ツーショット


古びたドアがギィ…と軋み、チリンチリンと鈴の音が鳴った。
本日一組目のお客様が来店した。
依頼主が言っていた通り、やはり一組目から子供連れの家族であった。ネジの顔が若干引き攣る。

「……いらっしゃいませ…」

ネジはその家族が事前予約をしていたのを受付にて確認すると、その他もろもろを確認し、さっそく衣装選びのため奥に案内した。
着付け担当の女性が、慣れた手つきで子供と接している。ネジはそれを何ともなしに眺めていた。

「この衣装なんてどうかな?」

子供の目線に合わせしゃがむ女性は、男の子に尋ねたあとすぐそばに居る親御さんにも『いかがでしょう?』と尋ねていた。
普段あまり着ることのない、派手な袴や、タキシード、小道具にその子は興味津々の様子。
あの子供はあまり人見知りするタイプではないようだ、とネジが思ったのもつかの間。

男の子は、女性が持っていた袴を掴むと、入口付近で眺めていたネジに駆け寄った。

「ねえねえ、お兄ちゃんはこの服どーおもう?」

「……あ、ああ、そうだな…。いいと、思うが…?」

上手く笑えているだろうか、ネジは心配になる。
子供は突拍子も無い行動をするからリアクションするのも大変だとネジは心の中でぼやく。

依頼主と共に撮影の準備をしていたナルト。
少し離れた撮影場所から、その様子をちらりと見たあと撮影の小道具が入った箱を手に持ったままネジのもとに来た。

「お前ってば顔こえーってばよ…。こうやって笑うんだってばよ!」

そういうとナルトは持っていた箱を床に置くと、ネジの背後に回り、おもむろにネジの両頬をむにぃ、と横に引っ張った。
眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに目を細めるネジは口元だけ歪に笑うことになる。
その様子を見ていた男の子はネジの “変顔” に、きゃっきゃと笑った。子供らしい無邪気な笑みが可愛らしい。

「オレもその袴めっちゃ良いと思うってばよ!」

なおもネジの両頬を引っぱり続けるナルトは男の子にニカッと笑いかける。

「うん! お兄ちゃんたちありがとう!!」

男の子はそう言うと、たたたっと可愛らしい足音を響かせて親御さんの元に戻った。

「ぼくこれにするー!」

親御さんも異論はないようで、他の衣装も着々と決まったようだ。


着付けが終わり、さっそく撮影に入った。
男の子は、楽しそうに撮影されている。
思ったよりも、この任務、大丈夫そうだとネジは少しだけ胸を撫で下ろす。
衣装を何着か変えて、依頼主が最高の笑顔を何枚も撮影した。
ネジは親御さんに写真を選んでもらい、後日アルバムを引き渡すと説明すると、次回の受付を済ませ、お会計をした。

「お兄ちゃん! またね!」

男の子が元気いっぱいに手を振ったため、ネジは控え目に手を振り返した。
レジにて最後に子供に渡す事になっている飴玉を男の子に手渡すと、男の子はキラキラした顔でネジを見上げた。
親御さんが男の子に『お礼は?』と促すと、
『お兄ちゃん! ありがとうございました』と深々とお辞儀をした。
その様子を見て、可愛らしいもんだなと悪い気はせず、ほんの少しだけネジは和んだのであった。


本日二組目の予約していた家族。
今回の子供は、少々手こずりそうだとネジは小さな溜息をついていた。
今はナルトがレジ番をしている。
ネジはどうするべきか思案した。
可愛らしい真っピンクのドレスに身を包んで撮影用のお化粧を施された女の子は、人見知りをしてカメラを前に全く笑わない。

その様子を見て、親のエゴで派手に着飾って無理に作った笑顔で撮影なんかして何になるんだという気にもなってきたが、任務は任務なのでネジはとりあえず子供をあやすためのおもちゃを箱から取り出した。

ドレスを着たくるくるカールヘアのお人形さん。
ネジは女の子の前につかつかと歩み寄り、目線を女の子に合わすべくしゃがんだ。
ずいっ、とお人形さんを持つ右手を女の子の目の前に突き出した。

「これを見ろ」

「……………」

女の子はなおもだんまりである。当然だ。
目の前に差し出すだけ差し出され、女の子に向けて語りかけてもくれない首のくたびれたお人形さん。
ネジはどうしたものか…と再び考え込む。

一方、ナルトは、レジから奥の方で行われる焦れったいやり取りにムズムズしていた。
ちょうど人も来ないし、来たとしても鈴の音で分かるので、ナルトはレジを離れると奥の撮影場所にやって来た。

「ネジってば、もうちょい頭使えってばよ…」

「………なんだと?」

しゃがんでいたネジは、背後にいるナルトに向かって睨みつけた。
ナルトはネジの隣まで歩み寄ると、ネジと同様その場にしゃがみ女の子の目線に合わせた。
ナルトは、お人形さんを掴むネジの右手をその上から両手で取ると、ネジの手の中でお人形さんをコミカルに動かしてみせた。

「…!」

ネジはその行動に少し、予想外だったためかドキリとしたが、ナルトはそれに構わずお人形さんに声を吹き込んだ。

『ナナちゃん、笑ってくれたら嬉しいってばよー!』

女の子は、吹き出した。

「ちがうよ! その子、女の子だからそんな言葉づかいしないんだよ」

「あ、そっかーそうだったってば……。よし、変化ッ!!」

ナルトは片手で変化の術の印を結ぶと、その場にもくもくと煙が立ちこめ、今回は流石にきちんと服を着たギャルナルトが現れた。

『ナナちゃん、笑ってくれるかなあ? お願い!』

ネジはある意味感心していた。

(……なんというか、器用だな…)

女の子は、やっと慣れてきたようで笑顔を見せてくれた。

『そのドレスかわいいね! ナナちゃんの写真いっぱい撮ってあげるね!』

ナルトはネジの手の中にあるお人形さんをなおも可愛らしくコミカルに動かすと、今度はちゃんとお人形さんらしいセリフで声を吹き込んだ。

「お姉ちゃん? もかわいいね! お名前なんて言うの?」

「うーん、ナルコだよ!」

「ナルコちゃん!! かわいいね! 変化のじゅつってどうやるの?」

「手はこうやって、あとはチャクラを練ってどろんだよ!」

「うーん、できないよ…」

「もうちょっとおっきくなったらお姉ちゃんが教えるよ」

「うん! わかった!」

ナルトは変化の術を解くと、ネジに向き直った。

「見たか! こーするんだってばよ!」

得意げになるナルトに対し、ネジは少し悔しい気もしたが今回ばかりは助けられたため言い返せず素直になる。

「……さ、参考になった…。ナルト、ありがとう」

「あー……、うんでもまあ? お前ってばその、天然ぽいしそれも含めて面白いから結果オーライだってばよ」

ナルトは勝手にうんうんと大きく頷いているが、ネジは釈然としない面持ちであった。

「……天然?」


傍から見たら、二人はシュールなコントのようだった。

女の子は楽しそうに何着か衣装や髪型を変えては、最高の写真を撮った。
お会計を終え、ナルトは女の子に飴玉を手渡す。

「ありがとう! あとあの髪の長いお兄ちゃんにも面白かったよって言っといてね!」

女の子は勝気で可愛らしい顔で、ナルトに言った。

「ああ! 伝えとくってばよ!」


to be continued…

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