象牙の塔シリーズ① 戸田先生は苦労性

進藤と戸田は同じ中学、高校のクラスメートだったが、高校の途中で進藤が転校してしまい、以来音信も途絶えた。それが、戸田が大学院の修士課程終了直前、学会での初めての発表を許された時、なぜかその学会に進藤が参加していたのだ。聞けば進藤も転校した土地の国立大学に進学し、今は戸田と同じく大学院で学んでいるという。偶然の再会に二人は旧交を温め、気が付くと戸田は自分のホテルに進藤を招き入れ、その肌までも温めたというか、温められたというか…。ま、結局、なりゆきでそういうことになってしまっていた。

片手にハーブティー、片手に宇治茶を持ち、戸田はパソコンにかじり付くように座っている進藤の隣に椅子を寄せた。
「お前な、人のパソコンで何してんだ?」
ごくごく自然に戸田の手から好みのお茶を受け取って、それでも進藤は画面から目を離さない。
「アダルトサイト鑑賞」
「!…、じょ、冗談じゃない!これが学内LANだっていうのは分かってるのか!ログでも見られたら、僕の立場はどうなる!」
戸田は、進藤の性格を忘れ、慌てて画面を覗き込んだ。
「し、進藤~、お前~!」
戸田の、学生たちから「美形」と評判の顔が見る見るうちに紅潮する。
そこにあったのは、腰にやんわりとシーツを纏っただけの露わな姿で、自室以外のベッドで眠り込む、戸田の極めてプライベートな写真だった。
「良く撮れてるよな~。携帯のカメラも侮れまへん」
ふざけた言い回しをしながら、ご機嫌良く写真を眺める進藤に、戸田はこの上なく険悪な視線を送った。
「いつの間に撮ったんだ」
「先週末、お前が俺の部屋に泊まった時に決まってるだろ?このベッドに見覚えは無いとは言わせないぜ」
あっけらかんと笑い出した進藤を、戸田は心底憎らしいと思った。
「この時のお前、疲れてたからな、一回しかしてくれなくて、自分だけさっさと寝ちまってよ。悔しいから携帯で撮ってみた。コレ、俺の今の待ち受け画面だぜ。見る?」
この恥知らずな男が、自分と並ぶ新進気鋭の研究者扱いされていることを、この時ほど戸田が口惜しく感じたことはなかった。
「んで、お前のパソコンの壁紙に加工して…」
いそいそと作業を進めようとする進藤を、戸田は急いで止めた。
「んなもん、せんでいい!」
「なんで、お前、すんげえ可愛いのに」
厚顔無恥とはこのことである。戸田は、よほどこのバカ男を殴ってやろうかと思ったが、大学の構内だという場所柄を弁えてか、ぐっと堪えた。
「…なあ、しようか?」
「はああ???」
唐突な進藤の言葉に、真面目な戸田は幻聴かとさえ思った。
「ちょうど、両隣の先生方はお留守だぜ?」
なぜそんなことを知っているのかと、聞き返す気力も、もはや戸田は失っていた。
「な、お前は何もしなくていいからさ」
言うが早いか、進藤は明るく屈託のない表情で戸田の足下に跪いた。
「おい!冗談はよせって」
「お、なんかイケナイムードたっぷりで、悪くないね~」
どこまでも進藤は軽いノリで、なんの躊躇いもなく、椅子に掛けた戸田の両足の間にカラダを入れる。
「たっぷりサービスしまっせ」
「お、おい!」
焦る戸田を余所に、進藤は慣れた仕草で戸田に触れ、さも愛しげに愛撫を始めると、今までの表情がウソのように急に真剣な顔つきになった。
「好きなんだ…」
真顔で、低く囁かれると、後ろめたさより勝る感情に戸田も流されそうになる。
こんな所、誰かに見られたら…。
けれど、こんな背徳なシチュエーションが高ぶりを誘うのも確かだった。
いつもリードするのは、経験値の差か、好色度の差なのか進藤ばかりだが、実際、男としての役割をもって淫乱な進藤を犯すのは戸田の方だった。進藤は、いつも欲しがるのだ。
「入れて…欲しいんじゃないのか?」
辱めることを目的としてでなく、互いの役割から来る思いやりを持って、戸田は熱心な進藤に声を掛けた。
「いつだって、お前を欲しいさ」
思わぬ優しい眼差しで、進藤は戸田に告白し、熱く濃艶なキスをした。
2/3ページ
スキ