ツーショット


仕事にもようやく慣れてきた最終日の三日目。

最大の難関だ。
大泣きする男の子を前にネジは柄にもなく少し慌てる。
まず何が嫌で泣いているのか確かめなくては、とネジは男の子の目線までしゃがみ込み問いかけた。

「……どうしたんだ? なぜ泣く?」

ネジの手は躊躇いがちに一瞬泳いだが、優しく男の子の小さな頭を撫でた。
男の子は大泣きしているため合間合間にしゃっくりをあげている。

「ママが…さっきのお店でおもちゃ、買ってくれなかったんだもん…!!」

ネジは大人げなく内心呆れた。

(そんな理由でか……。別の店のおもちゃの事など任務の範囲外だ…。道理でここに来た時点から親子ともに不機嫌そうだったわけだ。ここに来る前の店でも散々駄々を捏ねたのだろうな……)

ネジは本音をぐっと飲み込むと、しゃっくりをあげて苦しそうな男の子の背を摩った。

「なるほどな。少し待っていろ。オレがお前の母上に訳を聞いてみるから」

そう言うとネジは立ちあがり、近くで少々バツが悪そうにしている男の子の母親の元へ歩み寄った。

「…失礼だと承知していますが、なぜあの子におもちゃを買ってやらなかったのかお聞かせ願えますか?」

「……実は、一週間後にはあの子の五歳の誕生日でして、あの子の欲しいおもちゃはもう既に買って用意してあるんです。プレゼントだからまだ内緒にしているんです……」

母親は、子供に聞こえぬよう小さめな声で告げた。

「……なるほど。そういう事でしたか。ありがとうございます」

ネジは軽くお辞儀をすると、再び男の子の元へと戻った。
ネジは男の子の目線までしゃがみ込み、頭をぽんぽんと撫でた。

「お前は、もう少しで五歳になるんだろう?」

「……うん」

「母上は、お前がお兄さんになるのを楽しみにしているんだぞ」

「………」

「泣いてばかりいるのでは、誕生日を迎えられないのではないか?」

「……うん」

「では、笑って写真を撮ってくれるな?」

「…わかった…」

「物分りが良いな」


撮影は無事終え、後日アルバムを引き渡す旨を伝えた。

「ねえねえ、お兄ちゃん!」

男の子が小声でネジを呼んだため、ネジは男の子の目線までしゃがむと袖口をくいっと、引っ張られ男の子の顔に耳を近づける形になる。

「もしかして、たんじょうびプレゼントって、ぼくのほしいおもちゃかなあ!?」

小声でこそこそ耳打ちしてきた言葉にネジは硬直した。

(しまった…。さすがにアレでは勘づかれたか……。子供は案外目敏いのだな……)

ネジは観念したように小さな溜息をつくと、男の子にコソコソと耳打ちをした。

「ああ、そうだ…。だからもうお店でワガママ言うんじゃないぞ。あとお前の母上にはナイショにしてるんだ。いいな?」

「わかった! お兄ちゃんとぼくとのやくそくね!」

「ああ…」


その間にナルトによってお会計を済ませた母親は男の子を呼びつけた。
ナルトは、ネジと男の子が何やら楽しげに喋っていたため、最後に渡す飴玉を母親の方に預けた。
男の子は、ネジの元から離れて母親の元に駆け寄ると、飴玉を受け取って笑顔で出口の方に走った。

「またねー! お兄ちゃん!」

ネジの顔にはいつしか自然な笑みが零れていて、控えめだがしっかりと男の子に手を振っていた。


「へえー、お前ってば笑えるようになってら」

物珍しそうな顔でネジを眺めていたナルトはそう呟いた。
と思ったのもつかの間、男の子がお店から去り、ギィ…とドアが閉まるとネジはいつもの険しい表情に戻った。


────任務完了だ。




奥の従業員専用の控え室にて依頼主がお茶とお茶菓子を持って二人の前に現れた。

「二人とも慣れない業務で大変だったよね。ありがとうね」

人の良さそうなこの店の主人が二人が座るソファーの前に腰を下ろした。

「せっかくだから、提案なんだけど…記念に写真撮っていかないかな?」

「いえ……、任務ですからそんな訳にはいきません」

ネジはすかさず断りを入れるとナルトが横から「えー!」と残念がった。

「いいじゃんかよ! せっかくだし写真撮ろうぜ! な! な!?」

「オレは遠慮する……」

「オレが今回の任務のリーダーだってばよ!」

「ほお…? オレに命令するというのか」

「えー、うーん、やっぱいいや…なんかそれじゃオレがお前とどうしても写真撮りたいみたいじゃんか」

「……だ、そうです。ということで撮影は遠慮させていただきます…」

ネジがそう告げると、お店の主人は少し残念そうな顔をしたが納得してくれたようだった。
有難くお茶とお茶菓子を頂いたあと、主人に一礼をし、写真館を後にした。
三日間聞いて慣れ親しんだような気がするギィ…と木の軋む音とチリンチリンと鈴の音が扉の中に閉じ込められると、ナルトは低く唸り両手を宙に高く上げ伸びをした。


「任務完了だってばよ!」

すると、そこへ先程出たばかりの写真館に若い男性が近づいてきた。
その男性は、写真館のドアの前に立つナルトとネジの姿を認めると、駆け寄ってきた。

「もしかして、今回急遽ボクの代わりに依頼で来てくれた忍の方ですね?」

「…はい、そうですが……」

「安心しろってば、兄ちゃん! もう任務は無事完了したってばよ!」

ナルトは得意げにそう言うと、若い男性はホッとしたようだ。

「……あの、もしよろしければお礼に一枚撮らせてもらえませんか?」

男性は首に下げていた少々値の張りそうなカメラを大事そうに両手で構えてみせた。

「……分かりました。 お願いします……」

ネジは先程も断った上にさらに断わるのも、なんだか好意を無碍にしているような気になり、小さなカメラで一枚ぐらいなら…と今回は了承したのだった。
ネジが良いのならナルトには断る理由もないのでもちろん快く了承した。

「かっこよく撮ってくれってばよ!」



────後日、それぞれの家宛に現像されたツーショット写真が綺麗な封筒に入れられて送られてきた。

ネジは封筒からその写真をするりと抜き取ると、自身の笑顔にむず痒さを覚えるのだった。

一方、ナルトは写真を見てニシシっとハニカミながら笑っていた。

(……ネジってば、ちゃんと笑えてんじゃねーか)

何だかんだであの任務、楽しかったなとナルトは思うのだった。




THE END





アニボルの、アルバムに貼られてたナルネジのツーショット、どういう経緯で撮ったのかなあ…と。
どういう経緯でもいいけど、二人で撮る機会があるなら任務に関連することかなあと何となくこんな話を書いてみました。
フォトスタジオの仕事やったことないから、その辺は雰囲気で読んでください~!笑






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