きせつのもの
ボンゴレ屋敷のキッチンで、クロームはちいさく唸りながら本とにらめっこをしていた。バレンタインにボスや骸へ何かプレゼントをしたいと思っていたが、生憎とクロームは料理経験が少ない。頼みの綱のレシピブックも彼女にとっては少々難しいものだった。
それでもにらめっこをつづけていると、不意に扉が開く音がする。だれかきたんだ、としか思わなかったクロームの耳に、知らない声が飛び込んだ。
「あれ?」
「…………?」
くるりとクロームは振り返る。そこに居たのは、大きな紙袋を抱えるエプロン姿の娘だった。
骸と共に十代目ドン・ボンゴレに拾われて、守護者となってしばらく経つが、クロームは彼女に見覚えがなかった。向こうも同じらしく、琥珀色の瞳を丸くしてクロームを見つめている。娘は曖昧に笑んでクロームから視線を外し辺りを見回すと、小さく溜息を吐いた。
「……どうしたの?」
「ちょっと、想定外な事が起きてる、かな。変な事聞くけど、今、何月?」
ほんとにへんなことをきくおねえさんだ、そう思いながらクロームは答えた。
「にがつ、だよ」
「あーそっか。……オレね、四月から来たんだ」
「え?」
クロームは片目を瞬かせて、娘を見上げた。
変な話だけどねえ、と苦笑しながら娘は説明する。
「この屋敷は仕掛けも相当多いけど、たまにおかしな事が起こるんだって。時が歪んだり、無いはずの扉があったり」
「わたしは、きいたことないよ」
「古い話みたいだから、知らない人が多いかも。オレもおとぎ話だと思ってた」
聞いてみてごらん、そっちにも誰か、知ってる人がいるかもしれない。
娘はそういいながらテーブルに紙袋を乗せ、
「それで、一人で何をしようとしてたの?」
「・・・・・・おかし、つくろうとおもったの。ばれんたいんだから」
「そっか、バレンタインなんだ。……ちょうどいいかな。オレもお菓子作ろうと思ってたところなんだ。――先生が、甘党らしくて」
不意に途切れる言葉。娘が口にしたその名前だけが聞き取れない。
(へんなせかい)
クロームは幼心にそう思った。目の前のお姉さんは誰かにそっくりだし、時間が歪んでいるということもよく分からない。
けれどどうしてか、不安は感じなかった。
「……それなら一緒に作ろっか?」
娘の言葉にクロームは我に返る。
「いいの?」
「一緒に作ったほうが美味しくできるよ。バレンタインなら、チョコレートケーキにしよっか」
「うん。ちょこれーと、わたしもってるよ」
「じゃあ、早いとこ作っちゃおうか」
紙袋から小麦粉や砂糖を取り出してきぱきと材料を計る娘の手伝いをしながら、クロームはふと聞いた。
「おねえさん、ちょっとだけおなかがおおきいね」
「うん。赤ん坊がいるんだ」
「…………あかんぼう?」
「十月にね、男の子が産まれるんだって」
そういって彼女は嬉しそうに笑う。つられてクロームも笑った。
「げんきだといいね」
「ありがと。……まあ、その辺は心配はしてないよ」
今から口が達者だから、とぼやく娘はそれでも表情を笑顔から崩さなかった。
焼きあがったふたつのチョコレートケーキに、二人は目を合わせて笑う。
包装や片付けを協力して済ませると娘は優しくクロームを撫でた。
「じゃあ、オレは帰るよ。また会えたらいいね」
「うん、ばいばい」
手を振るクロームの前で、娘は扉の向こうへ消える。
次にクロームが扉を開けたとき、そこに居たのはドン・ボンゴレ、沢田綱吉だった。
珍しいことに彼は顔色を青ざめさせていたがクロームを見るなりほっとした表情になり、きょとんと自分を見上げる彼女の頭を撫でた。
「よかった、心配したよクローム」
「どうしたの、ぼす?」
心配される様なことをしたつもりがないクロームはケーキを抱いたまま首を傾げる。綱吉はクロームの背の扉を示し、不思議そうに言った。
「その部屋に、今まで入れなかったんだ。鍵でも掛けてたのかい?」
「ううん。でも、ふしぎなおねえさんにあったよ。いっしょにけーきつくったの」
「不思議なおねえさん?」
鸚鵡返しに聞く綱吉にクロームは頷きを返す。
「ときがゆがんで、しがつからきたんだって。おなかにあかちゃんいたよ」
「時が歪む……あの話、本当だったんだ」
「ぼす、しってるの?」
「九代目から聞いたことあるけど、作り話だと思ってた」
「おねえさんもそういってたよ」
「そっか。……で、何でわざわざキッチンに入ったりしたんだい?」
問われ、クロームはほんのりと頬を赤らめてケーキの入った箱を差し出した。
「ばれんたいん……ぼすと、むくろさまに」
綱吉は床に膝を着きクロームと目を合わせると、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。じゃ、部屋に帰っておやつにしようか」
「うん!」
抱き上げられ、間近に綱吉の笑顔を見てクロームは気付く。
あの娘は、この人に良く似ていた。
*****
ばれんたいんみっくす:ふたきり×いるみお。
すみません、遅くなりましたorz
それと八割方書いて気付いたんですが、女性から渡す風習って日本(アジア圏)だけだったような…………この話の場所イタリアのような……まあ、いっか。
因みにシリーズものの女の子が一人というか、黒髪ツンデレのおかーさんがが足りませんが、
リアルにあの人がチョコ作る光景が思いつきませんでした(真顔)
どっちかってとコロネロさんが買ってきてプレゼントしてくれそうです。そんでリボーンも義理(?)でくれて小さな争いが起きそうです。
もちろんリボは愉快犯です。
それでもにらめっこをつづけていると、不意に扉が開く音がする。だれかきたんだ、としか思わなかったクロームの耳に、知らない声が飛び込んだ。
「あれ?」
「…………?」
くるりとクロームは振り返る。そこに居たのは、大きな紙袋を抱えるエプロン姿の娘だった。
骸と共に十代目ドン・ボンゴレに拾われて、守護者となってしばらく経つが、クロームは彼女に見覚えがなかった。向こうも同じらしく、琥珀色の瞳を丸くしてクロームを見つめている。娘は曖昧に笑んでクロームから視線を外し辺りを見回すと、小さく溜息を吐いた。
「……どうしたの?」
「ちょっと、想定外な事が起きてる、かな。変な事聞くけど、今、何月?」
ほんとにへんなことをきくおねえさんだ、そう思いながらクロームは答えた。
「にがつ、だよ」
「あーそっか。……オレね、四月から来たんだ」
「え?」
クロームは片目を瞬かせて、娘を見上げた。
変な話だけどねえ、と苦笑しながら娘は説明する。
「この屋敷は仕掛けも相当多いけど、たまにおかしな事が起こるんだって。時が歪んだり、無いはずの扉があったり」
「わたしは、きいたことないよ」
「古い話みたいだから、知らない人が多いかも。オレもおとぎ話だと思ってた」
聞いてみてごらん、そっちにも誰か、知ってる人がいるかもしれない。
娘はそういいながらテーブルに紙袋を乗せ、
「それで、一人で何をしようとしてたの?」
「・・・・・・おかし、つくろうとおもったの。ばれんたいんだから」
「そっか、バレンタインなんだ。……ちょうどいいかな。オレもお菓子作ろうと思ってたところなんだ。――先生が、甘党らしくて」
不意に途切れる言葉。娘が口にしたその名前だけが聞き取れない。
(へんなせかい)
クロームは幼心にそう思った。目の前のお姉さんは誰かにそっくりだし、時間が歪んでいるということもよく分からない。
けれどどうしてか、不安は感じなかった。
「……それなら一緒に作ろっか?」
娘の言葉にクロームは我に返る。
「いいの?」
「一緒に作ったほうが美味しくできるよ。バレンタインなら、チョコレートケーキにしよっか」
「うん。ちょこれーと、わたしもってるよ」
「じゃあ、早いとこ作っちゃおうか」
紙袋から小麦粉や砂糖を取り出してきぱきと材料を計る娘の手伝いをしながら、クロームはふと聞いた。
「おねえさん、ちょっとだけおなかがおおきいね」
「うん。赤ん坊がいるんだ」
「…………あかんぼう?」
「十月にね、男の子が産まれるんだって」
そういって彼女は嬉しそうに笑う。つられてクロームも笑った。
「げんきだといいね」
「ありがと。……まあ、その辺は心配はしてないよ」
今から口が達者だから、とぼやく娘はそれでも表情を笑顔から崩さなかった。
焼きあがったふたつのチョコレートケーキに、二人は目を合わせて笑う。
包装や片付けを協力して済ませると娘は優しくクロームを撫でた。
「じゃあ、オレは帰るよ。また会えたらいいね」
「うん、ばいばい」
手を振るクロームの前で、娘は扉の向こうへ消える。
次にクロームが扉を開けたとき、そこに居たのはドン・ボンゴレ、沢田綱吉だった。
珍しいことに彼は顔色を青ざめさせていたがクロームを見るなりほっとした表情になり、きょとんと自分を見上げる彼女の頭を撫でた。
「よかった、心配したよクローム」
「どうしたの、ぼす?」
心配される様なことをしたつもりがないクロームはケーキを抱いたまま首を傾げる。綱吉はクロームの背の扉を示し、不思議そうに言った。
「その部屋に、今まで入れなかったんだ。鍵でも掛けてたのかい?」
「ううん。でも、ふしぎなおねえさんにあったよ。いっしょにけーきつくったの」
「不思議なおねえさん?」
鸚鵡返しに聞く綱吉にクロームは頷きを返す。
「ときがゆがんで、しがつからきたんだって。おなかにあかちゃんいたよ」
「時が歪む……あの話、本当だったんだ」
「ぼす、しってるの?」
「九代目から聞いたことあるけど、作り話だと思ってた」
「おねえさんもそういってたよ」
「そっか。……で、何でわざわざキッチンに入ったりしたんだい?」
問われ、クロームはほんのりと頬を赤らめてケーキの入った箱を差し出した。
「ばれんたいん……ぼすと、むくろさまに」
綱吉は床に膝を着きクロームと目を合わせると、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう。じゃ、部屋に帰っておやつにしようか」
「うん!」
抱き上げられ、間近に綱吉の笑顔を見てクロームは気付く。
あの娘は、この人に良く似ていた。
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ばれんたいんみっくす:ふたきり×いるみお。
すみません、遅くなりましたorz
それと八割方書いて気付いたんですが、女性から渡す風習って日本(アジア圏)だけだったような…………この話の場所イタリアのような……まあ、いっか。
因みにシリーズものの女の子が一人というか、黒髪ツンデレのおかーさんがが足りませんが、
リアルにあの人がチョコ作る光景が思いつきませんでした(真顔)
どっちかってとコロネロさんが買ってきてプレゼントしてくれそうです。そんでリボーンも義理(?)でくれて小さな争いが起きそうです。
もちろんリボは愉快犯です。