このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ぐんじんかぞく。


「おでかけー‼
さっきからそう繰り返して、外出用のポシェットを肩から下げてはしゃぐ綱吉。コロネロは微妙な表情を浮かべると、てきぱきと支度をするラルを向いて聞いた。
「なあラル」
「どうした?」
コロネロの方を見もせずに鞄に物を詰めるラルに、彼は首を傾げる。
「マジでツナ、連れてくのかコラ」
「ああ。おとなりが今日は留守らしい」
皆でどこかに出かけるそうだ。アバウトな情報をラルは流す。仲のいいことはよいことだな。そうお隣の家庭事情を思っても、コロネロにはまだ不安が残る。
普通の外出なら問題にしない。だが今回はそうではない。
何せ、連れていく先はアルコバレーノが勢ぞろいしている。残念ながらまともな人間の方が、少ない。というか危ないのばかりといっても過言ではない。
「大丈夫なのかコラ」
「一応奴らも身内だ。が、もしもがあったら俺は容赦しないぞ」
「そりゃあそうだが……」
綱吉に危害が加わるような事は御免だ、それはコロネロも同意しかしない。けれど、と躊躇う思考を遮られたのは、当の綱吉が彼の足に抱きついたからだった。
「ねえねえおとーさん!おでかけ、どこいくの?」
綱吉はきらきらした瞳で問いかける。余程出かけるのを楽しみにしているのだろう。
まだ三つの子供を留守番させるという選択はもちろん出来ず、コロネロはしゃがみこむと、綱吉の茶髪を撫でて答える。
「…………ちょっと遠くにだぞコラ。着くまでいい子にしてろよ」
「はーい!」
返事はいつだって元気だ。


車に揺られ、たどり着いたのは、山の奥。綱吉の見知らぬ一軒家。別荘らしい風体のそこの玄関を上がり、長い廊下を進む。両親に手を引かれ綱吉はわくわくと廊下を歩く。その先の広い部屋に入るなりよく見知った顔を見つけ、彼は歓声を上げた。
「リボーン‼」
二人の手を離れいつもと同じ黒スーツの男にいきおいよく飛びつき、軽々と抱き上げられた。リボーンの視線と同じ高さまで持ち上げられて、綱吉はにこにこと彼を見る。射抜くような鋭い視線がゆるんで、リボーンはニヒルに笑んだ。
「ちゃおッスツナ。お前も来たのか」
「うん。むくろたちがおるすだから。おれ、ひとりでおるすばんできないの」
「まだ三つだからなあ」
「あれ珍しい。連れて来たんだ」
綱吉達に気付いて、他のアルコバレーノも寄ってくる。それもやはり、見知った人間で。
「よお、チビ」
「やあ、おちびちゃん。しばらくぶりだね」
「スカル、バイパー‼」
黒いフードとライダースーツ。いつもかまってくれる大人達に綱吉はきゃっきゃと喜び、たらい回しに抱かれては撫で回される。猫かわいがり、とはこれか。置いてきぼりで繰り広げられる光景に、コロネロは苦笑する。
「人気者だな、ツナは」
「そうだな」
ラルも少しだけ笑みを浮かべて肯定する。そんな二人にリボーンは軽く手を挙げて近づき、笑う。
「いいじゃねーか、愛されてて」
大人達が見守る中、綱吉がようやく床に下ろされるとす、と白衣の人影が現れた。
「ヴェルデ!」
彼とは本当に久しい。なかなか会わない大人に、綱吉は大喜びで白衣の裾を引っ張る。ヴェルデはいつもと変わらない様子で、ポケットから小瓶を取り出すと綱吉に話を持ちかけた。
「久々だな。ああ、魔法の薬があるんだが、試してみないか?」
「う――」
綱吉が元気よく頷こうとした瞬間、ヴェルデに思い切りげんこつが落とされた。
「うちの子になにをするつもりだコラ?」
「場合によっては容赦しねーぞ」
ごごご、と夜叉か般若の殺気を背負ってコロネロとリボーンが喧嘩をふっかける。
「勿論、実験台になってもらおうと思ってね」
いけしゃあしゃあと言ってのけるヴェルデの笑みに、二人の怒気が膨れ上がる。
立ちこめる殺気に気づかないのは綱吉だけで、彼はにこにこと笑顔のまま、またかと溜息を吐いた母親に抱き上げられた。
「おかーさん?」
「向こうのテーブルに菓子がある、行くぞ」
この子供は、甘い物にたいそう弱い。勿論母親たるラルが、それを知らないはずもなく。誘惑にあっさりと釣り上げられ、綱吉はヴェルデの薬も忘れて、こくこくと頷くとラルに抱きついた。
「うん‼」
抱えられたままつれて行かれたテーブルには、見知らぬ男女。綱吉はきょときょとと二人を見て、小さな頭を傾げる。そして赤い中華服の男をまじまじと見て、聞いた。
「おにーちゃん、だあれ?」
「私は風と言います。あなたは……綱吉君ですね?」
「そうだよ!」
「大きくなりましたね」
「う?」
さらに頭が傾く。不思議そうに瞬きをして綱吉がラルを見上げれば、こんな答えが返ってきた。
「お前ががずっと小さい頃、一度だけ会ったことがあるんだ」
「首も据わる前ですから、覚えてないでしょうけど」
くす、と微笑んで風が言葉を足す。そっか、納得して今度は白いワンピースに同じ色の帽子の女性に聞いた。
「……じゃあおねーちゃんもおれのことしってるの?」
「私ははじめましてね。ルーチェよ、よろしく」
「おれ、さわだつなよしです」
保育園で正一先生に習った挨拶の言葉を言って、綱吉はぺこりとお辞儀をする。ルーチェの笑顔が深まり、彼女は綱吉にも取れるよう、菓子の載った皿を差し出した。
「綱吉君ね、よろしく。ねえ、クッキー食べる?」
「うん!」
「あら、いいお返事」
そう言ってクッキーを取った綱吉を撫でるルーチェに、昔を思い出したのかラルが曖昧な表情で問う。
「…………それは俺へのあてつけか、ルーチェ」
「そんな訳ないわよ」
そう答えて、ティーポットに新しい紅茶の葉を入れ、湯の沸くケトルを取ったルーチェに、バイパーの声が掛かる。
「僕とスカルにもお茶、頂戴」
連れだってテーブルにやってきた藍色と紫色のアルコバレーノは、そろって溜息を吐いて椅子にかけた。快諾して紅茶の葉を足し、湯を注いだルーチェは伏せられたままの三つのティーカップを見つめ不思議がる。
「……あら、リボーン達は?」
「あっちで暴れてるよ」
「近づいたら絶対に巻き込まれるぜ……」
「君は参加したらいいじゃないか、スカル」
「どうせ先輩達の盾扱いだろ、それなら逃げる」
無駄に頑丈なスカルは、散々リボーン達の騒動に巻き込まれて、おとりや発破役としてパシられている。今回は幸いにも、そうなる前に退避できたらしい。
「それが妥当だな」
「飽きませんね、彼らも」
「いいじゃない。元気でなによりよ」
次第に激しさを増す争いを傍目に、温かな紅茶とルーチェ特製の菓子が振る舞われる。綱吉はラルの膝に乗ってクッキーをぱくつき、おいしいね、と笑った。つられて大人達も笑う。けれど、時折起こる爆破音。――だが誰一人、気にも留めない。
そんなミスマッチが、彼らのふつうだった。

19/25ページ
スキ