1 出逢い

体が重い。動かない。
血を飲まずひたすら歩き続けてきたせいかもう限界だった。せめて陽の光が届かないところへ移動したかったが…
「…う゛、…!」
それも叶わず、皮膚が焼かれ始め激しい痛みに悶える。

──父が目の前で焼き殺されるのを見た。
大きな柱に磔にされ、日当たりのいい所で見せしめにされたのだ。
どうやらぼくが思っている以上にこの世界はぼくたち吸血鬼に厳しいようで──

(これからぼくも、あんな風に…)

はじめは焦げるように。次に爛れて、溶けて、最後には…
──父だった何かが脳裏に過ぎった。

「…!!!」
ギュッと目を瞑った瞬間、上からばさりと大きな何かが覆い被さった。
光が遮断され つんざくような痛みがなくなり、そのままぼくの意識も落ちていった。


気がつくとぼくは暗い納屋で横になっていた。
「あ、起きた!」
声の主はぼくの横に座っていた。夜空のような青い髪に月の色の瞳をした少年。彼の横には畳まれた風呂敷がある。先ほどの大きな何かは風呂敷だったようだ。
「道端で人が倒れてたからビックリしたよ…その、大丈夫…?」
少年が何か喋っているようだったがぼくの耳には何も入ってこなかった。頭にあるのは血。
目の前に新鮮な人間がいる。若い子供、健康的な肉体をしている。汗の匂いが食欲をそそる。もう何週間も食べていない。頭が痛い。お腹がすいた、食べたい、食べたい、血が飲みたい─。

「わっ…痛、痛い!!離して…!!!」
首筋に噛みつき血を啜る。
酷く暴れるので必死に押さえつけようとしたが、体に力が入らないので逆に押し返されてしまった。
「やめて………! …」

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相手の力が緩んだので再び齧り付く。
そのまま無我夢中に、獣のように血をしゃぶりつくした。


*


「…逃げないのか?」
腹が満たされ、少年を解放した。しかし少年は逃げるどころか泣き叫ぶ事も殴りかかってくるような事もせず、その場でじっとぼくを見据えていた。
「キミ、人間じゃないよね…」
「こんなのが人間なわけないだろう。吸血鬼だ。殺すならさっさと殺せ。できないのなら大人でも呼べばいい。」
ぼくの返答に少年は驚いた表情を見せた。
「そんな事しないよ。だってキミ、悪いヤツじゃなさそうだし…キレイだし…」
「は?」
「キレイだと思ったんだ。さっきキミを引き剥がした時、オレの血に塗れたキミの顔と真っ赤な目がとてもキレイだと思って、それで…」
恥ずかしくなったのか、少年の声が尻すぼみになっていく。ぼくも少年の言葉に理解が追いつかず思わず俯いてしまった。
チラッと少年の方を見てみたら、顔が紅潮していた。どうやらさっきの言葉は本気らしい。
「…変な奴」
ぼくの言葉に少年はふわっと笑った。


2 優しい時間