このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

FF7BC

◾️真面目ちゃん


深夜のオフィス。
珍しくデスクにかじりつくように向かうレノに、声がかかる。

「レノさん」

レノが顔を上げると、そこには前下がりの金髪の短い髪に、青い瞳の新人。
手には、この新人にレノが依頼した、小腹を満たすための品が入った袋を持っている。

「おー。さんきゅ、と」

“机に向かう”という慣れない態勢を長時間続けたため、体が痛い。
その場で袋の中身を取り出そうとして、机の上に広がる始末書の山に食べこぼしでもしたら、さらに始末書を書かされるんじゃないかと思い至る。
かと言って、この書類を今整頓してスペースを確保することも、面倒だ。

ため息をひとつつく。

伸びをして立ち上がると、本来用途での利用頻度はあまりたかくない応接セットに移動する。
ソファに座り、ゴソゴソと袋の中身を取り出す。

「レノさん」

レノの買い出しという任務を終えた新人が、また声をかけてきた。
手には、湯気が立ち上るカップ。
コーヒーの香ばしい香りが漂う。
気がきくなと、思う。

「あの…どうしてあんなことしたんですか?」

新人がカップを置きながら口を開いた。
あんなこと、とは始末書を書くことになった出来事を指している。

端的に言えば、レノが新人のために取った行動のために、調査任務が失敗に終わった。
そのために、レノは怒られ、始末書作成に取り組むことになった。

新人は、このことを気にしているのだろう。

「…」

レノは答えない。
任務失敗は、完全に自分のエゴのためだ。

「あらゆる任務を遂行するのがタークスだって、レノさんがおっしゃいました。多少のことは」

新人が言うことは、もっともだ。
あらゆる任務を遂行するのがタークスだ。
でも。

「レノさん?痛いです」

コーヒーの入ったカップを置いた新人の手首を、思い切り掴んでしまった。

「!?」

そのまま勢いで、レノは新人をソファーに組み敷く。

「タークスだって言っても、お前だって女なんだよ。本気の男には力じゃ敵わないこともあるんだ」

任務中、新人が男に絡まれた。
任務遂行のためには、あの場面では出て行くべきではないことは、レノにはよくわかっていた。
新人も任務に影響が出ないよう、目立たないようにうまくかわそうとしていた。
けれど、下卑た男の手が新人の髪から頬に触れた瞬間、体が動いていた。

「…」

組み敷いた新人の、髪に手を触れる。
サラッとした髪が指からこぼれ落ちる。

「真面目ちゃんにはわかんないかもしれないけどな」

抵抗しないことに、勢いがつく。
頬に手を触れると、ビクッと体が硬直した。
気にせずそのまま顔を近づけると、新人がぎゅっと目を瞑る。

「…わりい」

言ってレノは体を離して、ソファから立ち上がる。
指先から、目を瞑った新人の頬が震えているのを感じた。
何をしているんだ。

「のぉ!!?」

絡んだ男と変わらないじゃないかと、自己嫌悪を抱いた瞬間。
服の裾を思いっきり引っ張られて、体勢を崩してそのまま床に倒れこんだ。

「何すんだよ!?」

思わず文句の言葉が口をついて出た。
床から体を起こして、ぶつけた頭をさする。

「真面目ちゃんじゃありません」

床に手をついて体を起こしかけているところで、おもむろに新人に馬乗りになられた。
キッと睨む新人。

「悪い!ホントにごめん!」

レノは必死に謝る。
女といっても、やはりタークスだ。
きっとこのまま銃を取り出されて、撃たれるに違いない。
短い人生だった…こんなことならあんなことやこんなこともしておけばよかった。
一瞬のうちにそんなことが、レノの頭に浮かぶ。
胸ぐらを掴まれて、いよいよダメだと思った。

予想しなかった衝撃に、レノは思わず目を見開く。
サラッとした金色の髪が揺れて、レノの目の前から離れる。

「…お先に失礼します」

ぼそりと言い、掴んでいたレノのシャツから手を離して、新人が立ち上がる。
そっぽを向いているので、表情は見えない。
レノは、どうすることもできずに、新人がオフィスの外に出て行く後ろ姿を見守った。

「マジかよ…」

意外すぎる行動。
触れた唇の感触が、まだ残っている。
思い出したら、なんだか顔が熱くなった。
レノは髪をクシャクシャと混ぜて、その場にあぐらをかく。

ふと、新人が置いてくれたままの状態のテーブルの上のカップが目に入る。
あれだけ大暴れしたにも関わらず、溢れることなく佇んでいる。
レノは、そのカップに手を伸ばし、口をつけた。
9/27ページ