このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

FF7BC

◼︎飛んで火に入る


道すがら、自分の部屋の窓を見上げる。
自分の部屋で誰かが待っているというのは、不思議な感覚だ。
鼻歌交りに足を進める。
途中、誰かとすれ違ったが、気にしない。
普段の生活ではあまりない、手に持った荷物の重さも気にならない。

「ただいまー、と」

少し照れる、言い慣れない言葉。

「おいおい。明かりぐらいつけろよ、と」

声をかけながら部屋のドアを開けると、部屋の中の人物が答えた。

「…おかえりなさい」

パチンと、部屋の明かりのスイッチを入れる。
金髪の後輩が、構えていた銃を下ろす。

「ちゃーんと大人しくしてたか?」

彼女の横を通り過ぎて、帰りがけに買ってきた夕飯をテーブルに置く。
後輩から、反応はない。

「怖い顔するなよ」

何か言いたげな、不機嫌な顔で立っている後輩に、レノはおどけた声で言う。

「しょうがないだろ、と」

事の発端は数日前。
稀にあると言えば、ある出来事。
敵の1人が、恋に落ちた。
そこまでならよかったが、好意を抱いた相手をその手で壊したい、少し歪んだタチだったらしい。

「いつまでもここにいては、レノさんにご迷惑がかかります」

自分でなんとかしますと言う彼女は、満身創痍だ。
その傷は、不意打ちで襲われたためにできた。
仕事帰りで少し気が抜けた時を、狙われた。
その現場をたまたまレノが見つけ、保護した。
相手は、その場では取り逃がした。

「あと少し待っとけよ、と」

事があった翌日、空き巣騒動が起こった。
被害に遭った部屋のテーブルの上には、歪んだ思いが綴られた手紙。
部屋の主人は、たまたまレノの家で寝込んでいたこの後輩だ。

レノの報告と、部屋の惨状、手紙の内容。
とりあえず相手を処分するまでは、下手に彼女を動かして居場所を知られないようすべきだろう。
主任から、レノの部屋でそのまま匿うようにという指示があった。

「レノさん。とりあえず、この手錠は外してもらえませんか?」

後輩が手を動かすと、手錠から伸びる鎖がジャラッと音を立てる。
鎖は、あまり物がないこの部屋の、ベッドの足から伸びている。
長さはそれなりにあり、部屋の中では不自由がないようになっている。

「大人しくしてろって言ったのに、ふらふら出歩いたのは誰だよ」

最初は、手錠も何もなかった。
起こっている状況や、主任からの指示を伝え、納得したように見えたからだ。

「…」

けれど、後輩は自分でケリをつけようとした。
部屋から出るなという言いつけを破り部屋を抜け出して、ターゲットを尾けようとしているところを、ターゲットを追っていたルードに見つかり、確保された。

「イライラすんのはわかるけど、あたるなよ」

満身創痍で戦闘ができる状態ではない後輩を確保することを優先したために、ルードはターゲットを取り逃がした。
ターゲットを処分するのに時間がかかっているのは、彼女自身のせいでもある。
思わず、語気が強くなる。

「…すみません」

不意打ちとは言え、敵の攻撃を防ぎきれず、プライドがズタズタなのはわかる。
自分が油断したことが原因だと、この真面目ちゃんは自責の念に駆られているのだろう。

「まあ、休暇だと思ってゆっくりしとけよ」

ぐしゃぐしゃと、頭を撫でる。

「さ、飯食えよ。腹が減っては何とやらだぞ、と!」

大げさに言って、後輩を無理やり座らせる。
テーブルの上の袋からは、後輩が前に好きと言っていたプリンが顔をのぞかせている。
今日は、ちょっといい日だから。

レノは思わず鼻歌をうたう。
きっと今頃は、全てが解決に向かって動いている。
キッチリと鍵を閉めた、ドアの向こうで。
14/27ページ