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きせつのもの

ハロウィン拍手

ハロウィンの日。
(いつもの如く暴走した)沢田さんに、揃いの仮装をさせられた骸とクロームは、
とりあえず、
守護者にお菓子をたかりにいくのでした。

1.雷の守護者
「とりっくおあとりーと!!」
とりあえず、部屋を出て一番に見つけた――丁度目の前を通りかかったカモ――ボンゴレ雷の守護者、ランボにクロームは声を掛けた。
「ハッピーハロウィン、お二人とも」
常套句の挨拶を返し、ランボは二人の格好に相貌を崩す。
「服は、ボンゴレの趣味ですか?」
揃いのデザインの骸骨モチーフの衣装を着たクロームと骸は、言ってしまえば沢田好みに可愛く仕立てられていた。
骸は頬を赤に染めむっとした様子で、不穏な三叉槍を取り出して脅す。
「何も言わず菓子を出しなさい」
「……はいはい」
クロームと骸のちいさな掌に一掴みずつぶどう味の飴玉を乗せてやりながら、不意にランボはこんなことを聞いてきた。
「ところで、さっきの坊ちゃんはご友人で?」
「え?」
「何の話ですか?」
きょとん、と見上げる二人に、ランボはまた問いを投げかける。
「さっきも小さなお子さんに会いましたよ。誰か部下の子でも紛れ込んだのですか?」
クロームと骸は顔を見合わせて首を傾げた。うきうきと二人に衣装を手渡した綱吉は可愛い、とか危ないから外には出ないように、とは言っていたが、子供がほかにいるとを言っていた記憶は無い。
「そんな話、聞いてませんけど。ねえ、クローム」
「うん」
「……おかしいですねえ」
すっかり減ってしまった飴玉を一つ口に運び、ランボは不思議そうに呟いた。


2.晴と雨の守護者
庭に出ていた晴と雨の守護者を見つけ、クロームは彼らに駆け寄る。
(今日のクロームはやけに活発ですね)
そう、保護者のように思いながら、骸もその後を追った。
「とりっくおあとりーと!!」
守護者内でも友好的な部類に入るコンビは、満面の笑みで二人を迎える。
「お、可愛いオバケなのなー」
「二人とも、極限に似合っているぞ!」
わしわしと頭を撫でようとする了平をかわし、骸はにやりと子供らしくない笑みを浮かべた。
「褒められても困ります。で、悪戯されますか?」
それにクロームも便乗し、ぴょこぴょこ跳ねて主張する。
「おかしくれないといたずらするよ!」
「あはは、イタズラは困るのなー」
明るく笑った山本はスーツのポケットから瓶を取り出し、それを二人にひとつずつ渡した。
「金平糖ですね」
瓶を受け取り、骸は呟いた。隣のクロームは目をきらきらさせて金平糖を見つめている。
「……おほしさまみたい」
「キレーだろ。丁度、親父が送ってくれてたのな」
「俺からはカボチャのタルトだ。京子の手作りだぞ、沢田とおやつ時にでも食べるんだな」
甘い香りのする紙箱を、クロームは笑顔で受け取った。
「ありがとー」
「有難うございます」
二人がお菓子を籠に入れたところで、山本がそういえば、と切り出した。
「そーいや、さっきちっこいのがいたんだけど――」
「さっきも聞きました。……ですが、僕達以外に子供はいないと思います」
「だが、これくらいのちびがいたぞ」
了平が手で示した高さは、クロームよりも低かった。どうやら、そうとう幼い子供らしいと骸は推測する。
「ですが……いくらハロウィンでも、こんな警備の厳しい所に子供が迷い込めるとは思えません」
「だが……本当に居たのだ」
額に手をあて、悩みながら了平は答えた。
「どんなこ?」
「犬耳の……あー、アレ狼男の仮装をしてたのな」
「そういえば、どこかで見たような鳥を連れていたぞ」
「…………?」
鳥を連れた子供。骸もクロームも、その特徴に該当する人間を思いつかない。
「見覚えは?」
了平も山本も、揃って首を横に振った。
「全く無い!」
「そうなのなー。……もしかしたら、本当にオバケかもしれねえのな」
笑いながら山本は言う。それが本気か冗談か、二人にはよく分からなかった。

3.おねえさん
次のカモ(主に守護者)を探して庭をてくてくと歩いていると、ふと声が掛かった。
「可愛い格好だね、今日はハロウィンなんだ」
声のほうに視線をやると、近くの窓から身を乗り出した娘が、にこにこしながら手を振っていた。
見慣れない、けれど見覚えのある娘に、クロームははっとして、娘に近寄る。
「おねえさん!」
彼女と違い、娘に見覚えの無い骸は首を傾げ、傍らのクロームに聞いた。
「あの方は……知り合いですか?」
「うん。まえ、いっしょにけーきつくったの」
そういえばバレンタインの頃、クロームが彼女にしては手の込んだケーキを作ってきたことがあった。その手伝いを、娘がしてくれたらしい。
「……それは、この子がお世話になりました」
そう言って骸が頭を下げると、娘は謙遜した様子でぱたぱたと手を振った。
「いや、オレは手伝っただけだし。君とははじめましてだけど、お兄さん?」
「厳密には違いますが、だいたいそういう感じです」
「そう。なかよしさんだね。……ハロウィンか……あ、ちょっと待ってて」
一度窓から離れた娘は、すぐに箱を持って戻ってきた。
「はい、二人とも籠を出してー……ハッピーハロウィン!」
そういって彼女は、二人の籠にざらざらとマシュマロを流し込んだ。色とりどりのセロファンに包まれたふわふわの菓子に、クロームは目を輝かせる。
「ありがとー」
「有難うございます」
「どういたしまして」
満足げに空になった箱をしまい、娘は言う。
「……そういえばさっき、男の子が走ってったみたいだけど、お友達?」
守護者を騒がせている子供は、娘にも目撃されているらしい。
「さあ、分かりません」
「会ったらその子にもわけてあげてね」
「はーい」
「じゃ、またね」
手を振る娘に見送られ、二人はまた守護者探しに歩き出した。

4.嵐の守護者
足元に子猫の瓜を連れた嵐の守護者がベランダに出て煙草を吸っている。
「とりっくおあとりーと!」
「ほらよ」
常套句を掛けるとほぼ同時に投げやられた箱を、クロームは慌ててキャッチする。彼女は、手の中のそれを見て呟いた。
「……たばこ?」
「獄寺隼人」
こどもになにを、と骸が半眼で睨みつけると獄寺は呆れた様子で返答する。
「シガレットチョコだっつーの。お前等もあのチビと同じこと言いやがって」
ここにも、噂の子供は現れたらしい。思わず骸は呟いた。
「また、ですか」
「また?」
「にょお?」
獄寺と瓜が同時に聞く。
子供の噂を聞くのも何度目か。下手をすると守護者全員がその話をすると予想し、若干嫌気が差しながらも骸は答えた。
「行く先々で守護者からお菓子を強奪している子供がいるそうです」
「おおかみおとこだって」
「鳥を連れているそうで」
交互に伝えられた子供の特徴に、獄寺は眉間に皺を寄せた。
「……鳥っつーか、あれは猛禽類だろ」
「もうきんるい?」
「肉食の、目つきが鋭くてでかい鳥」
首を傾げ鸚鵡返ししたクロームに、ぶっきらぼうな説明が帰ってくる。
鳥と言われ、てっきり雲雀が連れている小鳥のようなものを想像していた二人は、子供と猛禽類という不釣合いなセットに軽い困惑を覚えた。
「ますます訳が分からなくなってきましたね。……で、その子供は?」
「ひとしきり瓜と遊んで、どっか行っちまった」
な、瓜。
そう獄寺が声を掛けると、子猫はにょおんと鳴いて欠伸をした。

5.謎の夫婦
「とりっくおあとりー…………と?」
とりあえず、と声を掛けたクロームの声が段々小さくなり、最後には語尾が上がる。疑問符が付いているように骸には聞こえる。
そこに居たのは、見覚えの無い二人だった。
「……ハッピーハロウィン」
不思議そうな表情で答えた黒髪の女性が菓子を二人に手渡す。
オバケの形をしたクッキーを受け取り、クロームは女性に笑いかけた。
「ありがとー」
「有難うございます」
「お?……どっかで見たことあるよーな顔だなコラ」
女性の横で、連れらしい金髪の男性が首をかしげて呟いた。しかし、骸たちには全く覚えが無い。
「気のせいだろう」
そう金髪に返答した女性がお前達、と二人に聞いた。
「うちの子を見なかったか?」
「うちのこ、ですか」
腕組をした男性がうんうんと頷く。
「ああ。ちょっと目を放した隙にあいつ……さっきから姿が見当たんねえんだコラ」
どうやら、この二人――推定するところ、夫婦だろう――には、探し人がいるらしい。うちの子、というからには彼らの子供と予想もできる。
まさか、とクロームと骸は顔を見合わせ、向き直って聞いた。
「それってもしかして、僕等よりもちいさくて、狼男の仮装をして、鳥を連れた男の子ですか?」
問いかけられた夫婦は同時に、盛大に溜息を吐いた。
「……ああ」
「そいつだコラ……」
「そのこ、みんながみてるみたいだよ」
「……何をしていたんだ?」
「僕達と同じで、お菓子を貰っているようです」
想像通りの回答だったらしい、すっかり呆れた口調で男性が呟く。
「ま、どーせそういうとこだろうなコラ」
「……お前達、もし会ったら戻ってくるように言ってくれないか」
女性の頼みを断る理由も無く、骸もクロームも頷いた。
「分かりました」
「子守役も付いてっから、迷子にゃならないと思うが……念のためだなコラ」
そう言う男性と、今までの守護者達からの伝聞が偽り無いのなら、子守役は鳥、ということなのか。
骸はその予想を、これ以上考えないことにした。



6.雲の守護者
ハロウィンがもたらす魔法なのか、仮装をして気分が高揚しているからか、クロームはボンゴレ最強と呼び声高い雲の守護者にも果敢にアタックした。
「とりっくおあとりーと!」
「やあ。どらやきもっておいき」
「ありがとー」
いつもどおり、和服姿の雲雀はどこからか菓子を幾つか取り出し、クロームに手渡した。彼の肩に乗った小鳥が、気の抜ける声で言葉を発する。
「クリドラヤキー」
雲雀の渡したそれは、どうやら栗が入っているらしい。
沢田にも渡しな。そう、雲雀は言葉を足した。
「ところで雲雀恭弥、ちいさな子供を見かけませんでしたか?」
他人の気配に敏感な雲雀が、子供に気付かない訳は無い。また、イタリアの地において悪目立ちする姿の雲雀を、散々守護者を見つけた子供が見逃す筈もない。
そう予測して、骸は問いかけたのだった。
「目の前にいるよ」
即答した雲雀の肩で、小鳥がぴよぴよと鳴く。
「チビーチビー」
「僕達じゃないです!」
からかいに反応した骸にくすりと笑みを零し、雲雀は今度はまともに答えた。
「……あの、鷹を連れたちっちゃいのだろう」
「知ってるじゃないですか」
「あの子にもどら焼きあげたからね」
雲雀からも菓子を巻き上げる辺り、大した子供だと骸は自分達を棚に上げて感心する。
「で、その子供に君達が何の用だい?」
「言付けがありまして」
「あのこをさがしてるひとにあったの」
「そう」
それぞれ答えた骸とクロームに向けひとつ頷いて、雲雀は廊下の奥を指差した。
「ついさっき、向こうへ走っていったよ」
「有難うございます」
「あの子供…………昔のアレに、似てるんだよね」
二人から子供の消えた方向に視線を向け、雲雀はぽつりと呟く。
「……昔?」
「こっちの話。ほら、また見失う前に早く追いかけな」
急かされ、二人は雲雀の指差す方へ駆け出した。

7.ちっちゃいいきもの
「向こうに行った、と雲雀恭弥は言っていましたね」
長い廊下を進みながら、骸は確認するように言う。すぐに、傍らのクロームが頷いた。
「うん」
「いつ会ったか聞きませんでしたから…………追いつくのは難しい、かもしれませんね」
「どこ、かなあ…」
そう、話していた矢先。
「とりっくおあとりーと!」
柱の陰から何かがぴょんと飛び出し、二人にはしゃいだ声で呼びかけた。
「きゃあ!」
「おや?」
それは、二人よりも幼い子供だった。
「…………あ……おばけさんだった。ざんねんだねー」
子供はクロームと骸の服を見て、菓子をくれる側ではなく、自分と同じ貰う側だと理解したらしい。子供は眉を下げ、がっかりした様子で頭の上に乗った鳥に話しかけている。
その子供は犬耳の付いたフードを被り、頭に乗っている鳥は大きく目つきが鋭かった。
「……狼男」
「とりもいるね」
「あれは鷹ですね。……間違いないでしょう」
確信を持って骸は言った。
あれが守護者を騒がせ、両親と思しき二人組から探されている子供。
「ねえねえ、」
「なーに?」
クロームが声を掛けると、おれになにかごよう?、と狼男は可愛らしく聞いてきた。
「お父さんとお母さんが探していましたよ。帰って来い、だそうです」
「……えっ、あ!」
骸が伝言を伝える。すると子供は、はっとした様子で頭の上の鷹を見上げ、たいへん!と叫んだ。
「わかった、おれ、かえる!!」
「あ、まって」
今にも走り出しそうな子供を呼び止めたのは、クロームだった。彼女は自分の籠からマシュマロを幾つか取り出し、子供に渡す。
「あのね、おねえさんのおかし、おすそわけ」
「わーい!……あっ、おれもおすそわけ!じーさまのおかし!」
マシュマロを大盛の籠に載せた子供は、その籠から紙袋を取り出すと、それをクロームに渡した。
「いいんですか?」
骸が問うと、子供はこくこくと頷く。
「うん!じーさま、みんなでたべてっていってた!」
「ありがと」
「有難うございます」
えへへ、と照れたように笑った子供はぱっと立ち上がり、籠を大事そうに抱えて言った。
「じゃ、おれかえるね!おばけのおにーちゃんとおねーちゃん、ばいばい!」
「ばいばい」
「転ばないようにするんですよ」
「はーい」
ズボンに縫い付けられた尻尾を揺らし、元気よく走り去る子供。鷹も隣を飛んで行く。
その姿が消えた頃、根源的な疑問の解決に至っていないことに、骸は気付いてしまった。
「結局、あの子供は何者だったのでしょうか?」
「はろうぃんの、おばけ?」
クロームは山本に影響されているのか、そんな事を言い出す。
「オバケに両親がいるとは思いません……。まあ、気にしなくてもいいでしょう」
あの様子なら、子供はまっすぐに両親の元へ戻っただろう。自分達も守護者全員から菓子を巻き上げた。
「僕達も、戻りますか」
「うん。ぼすにいっぱいおはなしすることがあるね」
「そうですね。仕事が終わってなくても、守護者権限とか言っておやつにしちゃいましょう」
珍しく骸はサボりを認めるような発言をして、くふふと笑う。
すっかり重くなってしまった籠を手に、二人は笑顔で帰途に着いた。

8.おまけ。
「おとーさん、おかーさん!!」
ぱたぱたと掛けてくる子供を、両親は揃って迎えた。
「やっと帰ってきたぞコラ」
「おかえり綱吉。……ところで」
「う?」
「どこをどう回ったら、籠がそうなるんだ?」
綱吉の姿を見失う前から、籠には菓子が入っていたが、今はそれが山盛りになっている。
「おー……貰いすぎだろコラ」
感心半分、呆れ半分でコロネロは籠を覗き込む。綱吉ははしゃいだ声で答えた。
「しらないおにーちゃんたちがいっぱいいてね、おばけのおにーちゃんとおねーちゃんもいたの。みんなおかしくれた!」
「お前が見境無く強襲掛けたからだろうが」
「だって、きょうおれ、おばけだもん!」
フードの犬耳を指差して、綱吉は主張する。
否定もできず、ラルは盛大に溜息を吐いた。
「おかーさんたちもおかしたべる?」
「……煙草?」
綱吉が差し出した籠から白い紙箱を拾い上げ、ラルは眉間に皺を寄せる。
「ちょこだって。にゃんこつれたおにーちゃんがくれた」
「シガレットチョコか。つーかどら焼きまで貰ってるぞコラ」
イタリアでは珍しい和菓子を摘み上げ、コロネロはぼやく。
「きもののおにーちゃんにもらったよ」
主張した綱吉に、コロネロは首を傾けた。この屋敷でそういう人間にお目にかかったことは無い。例外的にバジル辺りが和服を持っている気もするが、それなら綱吉も初めからバジルおにーちゃんから、と答えるはずだ。
不思議に思ってコロネロは聞いた。
「……ラル、覚えは?」
「猫も和服も無い」
門外顧問でボンゴレ関係者の詳しいラルも否定する。勿論、コロネロにも覚えは無かった。
「他にはどんな奴がいたんだコラ」
「おっきいおにーちゃんたちと、うしのおにーちゃん!」
「……知らん」
「だな……。となると、どこの誰だコラ」
額に手をあて、コロネロは悩む。ラルはじっと綱吉を見つめ、確認した。
「本当に屋敷から出ていないんだな?」
「うん。おにわまでしかいかなかったよ。ね、ファルコ!」
コロネロの肩に戻ったファルコが、綱吉の言葉に同意するように鳴く。
――どうやら嘘ではないらしい。
「…………」
「…………どーなってんだコラ…」
謎は謎のままだった。
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