2 優しい時間

あれから数ヶ月。
夜空のような少年─コウ─と一緒に暮らしていた。というのも、コウが畑仕事を終えたついでに毎日ぼくが身を潜めている納屋に通ってもらっているので、暮らすという表現が正しいのかはわからないが。
「だから指先をほんの少し切るだけでもいいって言ってるのに」
「それじゃシオンがお腹いっぱいにならないでしょ、ほら!…痛くしないでね…」
コウは自らぼくの食糧になることを望んだ。こちらとしては非常に助かるが真意が読めない。
痛いのは嫌だと言っているし、こうまでしてぼくに血を差し出す意味がわからない。

いや わからなくは、ない。

しかしこんな幼い子供がそんな感情を抱くのだろうか?
「…ごちそうさま、ありがとう」
「どういたしまして!そうだ、今日は畑でザリガニを捕まえたんだけどね…」

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コウは優しい子だ。
柔らかな雰囲気で、優しい口調で、穏やかな声色で、それでいて元気いっぱいで…側にいると暖かい気持ちになる。
そんな彼の雰囲気にぼく自身も少し影響されてるのか、長年抱えていた不安感や緊張感がだいぶ薄れていた。
なんて、なんて愛おしいんだろう。

──そう。ぼくは、彼に恋をしていた。

「シオン?聞いてる?」
「うん、聞いてるよ」


この優しくて愛おしい時間がずっと続けばいいのにと願わずにはいられなかった。


1 出逢い
3 壊れてく