF7BC

◾︎ごはん



着信を知らせる音で、目がさめる。
まだ少しだるい体を起こして電話に出ると、長い間一緒にいる気の許せる相棒の声が聞こえる。

「俺だ。あと5分ほどで到着する。
2度チャイムを鳴らすから、開けてやってくれ」
「おー。りょーかい」

返事をして、時計を見る。
ルードに体調不良で休みたい旨を伝えつつ買い物を頼むメールを送ってから、だいぶ時間が経っている。
朝起きた時に最高潮だった頭痛も落ち着いて、なんだか少し空腹を感じるような気がする。

ベッドに横になったまま、何を見るでもなく天井を見上げる。
こんなに長い時間、自分の部屋にいることは久しぶりだ。

ルードに頼んだのは飲み物だが、きっとあの気の利く相棒は、何かしら食料も持ってきてくれるはずだ。

きっかり5分が経過して、チャイムが2回鳴る。
もそもそとベッドから起き上がって、玄関に向かう。
汗をかいたシャツが気持ち悪くて脱ぎっぱなしだが、まあ、相手はルードだしどうでもいいかなと思う。

「うーい」

ドアを開けると、そこにルードはいなかった。
ルードと目が合う高さを無意識に見ていた視界の下の方で、金色が動く。

「お疲れさまです」

聞き覚えのある声。
声がした方に、顔を向ける。

「な!?」

そこには、前下がり気味の金色の髪の新人が立っていた。
手に、買い物してきたと一目でわかる袋を持っている。
ルードだと思って半身を開いて迎え入れる体勢のまま硬直するレノに、首を傾げる新人。

「ルードは?どうした?」

自分が買い出しと配達を頼んだ相手は、ルードなのに。
ルードではなく、なぜこの新人がここにいるのか。
状況が、把握しきれない。

「ルードさんは仕事が入ってしまったので、代わりに荷物を、レノさんの部屋の机の上に届けるよう言われました」

状況を説明する新人に、思わず頭を抱える。
「失礼してもいいですか?」という新人に、とりあえず「どうぞ」と答える。
部屋の中に進む新人の後ろをついて歩きながら、とりあえず、シャツを拾って羽織る。

ルードからの言いつけ通りに部屋のテーブルの上に袋を置いて、任務完了と満足げな顔をした新人。
はた、と何か思いついたような表情で、レノを振り返って言った。

「何か食べられましたか?」
「え、なんか作ってくれるの?」

新人の言葉に思わず聞き返すレノに、新人は「…わかりました」と答える。
即答ではなく、なぜ答えを躊躇したのか。
それはすぐにわかった。

新人は、キッチンに行くでもなく、頼んだ買い出しの品の入った袋の中を見るでもなく、自分のカバンをゴソゴソと探り始める。

「ちょっと待て。何やってんの?」

新人の手には、パックに入った白米と、パウチされた袋。

「レーションです」
「風邪ひいて寝込んでる人間に、レーション食べさすの!?」

新人が手にしているこのレーションとは、神羅軍が行動中に各兵に配給する食料。
タークスも食糧を調達できない現場での任務があるため、非常用としてレーションを確保している。

「栄養は満点です」

軍事行動中の食糧ということもあり、濃いめの味付けで、なかなかにハイカロリー。

「ヒートパックも持っているので、すぐにできます」

非常用に持ち歩いていて良かったですと、微笑む新人。

「あの…ちょっと伺いますけど、得意料理ってなんですか?」
「得意なのは、飯盒炊爨です」
「え?飯盒炊爨って、あの飯盒炊爨?キャンプとかお外で、薪とかくべて?飯盒で米を炊く、飯盒炊爨?」
「そうです」

軍事学校の演習で1番上手に炊けるって褒めてもらったことがあるんです、とドヤ顔の新人。

「あー…新人ちゃんは、お家で何食べてるの?」
「ごはんです」
「料理は?してないの?」
「お米を炊いています。あとは即席麺とか」

はあ…思わず大きなため息が出た。
この新人が神羅軍事学校主席の真面目ちゃんであることに加え、以前耳にした「3食きちんと食べている」という発言で、完全に油断していた。

「とりあえず、新人ちゃんはここに座ってなさい」
「でも、レノさんのごはんを…缶飯もありますよ?」
「お座り」

困った表情の新人の頭を、わしゃわしゃと撫でる。
いくら窓を開けても、ヒートパックを室内でやられたら臭くてたまらない。
カバンから取り出しかけている缶詰を新人の手から取り上げ、机の上に並んだレーションセットといっしょにカバンに入れるようにそっと促す。
そして、新人がルードから託された袋の覗いて、おにぎりが入っているのを発見する。
さすがは相棒だ。
それを持ってキッチンスペースへ向かう。
あり合わせで、リゾットのようなものならできるだろう。

完全無欠の優等生だと思っていた新人の、意外な一面。
かわいい新人ちゃんのために、先輩は風邪なんて引いている暇はない。
そういえば、頭痛もだるさもすっかり何処かに行ってしまった。

「…真面目ちゃん。すげえな、と」



しばらくの間、レノによるお料理教室が開催されるのは、また別のお話。
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